本誌編集長・宇野常寛の連載『京都精華大学〈サブカルチャー論〉講義録』、今回は富野由悠季(当時は富野喜幸名義)の初期作品が登場します。衝撃的な結末を迎えた『無敵超人ザンボット3』、そして、リアリズムを持ち込むことでロボットアニメに革命を起こした『機動戦士ガンダム』について語ります。(この原稿は、京都精華大学 ポピュラーカルチャー学部 2016年5月13日の講義を再構成したものです /2016年9月2日に配信した記事の再配信です)。
ロボットアニメにリアリズムを持ち込んだ『無敵超人ザンボット3』
『マジンガーZ』で男子児童文化の主役に踊り出たロボットアニメは、様々なかたちで発展を遂げていきます。たとえば1974年放映開始の『ゲッターロボ』では合体ロボが登場します。合体ロボットの初出はおそらくは『ウルトラセブン』(1967年放映開始)に登場したキングジョーという宇宙人の合体ロボットだと思うのですが、『ゲッターロボ』は同じ永井豪を原作とする(作画を担当した石川賢のカラーが強い作品ですが)『マジンガーZ』の「乗り物としてのロボット」というコンセプトにこの「合体」という要素を取り入れたわけです。3機のマシンが合体し、空戦用には「ゲッター1」、陸戦用には「ゲッター2」、海戦用には「ゲッター3」というかたちで3種類の形態に変形するんですね。『ゲッターロボ』は、この変形がカッコいいということで人気を博したんですが、同時に「おもちゃできちんと再現できない」という壁にもぶつかりました。
ここを突破したのが1976年放映開始の『超電磁ロボ コン・バトラーV』で、劇中のイメージに近い変形合体が再現できるおもちゃを作ることに成功して、これが大ヒットします。ちょっとオープニングの映像を見てみましょうね。はい、『コン・バトラーV』は5体の戦闘メカ、戦闘機や戦車が合体してひとつのロボットになります。『マジンガーZ』と同じ水木一郎さんが主題歌を謳っています。そしてやっぱり、内蔵している武器の名前をずっと叫んでいます(笑)。
70年代半ばから後半にかけてのロボットアニメブームはおもちゃの進化とともに拡大して、ジャンルとして完全に定着します。基本的には30分の玩具コマーシャル的なロボットプロレスが反復されるのですが、ジャンルの拡大の中でその制約を逆手にとってアニメの表現の可能性を広げよう、という動きも出てきます。
『コン・バトラーV』の翌年、1977年に『無敵超人ザンボット3』というアニメが登場します。この少し前に、手塚治虫の設立したアニメ制作会社「虫プロダクション(通称:虫プロ)」が倒産してしまい、その残党たちが設立したのが「サンライズ(当時は日本サンライズ)」という制作会社です。そのサンライズが初めての自社企画として制作したのがこの『ザンボット3』でした。さっそくオープニングを見てみましょう。
▲『無敵超人ザンボット3』
『ザンボット3』はいとこ同士3人が合体ロボットに乗って戦うアニメです。ザンボットに乗る神勝平(じんかっぺい)・神江宇宙太(かみえうちゅうた)・神北恵子(かみきたけいこ)の3人とその家族を「神ファミリー」と呼ぶんですが、彼らは江戸時代に地球に逃げてきた宇宙人「ビアル星人」の子孫であるという設定です。なぜ逃げてきたかというと、ガイゾックという別の宇宙人に自分の星が攻め滅ぼされてしまったからです。逃げてきたはいいけど、そのうち地球もガイゾックに襲われる可能性が高いから、ビアル星人たちは300年のあいだに戦闘用ロボットを開発しながら戦いに備えていた。そんななかで、ついにガイゾックが地球侵略を開始します。そこで神ファミリーの3人は地球を守るために、ロボット「ザンボット3」に乗って戦います。
ここまではいいでしょう。これまで見てきた作品に比べて多少複雑な設定かな、と思う程度だと思います。
しかしここからが面白い。なんと、地球人たちは自分たちのために戦ってくれている神ファミリーを「お前たちが地球に逃げ込んできたせいで俺達が襲われるんだ」と言ってとことん迫害するんですね。
神ファミリーからすると「地球を守るために戦っているのに、なんでいじめられなきゃいけないんだ」と思いますよね。もともと友達だった奴らからもいじめられて、石投げられるどころか家代わりの移動要塞に爆弾を仕掛けられたりするんです。ザンボット3が地球を守るために敵のロボットと戦っていると、お巡りさんがやってきて道路交通法違反で取り締まられたりもします。全23話の話ですが、15話くらいまでずっとそういう話で、非常に陰湿な印象を受けると思います。
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