橘川武郎氏:原発ではなく再エネを伸ばすことこそが国益だ
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マル激!メールマガジン 2023年3月8日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1143回)
原発ではなく再エネを伸ばすことこそが国益だ
ゲスト:橘川武郎氏(国際大学副学長)
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資源のない日本が原発回帰などという寝ぼけたことを言っている場合なのか。
岸田政権は2023年2月10日、原発の60年を超えた運転や新増設を認める「GX実現に向けた基本方針」を閣議決定した。12年前の原発事故の後に打ち出した「原発の新増設や建て替えを想定しない」としてきた従来の方針を大きく転換させたことになる。あれほどの事故を経験しておきながら、早くも原発回帰などという選択肢がありうるのか。
福島第一原発の大事故を経験した日本は、遅ればせながら2012年に電力の固定価格買取制度(FIT)を導入するなどして、再生可能エネルギーを主力電源化する基本方針を定めた。再エネの主力電源化はエネルギー基本計画の中でも謳われている。しかし、震災から12年が経った今、日本の全電源に占める再エネのシェアは先進国の中では最低水準にとどまっている。
結局、この12年間、期待したほど再エネを増やすことができず、だからといって大手を振って原発を動かすこともできないので、結果的に日本はガス、石油、石炭などの化石燃料を使った火力発電に依存せざるを得なかった。地球温暖化問題を話し合う国際会議COPで、不名誉な「化石賞」が日本の指定席となっていたのはそのためだ。そうこうしている間にウクライナ戦争が勃発し原油価格が高騰したために、日本のエネルギー価格も高止まりし、日本ではあらゆる商品の値上げラッシュが続いている。
そうした中、政府は人々の原発事故の記憶も多少は薄らいできたとでも考えたのだろうか。福島ではまだ故郷に帰還できない人が大勢いるというのに、ここに来て原発回帰などと言い出している。再エネは増やせず、値が張る化石燃料にも依存できないので、原発依存に戻るしかないという理屈だ。
しかし今こそ、日本がなぜ他の先進諸国のように再エネのシェアを増やすことができないのかを、あらためて考えるべきではないか。民主党政権下で導入されたFITの効果で、日本は太陽光発電の発電量だけは大幅に伸ばしてきた。今日、日本の太陽光発電量は世界で3番目に多いところまで来ている。
しかし、他の再エネ先進国が太陽光の他にも風力やバイオマス、地熱など多様な再エネを推進できているのに対し、日本は太陽光以外の再エネがほとんど伸びていない。また、太陽光もFITの導入当初は爆発的な伸びを見せたが、買い取り価格が下がるにつれて発電量の増加ペースは鈍ってきている。
経済学者でエネルギー問題に詳しい橘川武郎・国際大学副学長は、この先、日本が再エネのシェアを伸ばすためには、市民参加型の再エネを実現していくことが必要だと言う。ここまで日本の再エネ事業は主体がその地域とは関係のない大資本が中心で、特に太陽光発電や陸上・洋上風力発電についてはさまざまな理由から建設に反対する地域住民や漁協などとの軋轢が大きくなっていた。
ヨーロッパで普及している市民風車のように、地域住民を巻き込んで再エネ事業を進めていけるようになれば、地形的な特徴など地域住民にしか分かりづらい情報も集まりやすくなり、計画もよりスムーズに進むはずだと橘川氏は指摘する。
他にも再エネ後発国である日本は、他の再エネ先進国の成功例を参考にするとともに失敗経験を教訓にした、ベストな計画の推進が本来であれば可能なはずだ。しかし日本の一番の問題は、何をしなければならないかがわかっていても、既得権益のしがらみや政策当事者の能力不足などが原因で、それを実現できないことが多いことだ。そして、日本が合理的なエネルギー政策を実現できるか否かは、結局のところ原発の既得権益層の影響力を排除できるかどうかにかかっていると橘川氏は言う。
なぜ日本は再エネを増やすことができないのか。日本が原発回帰をしなくてすむための大前提となる再エネのシェアを増やすためには、具体的には何をすればいいのかなどについて、橘川氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・矛盾だらけの原発政策
・日本の再エネが増えない理由は「原発脳」にある
・再エネを増やすために必要なことはゲームチェンジ
・希望がもてる日本的アプローチ
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■ 矛盾だらけの原発政策
神保: 今日は2023年3月4日の土曜日、これが第1143回のマル激です。3・11が近づいているということもあり、それに関連したテーマをやりたいということで、ゲストには国際大学副学長で、エネルギー産業論がご専門の橘川武郎教授にお越しいただきました。
今ここにきて岸田政権が、「GX実現に向けた基本方針」に原発政策の転換を盛り込みました。これが「転換」かどうかについてもお話を聞きたいですが、原発回帰ともいえるような政策を打ち出したわけです。原発停止期間分の延長で60年超の運転が可能になるということですが、3・11以降10年間止まっていた原発はいくつもありますから、それらは70年まで運転が可能になります。
また、「GX実現に向けた基本方針」には次世代革新炉への建て替えによる新増設や、2030年度の電源構成に占める原子力比率20~22%に向けての再稼働推進などがあります。
2030年までの電源構成目標がどう変わってきたかを見ていきたいのですが、2015年にまず長期見通しを出した時は、水力も含めた再エネが22~24%、原子力が20~22%、天然ガスが27%、石炭が26%、石油等が3%でした。2018年に第5次エネルギー基本計画が出ましたが、ここでは2015年の時の数字がそのまま踏襲されました。
2021年10月に第6次エネルギー基本計画が出て、ここではやっと再エネが36~38%、原子力が20~22%、天然ガスが20%、石炭が19%、石油等が2%、水素・アンモニアが1%という目標設定をしました。原子力の比率はそのままで、化石燃料を減らす分再エネを増やしたというのが、2021年の基本計画です。
しかし2021年の実績については、再エネが20.2%、原理力が6.9%、天然ガスが34.4%、石炭が31.0%、石油等が7.4%です。9年間で再エネは2倍弱、原子力は3倍くらいにしないといけないことになります。その分化石燃料の依存度を減らしていくというのが今回の「GX実現に向けた基本計画」で出た中身なのですが、まずこの見通しについて先生の考えをお聞かせください。
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