マル激!メールマガジン 2022年9月28日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/)
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1120回)
日本の障害者施策は世界基準とどこがずれているのか
ゲスト:藤井克徳氏(日本障害者協議会代表)
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 国連は9月9日、日本の障害者施策に対して数々の改善勧告を出した。先月ジュネーブで開かれた国連障害者権利委員会の審査に基づいたもので、日本の障害者政策が初めて世界基準で検証されたことになる。
 障害者権利条約は、女性差別撤廃条約や子どもの権利条約と同様の人権にかかわる国際条約の一つで、2006年に国連で採択され日本は2014年に批准している。今回の勧告は、国連が日本国内の実施状況について初めて審査を行い、総括所見という形で発表されたものだ。
 今回の勧告は全体で75項目に及び、旧優生保護法の問題や、6年前に入所者19人が殺害され世界的なニュースとなった「やまゆり園」事件にも触れている。事件の背景には優生思想や能力主義的な考え方があることを指摘、そのような考え方を広めた法的責任の追及をするよう勧告している。
 ジュネーブの会議を傍聴した日本障害者協議会代表の藤井克徳氏は、国連障害者権利委員会の委員たちが、日本政府の報告と障害者団体の見解をまとめたパラレルレポートを丁寧に読み込んでいたことを評価する一方で、委員たちからの質問に対して言い訳をしているだけの政府代表団の姿勢に不誠実さを感じたと語る。障害者権利条約をてこにさらによりよい制度設計をする機会があるにもかかわらず、会議に出席した政府代表団の官僚たちは終始後ろ向きの態度だったと藤井氏は言う。
 総括所見では、日本の障害者政策がパターナリスティック(父権主義的・強い立場にある者が弱い立場にある者のために、本人の意志を問わずに介入すること)で人権を中心にした考え方になっていないことを指摘した上で、医学的なモデルが支援を必要とする人を制度から排除することにつながっているとしている。
 さらに、障害者権利条約の日本語訳の問題も指摘している。外務省の公式訳では、例えば「インクルージョン」という言葉は「包容」と訳されており、福祉分野で通常使われている「包摂」という言葉を使っていない。インクルージョンはそもそも“分けない”という意味であり、「包容」では言葉そのものに恩恵的な響きがあり個人を尊重する権利条約の考え方にはそぐわない、と藤井氏は指摘する。
 教育と精神医療では特に踏み込んだ指摘が行われている。障害のある子どもたちを分離して教育する特別支援教育をやめて統合教育を目指し合理的配慮と個別の支援を受けられるようにすることや、精神障害のある人への強制的な扱いにつながるすべての法的規定を廃止することなどを勧告しているが、これらの指摘、勧告に対し日本の各担当大臣たちは、「特別支援教育の中止は考えていない」(永岡文科大臣)「法的拘束力を有するものではないが、今回の総括所見の趣旨も踏まえながら引き続き取り組んでいく」(加藤厚労大臣)と述べるにとどまり、これをよりよい制度設計に活かそうという意欲は感じられない。
 国連で障害者権利条約の議論が始まった当初から傍聴を続け、権利条約の意義を伝え続けている藤井克徳氏と、社会学者の宮台真司とジャーナリストの迫田朋子が今回の国連勧告の意味と日本の障害者政策の現状と問題点について議論した。

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今週の論点
・社会へのイエローカードとしての障害者権利条約
・国連から日本に送られた「総括所見」の中身とは
・人権に対する感覚が薄い日本人
・明日はわが身と思えるかどうか
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■ 社会へのイエローカードとしての障害者権利条約
迫田: こんにちは。今日は9月22日木曜日、障害者の問題を取り上げたいと思います。2006年に障害者権利条約が国連で採択されて、日本は2014年に批准しましたが、障害者権利条約に則って日本の制度がどうなっているかという初めての審査が先月行われ、勧告が今月に出されたというのが、今日のテーマのきっかけです。

様々な課題が見えてきていますが、障害者政策だけではなく、日本の法制度を作っていく上での色々な課題も見えてきた、ということで今回このテーマを取り上げようと思います。

宮台: そうなんですが、この国連からの勧告は知られてないですよね。マスメディア上ではあまり話題になっていません。

迫田: はい。勧告が出たのは9月9日でした。

宮台: 今月はもう統一教会、国葬問題で揺れているので、なかなか話題にしにくいこともあるのかもしれませんが、本当は吹けば飛ぶような、「国葬儀」という名前のたかが内閣葬に比べれば、はるかに重要な問題ですね。

迫田: 今日は、日本障害者協議会代表の藤井克徳さんにお越しいただきました。藤井さんは先月の8月22、23日にジュネーブで開かれた、国連の障害者委員会による日本の審査を傍聴されましたね。

藤井: はい、「国別審査」と言ったり、日本の場合、固有に「対日審査」といった言葉を使っていました。