青山弘之氏:ウクライナを第二のシリアにしてはならない
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マル激!メールマガジン 2022年8月10日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/)
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1113回)
ウクライナを第二のシリアにしてはならない
ゲスト:青山弘之氏(東京外国語大学教授)
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ウクライナ情勢はまずい方向に向かっているのではないか。
ロシアによるウクライナ侵攻から半年が経とうとしているが、日々伝わってくる戦況は、一進一退を繰り返しながら、戦力に勝るロシアが徐々に支配地域を拡げているというものだ。しかし、アメリカから新しい武器の供与があると、一時的にウクライナが失地を回復するなど、以前にこの番組でも指摘したとおり、この戦争の帰結がもはやアメリカ次第になっていることが、日に日に明らかになってきている。
元々年間の軍事費で10倍以上の差があるロシアとウクライナではまともな戦争にはならないところを、アメリカがウクライナに武器を供与することで、その軍事力の差を埋めている。それがこの戦争の当初からの実情だった。しかし、紛争勃発後のアメリカの対ウクライナ軍事援助は既に165億ドル(約2兆円)に達しており、それはウクライナの年間軍事予算59億ドル(約6,000億円)の3倍に当たる金額だ。もはやこの戦争がロシア対アメリカの代理戦争であることは誰の目にも明らかではないか。
残念ながらアメリカにとってこの戦争は、自ら兵力を送ることなく軍事産業を潤すことができ、同時にロシアを弱体化させることができる「理想的な戦争」だ。今後、アメリカ国内の世論がよほど大きく変わらない限り、アメリカはロシアとの全面衝突は避けつつも、ウクライナが負けない程度に絶妙な軍事支援を続ける可能性が高い。つまり、アメリカは意図的に戦闘状態を長引かせることができる立場にいるのだ。
アラブ政治が専門の青山弘之東京外語大学教授は、昨今のウクライナ情勢とオスマントルコ時代から欧米の列強がシリアに対して繰り返し行ってきた介入との共通点を指摘した上で、分裂国家としての運命を辿ったシリアの運命がウクライナにも降りかかることへの懸念を露わにする。
多くの人種、宗教、宗派が存在し、多様な文化が集うシリアは、それ自体がシリアに空前の発展をもたらした原動力だった。しかし、ヨーロッパからアジアやアフリカへ抜ける交通の要衝となるシリアの支配権を維持したいイギリス、フランス、ロシアの列強は、その多様性を逆手に取り、人種・宗派間の対立を煽ることで、クリミア戦争やバルカン戦争などを仕掛け、シリアの分断ならびに弱体化を図った。その結果、度重なる代理戦争の舞台となったシリアの国土は焦土と化し、国家は常に分裂状態に陥ることとなった。
ウクライナの場合も、ソ連崩壊後、ロシアと隣接する東部2州では、人口で多数を占めるロシア系住民が、ウクライナ人から差別を受けたり迫害されるなど、国内に人種・民族問題の火種を抱えていた。さらに東部では、今や対ロシア戦の英雄のような扱いになっているアゾフ連隊がネオナチ的な活動を繰り広げており、それがロシアがウクライナに介入する絶好の口実を与えていた。
ウクライナはシリアのようなヨーロッパからアジア、アフリカへ通じる交通の要衝とは異なるが、ヨーロッパとロシアの緩衝地帯という意味で、特にロシアにとっては戦略的に重要な意味を持っている。ロシアがウクライナ国内のロシア系住民の支援を口実に介入したのに対し、アメリカを中心とする西側陣営がウクライナ政府をバックアップすることでこれに応戦し、そこにシリアと同じような代理戦争の構図ができあがっていったのだった。
依然として軍事費ではアメリカの圧倒的優位は揺るがないが、経済力や軍事力を背景に一部の「列強」が勝手気ままに振る舞える時代は、もはや過去のものとなっている。ただ、少なくとも現状では日本にとっての国際社会はあくまでG7に限定されているようだ。そのような立場から、ウクライナの軍事的支援を支持し続けることが正しい道なのか、ひいてはそれが本当にウクライナの利益につながるのかについて、日本のような紛争当事者ではない国では、もう少し冷静な立場から議論があっていいのではないか。
今回はウクライナのシリア化を懸念する青山教授に、どのような歴史を経てシリアが現在のような分断国家となってしまったのかや、ウクライナが同じ道を歩んでいることが懸念される理由などを問うた上で、日本にどのような選択肢があるのかなどについて、青山氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・シリアの状況と酷似したウクライナ情勢
・列強が国の利権を分け合い、バランスする代理戦争
・態度を変えられないゼレンスキーがノイズになる
・ここに至っても我が事化できない日本
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■シリアの状況と酷似したウクライナ情勢
神保: ロシアのウクライナ侵攻が始まったのが2月24日で、今月で半年になります。相変わらず一進一退のような話になっていますが、僕は実は非常によくない状況が起こっていると思いまして。侵攻直後は、日本人が最も感情的に反応し、アメリカより、さらにウクライナ寄りだった。そんななかで半年が過ぎ、冷静に見なければならないものを見られるタイミングなのではないかということで、このテーマを選びました。
ゲストは東京外国語大学の教授で、シリアやアラブ世界の政治がご専門の青山弘之さんです。7月末に岩波書店から『ロシアとシリア ウクライナ侵攻の論理』という本を出されており、ウクライナがこのままではシリアのようになってしまうのではないかと書かれています。ウクライナとシリアではまったく状況が違うだろうと、多くの人が考えていると思いますが、総論的になぜ、ウクライナがシリアのようになる、とおっしゃっているのでしょうか。
青山: 端的にいうと、いま私たちはウクライナとロシアによる2国間の戦争のように捉えていますが、ただ少し俯瞰してみると、それ以外の国際政治の主要なアクターがガッツリ入ってきているんです。近代史のなかでは常に、いわゆる代理戦争というものが行われており、最初はウクライナが主役だったが、いつの間にか周りにいる強い国が、混乱に乗じてさまざまな利権を得ようとしている。その構図が、2011年から始まったシリアの内戦と非常に似ているんです。
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