【配信日変更のお知らせ】
毎月第2水曜日更新の古川健介さん『TOKYO INTERNET』は、諸般の事情により今月は配信日程を変更してお送りいたします。楽しみにしていた読者の皆さまにはご迷惑をおかけしますが、次回の更新まで今しばらくお待ち下さい。

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80年代以降の日本の音楽を「V系」という切り口から問い直す、市川哲史さんと藤谷千明さんの対談連載『すべての道はV系に通ず』。今回は、現在公開中のX JAPANのバンド・ヒストリーを追うドキュメンタリー映画『WE ARE X』を取り上げます。(構成:藤谷千明)
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▲『WE ARE X』劇場パンフレット
映画公式サイトはこちら

〈雑誌〉の機能を代替し始めた音楽ドキュメンタリー

藤谷 今回は市川さんたってのご希望として、番外編的にX JAPANのドキュメンタリー映画『WE ARE X』について語りたいと思います。

市川 こらこら誰のたっての希望だよ(馬鹿負笑)。

藤谷 (無視)この『WE ARE X』、初週の興行収入は3日で7432万円、ランキングは初登場10位とロックバンドのドキュメンタリー映画としては非常に良い滑り出しでした。「キネマ旬報」によると3〜40代の女性が中心とのことです。邦楽ミュージシャンのドキュメンタリー映画は「2週間限定上映」的な短期間公開のものも少なくないわけですけど、つまり短期間の間に劇場まで足を運んでくれる、DVDになったら購入するコア層に向けた映画ということですよね。この作品は3月に公開されて以降今でも局地的ではありますが上映が続いているのも、異例です(編注:東京や大阪では終了しているものの、それ以外の地域では上映が続いています。詳細は映画公式サイトの劇場情報をご覧ください)。《サンダンス映画祭》をはじめ各国の映画祭にも出品され、台湾やタイでの上映も決まっているそうです。

市川 私は映画の存在をすっかり忘れていて、藤谷さんのメールで想い出したのが3月末。慌てて観ることにしたけど、もはや近場では大阪ぐらいでしか上映しておらず。それも一日1回の上映でしかも朝の8時20分スタート――週イチで教えてる女子大がある神戸から、「何が哀しくて月曜の早朝から、サラリーマンで満員の阪急電車に揺られ梅田まで行かなきゃならんのか」という。よりにもよって『WE ARE X』を鑑賞するために(醒笑)。

藤谷 それはそれはお疲れ様でした(←おざなり)。

市川 うわ、心ねぇぇ。ま、これはこれで私にとってはXに相応しいシチュエーションではあったんだけどね。

藤谷 では『WE ARE X』本編の話に入る前に、まずは現在の音楽ドキュメンタリー映画にまつわる状況を整理させてください。

市川 <無敵の議事進行マシーナ>と化しております。

藤谷 <ましーな>?

市川 ん、<マシーン>の女性形。適当に思いついた造語だから人前で遣っちゃ駄目だよ、きみが恥かくから。

藤谷 ……近年、映画会社はODS(other digital stuff=非映画コンテンツ。映画館で上映される映画以外のコンテンツのこと)に力を入れており、ゼロ年代以降コンサートのライブビューイング中継やドキュメンタリー映画の上映が増えています。例えば『DOCUMENTARY of AKB48』シリーズや『Born in the EXILE ~三代目 J Soul Brothersの奇跡~』もODSですね。

市川 うん。2011年から毎年公開されている<ODSの先駆け的存在>AKBシリーズに関して言えば、「総選挙やフランチャイズ化ばっか目立つけど、AKB48はこれだけ必死で頑張ってるんです!」的なCI戦略だよね。泣いたり倒れたり挫けたりいがみ合ったり励まし合ったり、のあの戦場ドキュメント感は。

藤谷 ジャンルを邦楽ロックバンドに絞りますと、2010年公開の『Mr. Children / Split The Difference』、『劇場版DIR EN GREY -UROBOROS-』あたりから増え始め、12年に『劇場版 BUCK-TICK ~バクチク現象~』、14年にはSEKAI NO OWARI『TOKYO FANTASY』とか、『Over The L' Arc-en-Ciel』、15年にはhideの生誕50周年を記念して制作されたドキュメンタリー「JUNK STORY」も公開されています。
この<ドキュメンタリー>には大きく分けて二種類あります――「映画館でライブを追体験する」タイプのものと「雑誌のインタヴュー記事の実写版」というようなタイプのもの。『WE ARE X』はどちらかといえば後者寄りの作品ですね。

市川 かつては我々音楽評論家や音専誌が担ってきた機能が、アーティスト自前のドキュメンタリー映画で賄われるようになっちゃったね。EXILEの『月刊EXILE』みたいなもんで、第三者的視点や批評性が排除される分、アーティストの一方的な美化・神格化が過度に進行してしまった感はある。


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