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本誌編集長・宇野常寛による連載『汎イメージ論 中間のものたちと秩序なきピースのゆくえ』。「超主観空間」をコンセプトとして掲げるチームラボの作品が、いかにして人間と世界との境界線を乗り越えていったのか。代表である猪子寿之さんの発言を振り返りながら、人間を自由にしようとするそのコンセプトを宇野常寛が分析します。(初出:『小説トリッパー』 秋号 2017年 9/30 号

7 人間と世界との境界線を無化する

 人間と世界、具体的には自身以外の事物との間の境界線を融解させること、それは「超主観空間」をコンセプトとして掲げるチームラボにとっては、その極めて直接的な追求に他ならない。人間と世界、人間と事物、鑑賞者と作品、つまり虚実の境界線を融解させること――チームラボはその初期から日本の伝統的な絵画を情報技術でアップデートすることによって、鑑賞者自身がその絵画の登場人物と同一化しているような錯覚を与える(横スクロール画面におけるマリオへの感情移入)作品を反復しているが、二〇一六年前後からはその延長線上に立体物、あるいは空間を用いた作品を立て続けに発表している。

 たとえば二〇一五年の〈Floating Flower Garden; 花と我と同根、庭と我と一体〉は、本物の生花で埋め尽くされた空間として鑑賞者の前に登場する。しかし鑑賞者が近づくとモーターで制御された花たちは上昇を始め、鑑賞者の移動に合わせて半球状のドームが生まれていく。あるいは、同年のチームラボの代表作の一つ〈クリスタルユニバース/Crystal Universe〉は、無数のLED電球の配置された空間において鑑賞者がスマートフォン上のアプリケーションを操作することで、様々な光の彫刻を再現するインタラクティブな作品だが、鑑賞者は自在に変化するこの光の彫刻を操作するだけではなく、その彫刻の中に侵入することができる。

 これらの作品はいずれも、猪子の唱える超主観空間を平面から立体に、二次元から三次元に、目で見るものから手で触れられるものにアップデートしたものだ。そして、猪子たちがつくりあげたデジタル日本画が鑑賞者の没入を誘うように、これらの立体作品もまた私たちを没入させる。もちろんこの没入は物理的に作品の内部に侵入できる、という形式にとどまらない。もっと、本質的なものだ。ここで猪子が試みているのは、モノ(事物)の中に直接入り込むという通常は成立しない体験を鑑賞者に与えることだ。絵の中に入り込み、その登場人物のひとりになりきって作品を内部から鑑賞することを可能にするのがチームラボの平面作品なら、事物の中に入り込むことを可能にするのが、チームラボの立体作品なのだ。


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