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アニメが描く「青春」の現在――
『心が叫びたがってるんだ。』と『君の名は。』
(『石岡良治の現代アニメ史講義』 
10年代、深夜アニメ表現の広がり(6))
【毎月第3木曜配信】
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.10.20 vol.715
http://wakusei2nd.com

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今朝のメルマガは『石岡良治の現代アニメ史講義』をお届けします。今回は、ノイタミナ枠をはじめとした「深夜アニメ的想像力」の試行錯誤が、どのようにして『心が叫びたがってるんだ。』『君の名は。』といった2010年代の劇場版アニメに結実していったのかを辿ります。


▼プロフィール
石岡良治(いしおか・よしはる)
1972年東京生まれ。批評家・表象文化論(芸術理論・視覚文化)・ポピュラー文化研究。東京大学大学院総合文化研究科(表象文化論)博士後期課程単位取得満期退学。青山学院大学ほかで非常勤講師。PLANETSチャンネルにて「石岡良治の最強☆自宅警備塾」を放送中。著書に『視覚文化「超」講義』(フィルムアート社)、『「超」批評 視覚文化×マンガ』(青土社)など。
『石岡良治の現代アニメ史講義』これまでの連載はこちらのリンクから。
前回:複数の世代感覚を媒介することに成功した『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(『石岡良治の現代アニメ史講義』10年代、深夜アニメ表現の広がり(5))


■深夜アニメ的想像力の転換期を象徴づける『心が叫びたがってるんだ。』『君の名は。』『聲の形』

 現在、深夜アニメのマーケットが曲がり角に来ているとよく言われます。セルソフトすなわち「円盤」の売上に頼ってきた産業構造が限界を迎えているからです。このあたりはある程度、音楽産業と似た展開を辿っていて、アイドルアニメが興隆しているのも、ライブイベントとの連動が重要になっていることを物語っています。また、少し前はセルソフトの限定版にフィギュアなどのグッズが付くことが多く、今でもそうしたパッケージは多いですが、それ以上に「Blu-rayにイベント参加券がついてくる」という収益モデルが一般化しています。動画配信市場が本格的に広がってきたことも見逃せないところです。
 収益モデルが多様化している中、深夜アニメがある種の飽和を迎えているという印象も否めません。その一方で、長きにわたるスタジオジブリの活躍を経て、日本の映画産業におけるアニメ映画の存在感が非常に大きくなっていることも周知のことと思います。今世紀でいうならば、細田守が切り開き、新海誠の『君の名は。』が記録的ヒットを上げることで明らかになった、一般向けアニメ映画枠ですね。
 ただ、深夜アニメ発の想像力は、どうしても一般向けとはズレたところで展開されることが多いのも事実でしょう。アニメを多数見ている人は『魔法少女まどか☆マギカ』や『ラブライブ!』、あるいは『ガールズ&パンツァー』などの劇場版のヒットにそう違和感を覚えないでしょうし、何度も語ってきたようにライトオタクが増加していることも間違いありません。それでもやはり、「いかにもアニメ」という記号性に抵抗を覚える人も少なからずいるわけです。ノイタミナのチャレンジは、そうした状況を架橋することにありました。去年〜今年にかけて『心が叫びたがってるんだ。』『君の名は。』『聲の形』といった映画作品が注目されていることも、まさにそうした流れに位置付けることができると考えています。
 『君の名は。』のヒットについては、「ユリイカ」2016年9月号(特集=新海誠)に所収の「新海誠の結節点/転回点としての『君の名は。』」や、「サイゾー」での宇野さんとの対談(2016年11月号に掲載)でも語っていますのでそちらを参照してほしいのですが、改めて注目したいことがあります。公式が「ポスト細田守」という名称を使っており、論者によっては「ポスト宮﨑駿」とすら語る人もいますが、そちらの方向ではなく、すでに前回語っているように、新海誠が『とらドラ!』以降の超平和バスターズ組(岡田麿里・長井龍雪・田中将賀)の作風を研究した結果、キャラクターデザインに田中将賀を採用したり、いかにも深夜アニメ的なオープニングムービーが持ち込まれたりしたのではないかということです。


■『true tears』のアップデートを試みた『ここさけ』

 では改めて、深夜アニメの想像力に発しながら、『あの花』に続き一般層にも訴求した超平和バスターズ組によるアニメ映画『心が叫びたがってるんだ。』(以下『ここさけ』)について考えてみたいと思います。ネタバレ込みで語っていきますが、見た人はおわかりのように、『ここさけ』はテーマ的には事実上『true tears』の変奏になっています。ただ、多くの要素が付け加わっているので、単なるアレンジにはとどまっていません。

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▲『心が叫びたがってるんだ。』水瀬いのり (出演), 内山昂輝 (出演), 長井龍雪 (監督) (画像出典

 例えば、『桐島、部活やめるってよ』が巧みに描いたスクールカースト描写を取り入れているところが挙げられます。ただし見立てそのものはシンプルで、野球部=アメリカの青春ドラマにおけるアメフト部員というアナロジーを押し通しています。野球部員とチアリーダーのカップルがスクールカーストの頂点とされるという構図ですね。ドラマとしては野球部の田崎くんというキャラクターが鍵で、怪我によってスクールカーストの頂点から転落してしまいます。一般に(深夜)アニメの視聴者には、体育会系が普通にスクールカースト勝者として描写されると嫌悪感を感じる人がそれなりにいるわけですが、田崎くんの「転落」は、そうした抵抗感を一定程度和らげる結果につながっています。最後の展開には評価が分かれるかもしれませんが、アニメファンに人気の細谷佳正が田崎くんを演じているのも絶妙です。


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