マル激!メールマガジン 2024年12月25日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1237回)
トランプのアメリカで起きている歴史的な変化を見誤ってはならない
ゲスト:会田弘継氏(ジャーナリスト・思想史家)
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 年が明けるとトランプ政権が始動する。既に関税の大幅引き上げや百万人単位の違法移民の一斉送還、そして自分を訴追した勢力に対する飽くなき報復を公言するなど、トランプ2.0に対してはアメリカのみならず世界中が戦々恐々としている。
 トランプといえば、数々の差別発言や刑事裁判にもなっている数々の事件などのために、どうしてもトンデモ政治家とのイメージがついて回る。ジャーナリストでありアメリカ政治思想史の研究者でもある会田弘継氏は、再びトランプを選んだアメリカで起きている歴史的な変化を決して甘くみてはならないと警鐘を鳴らす。
 なぜならば、トランプはアメリカの格差や分断、民主主義崩壊の原因ではなく、その結果に過ぎないからだと会田氏はいう。つまりトランプ現象というのは、トランプ自身が引き起こしたものではなく、アメリカの歴史の必然として早くは1970年代から燻っていたところに、たまたま究極のポピュリストであり世論を掴むことに天賦の才を持つドナルド・トランプというキワモノ的キャラクターが登場したというのが、会田氏の見立てなのだ。
 それは今回の大統領選挙で民主党が負けた原因とも関係がある。本来は低所得層や労働者、少数民族の代弁者であったはずの民主党が、今やすっかり富裕層エリートのための政党になってしまった。そうした中で民主党から見捨てられ自分たちの代弁者を失ってしまったと感じる人々の怒りや絶望が新たな階級闘争に発展し、そのような分断状況を敏感に見て取ったトランプが見事なまでに不満層の支持を汲み上げることに成功し大統領選挙に勝利したのだと会田氏は言う。
 その背景にはアメリカにおける産業構造の大転換がある。1970年代以降、アメリカの製造業は急速にサービス産業に転換していった。その過程で、アメリカの工場は次々と海外に移転し、工場で働いていた多くの人々が行き場を失うことになった。
 サービス業は、金融やITなど知識集約型のエリートと、宿泊・小売・運輸などエリートのために奉仕する低賃金労働の2極に分かれるが、学歴や特殊技能を持たないかつての工場労働者たちのほとんどは、後者の低賃金労働に就くしかなかった。いや、低賃金でも職にありつける人はまだましな方で、失業した人も多かった。彼らとエリートとの間には激しい貧富の格差が生じ、低所得層や失業者の間では日に日に不満が高まっていた。
 かつての支持母体だった労働者が民主党から離れて徐々に共和党支持にシフトする中、民主党は1985年、民主党指導者会議 (DLC)を設立し、労働者に依存せず金融やIT企業と手を結ぶ新たな方針を表明した。そこで民主党はニューディール以来の党のアイデンティティを放棄し、富裕層ばかりを見ている政党になってしまったと会田氏は言う。バーニー・サンダースのようにそうした民主党の変質に異を唱える勢力もあったが、民主党の指導層はそうした勢力の挑戦を退け、エリート路線を邁進していった。
 新たに現出した階級闘争にいち早く気づき、不満層を取り込んでいったのがトランプでありトランプを担ぐ勢力だった。
 しかし、もし共和党やトランプが階級闘争における弱者の味方になろうとしているのだとすれば、なぜトランプは女性や黒人や移民など弱い立場にいる人々に対する差別発言を繰り返すのか。会田氏は、トランプの一連の暴言はトランプ現象には不可欠の要素なのだと言う。
 その理由はこうだ。トランプに票を投じる人の多くは、女性や非白人やLGBTQの権利向上は、いずれもグローバルエリートが自分たちにとって都合のいい主張をしているだけだと受け止めている。それはシリコンバレーのIT企業やウォールストリートのグローバル企業が、世界中から高い教育を受けた人材を集める必要があるため、文化もジェンダー観も宗教観も全く違う人々にうまく折り合いをつけてもらう必要があるからだ。
 しかし、生まれた時から住み慣れた地元で働き、昔ながらの生活を守りたいと思っている人々にとって、エリートが上から目線でポリティカルコレクトネス(PC)を主張するのを見ても、偏った価値観の単なる押し付けにしか感じられない。トランプが人種やジェンダーや宗教などでともすれば極端に差別的ともとれる発言を繰り返すのは、こうした人々の違和感や疎外感を代弁するためであり、そうすることで彼らの不満を自分への支持につなげていこうという意図が隠されているのだと会田氏は言う。
 だとすると、トランプ現象はもはや一過性のものではない。トランプを推すアメリカの保守思想家たちは、新しいアメリカの形についての議論を始めていると会田氏は言う。その中で例えばピーター・ティールのような新しいタイプの思想家は「われわれは空飛ぶ自動車の代わりに140語を得た」とし、製造業の発展ではなく、民主党の資金源にもなっている環境問題やITや金融業ばかりが発展し、X(旧ツイッター)に人々が振り回されている今のアメリカの発展の方向は間違っていると断じている。
 トランプ自身は自分がそうした思想のシンボルになっていることをどこまで自覚できているかは疑問だが、ティールを信奉しているイーロン・マスクがトランプ陣営に莫大な資金を提供することでトランプ2.0の立役者となり、次期トランプ政権でも入閣することが確定的となった今、これまで放置されてきた労働者たちをこれからどうするのかは、アメリカにとっても大きな政治的課題となってくる可能性が高い。
 今後アメリカが製造業を再興させることで、ITや金融分野ばかりが歪に発展してきたアメリカの社会や経済の形が、今後大きく変わっていく可能性もあるし、そのような試みが大失敗に終わる可能性ももちろんある。
 トランプはなぜ支持されるのか、その背景にはどのような歴史的・思想史的な流れがあるのか、次期トランプ政権はどのようなものになるのかなどについて、思想史家の会田弘継氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。

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今週の論点
・アメリカで本格化する階級闘争
・1970年代から始まっていた労働者階級の共和党支持
・労働者の支持を集める共和党と利権政党になり果てた民主党
・グローバルエリートの欺瞞の結果として誕生したトランプと、その先の未来図
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■ アメリカで本格化する階級闘争
神保: 今日のゲストはジャーナリストで思想史家の会田弘継さんです。来年1月20日からトランプ政権が始まりますが、聞きたいことがたくさんあり、絞りかねています。会田さんが今、トランプについて一番話したいことは何でしょうか。

会田: 一番大きいのは、右派階級闘争とは何かということです。階級闘争は左派のものだと思われていましたが、アメリカで起きているのは右派による階級闘争です。左派の人はのんべんだらりんと文化闘争ばかりしていて、気がついたら大変なことになっていたというのが今の状況です。もちろん右派階級闘争は日本でもありましたが、アメリカでも初めて本格的に起きていると思います。

 ポピュリズム運動は左右ともに起きるので、アメリカ史の中でもそういうことはあり、その中で移民排斥や人種差別的な動きが出てきます。言い方は良くないかもしれませんが、そういうエレメントが入ってくるのはナチュラルな動きです。ヨーロッパで起きていることについても、単純にこれは何なのかということをもう少し違うフェーズで捉えなければ分かりません。それはある局面だけに注目していると見えてこないものです。例えばヨーロッパにおけるソ連、あるいはマルクスなき後の階級闘争だという見方もできますよね。