木下洋一氏:日本は難民を受け入れない国から難民を送り返す国になるのか
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マル激!メールマガジン 2021年5月19日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1049回)
日本は難民を受け入れない国から難民を送り返す国になるのか
ゲスト:木下洋一氏(元入国管理局職員、未来入管フォーラム代表)
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日本は「難民の地位に関する条約」(通称:国連難民条約)のれっきとした批准国だ。条約に基づき、人種や宗教、国籍、政治的な意見のため母国で迫害を受けるおそれがある人が保護を求めてきた場合、これを保護する義務がある。しかし、日本は世界の中でも異常といって差し支えがないほど難民受け入れのハードルが高い。ちなみに「移民」受け入れの是非はそれぞれの国の政策判断だが、「難民」の受け入れは国際条約上の義務だ。もし難民を受け入れたくなければ、条約から脱退するしかない。
ところが日本には、どうやら世界とは異なる独自の難民の定義があるようだ。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)によると、2018年、1万9,514人の外国人が日本に難民申請を行ったが、条約上の難民として認定されたのは42人で、認定率(申請者に対する認定者の割合)は0.22%だった。これがどれだけ国際基準から逸脱しているかというと、例えば同じ年、アメリカは30万9,083人の難民申請者に対し認定された難民が3万5,198人(認定率=11.4%)、イギリスは5万2,575人に対し1万2,027人(認定率=22.9%)、ドイツは31万9,104人に対して5万6,583人(認定率=17.7%)、フランスは18万2,267人に対し2万9,035人(認定率は=15.9%)だった。日本は数にして欧米の数千分の1、認定率でも数百分の1程度しか難民を受け入れてきていないのだ。
そもそも極端に低い認定数や認定率も大いに問題だが、日本政府から難民申請を却下された99.9%超の外国人の扱いが更に深刻な問題を孕んでいる。彼らは基本的に不法滞在者となり法務省の入管施設に収容されるが、その施設の環境が劣悪で、2007年以降17人の外国人が収容施設で死亡している。最近では収容施設での新型コロナウイルス感染症の集団発生も報告されている。また3年を越える長期収容者も多く、これもまた国連を始め国際的人権団体などから度々問題視されてきた。
ところが、その日本の入国管理制度が更に「改悪」される法案が、今にも国会で成立しようとしている。出入国管理法の改正案は現在与野党で修正協議が行われているが、その成否にかかわらず与党は早ければ来週中にも衆議院の法務委員会で採決に持ち込む構えを見せており、是が非でも今国会で改正案を成立させる腹づもりのようだ。
法務省は現行の入管法の下では政府の強制送還の権限が弱いため、難民として認定されなかった外国人がそのまま不法滞在者として国内に残ってしまう。結果的に入管の収容施設に収容されている不法滞在者の数が、3000人を越える事態となっているという。そのため、今よりも容易に強制送還が可能になる制度に変える必要があるのだと、法務省は改正案の立法趣旨を説明している。
具体的には現行法の下では難民申請者が何度申請を却下されても、申請を繰り返しているうちは本国への強制送還はできないことになっているところを、3回難民申請を却下された外国人については強制送還が可能になる。
そもそも現行法の下で難民認定を申請して外国人を強制送還できないのは、難民の可能性がある外国人は本国で迫害される恐れが否定できないので、仮に自分が難民であることが証明できていなくても、そのような恐れがある外国人を本国に送り返してはならないという、難民条約の趣旨に沿った制度になっているに過ぎない。ところがこの改正案が成立すれば、本当の難民を命の危険に晒す恐れのある本国に送り返してしまう危険性が大幅に増してしまう。
また、今回の改正案では、これまで国際社会から繰り返し指弾されてきた日本の入管法の問題点は、実質的に何ら改善されていない。そこにさらに難民の本国への強制送還をより容易にする改正が行われてしまえば、日本の入管制度のみならず、日本の人権感覚に対する信頼は根本から損なわれることは必至だ。
入国管理局の入国審査官として18年間入国管理行政に携わってきた木下洋一氏は、自身の経験から、入国管理に関わる裁量が入国管理局に一手に握られ、裁判所を含めた外部からのチェックが全く入らない仕組みになっているところに日本の入管行政の根本的な問題があると指摘する。また、外部からチェックを受けない入国管理局内では、多くの難民を認定する審査官よりも、厳しい審査を行い申請を却下する審査官の方がより評価される価値基準が支配的なのだと語る。
日本は難民を母国に強制送還することで、彼らの生命を危険に晒す国になってしまうのか。そもそもなぜ日本はこうまで難民を受け入れようとしないのか。にもかかわらずなぜ日本は難民の保護を義務づける条約には加盟しているのか。入国管理のあり方に疑問を持ち、2年前に入管を退職し、今は不法滞在外国人の支援をする団体を主宰する木下氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・在留者に不寛容な「入管マインド」
・先進国で圧倒的に少ない、日本の難民受入数
・国連が指摘する、日本の入管制度の問題点
・やはりパブリックという概念がない日本独自の問題か
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■在留者に不寛容な「入管マインド」
神保: 今回は日本の難民問題をテーマにお送りします。今国会で出入国管理法の改正案が提出されましたが、こういうことをきちんと落ち着いて議論するような舞台設定ができていないときにやってしまっていいのか、ということも含めて考えていきたい。宮台さん、最初に何かあれば。
宮台: 日本は是々非々で議論をするということがもはやできなくなっています。既にあるものを変えられないどころか、より悪くなる方向に変えてしまう。検察の火事場泥棒のような動きもそうでしたが、最も重要なのは、長期的な国益を考える人がいないということです。
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