後藤逸郎氏:誰がそうまでしてオリンピックをやりたがっているのか
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マル激!メールマガジン 2021年5月12日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1048回)
誰がそうまでしてオリンピックをやりたがっているのか
ゲスト:後藤逸郎氏(ジャーナリスト)
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日本の権力の中枢には、何があってもオリンピックだけはどうしてもやりたい人がいるようだ。
緊急事態宣言の延長を発表した5月7日夜の記者会見で、菅首相から7月24日に開幕が予定されている東京オリンピック・パラリンピックの開催を再考する姿勢は微塵も見られなかった。再考どころか、むしろ「何としてでもオリンピックだけは開催したいので、この際、緊急事態宣言の延長もやむを得ずと判断した」とでも言いたげな発言が目立った。何があっても五輪開催だけは譲れないというのが、現政権の姿勢のようだ。
東京や関西圏では感染者が急増し医療状況は逼迫している。しかも日本はワクチンの接種が中々進まず、未だに人口の1%程度しか接種を受けられていない。これは先進国の中では断トツで最下位だ。そんなところで今から2ヶ月半後には、世界の200を超える国と地域から1万1000人を超えるアスリートと5万人を超える関係者が一堂に会する世界最大の国際イベントを無理矢理開催しようというのだ。これはもう異常としか言いようがないではないか。世論調査によるとホスト役となる日本国民も7割が五輪の開催には否定的で、国際的にもこの状況下で五輪を開催する日本に対して「無責任」との批判が高まっている。このような状況下で一体誰がそうまでして五輪を強行したがっているのだろうか。
元毎日新聞記者で著書に『オリンピック・マネー 誰も知らない東京五輪の裏側』などがあるジャーナリストの後藤逸郎氏は、綿密な取材に基づき五輪の背後にある利権構造を解き明かす。どうしても五輪を開催したい人がいるのだ。
日本政府は五輪開催の是非はIOCに決定権があるというが、後藤氏によると、そもそもIOCは無観客であろうが何であろうが五輪が開催されテレビ放映権料が入れば十分に儲かる仕組みになっている。加えてIOCにはTOP(ザ・オリンピック・パートナー)と呼ばれるグローバルスポンサーからのスポンサー料(これも非公表だが1社数百億円とされる)が入る。IOCの2013年~2016年のTOPスポンサーからの収入は10億ドル(約1053億円)にのぼる。東京大会のTOPにはコカコーラやGE、インテルなどの世界に名だたる有名ブランドに、日本からブリヂストン、パナソニック、トヨタなどが名を連ねる。
IOCは収入の90%を各国のオリンピック委員会や国際競技連盟などに支援金として支出し、10%を自分たちの収入にしているだけというが、実際の財務や役員報酬などはいずれも非公開だ。IOCは法律的にはスイスの国内法に基づくNPOという位置づけにあるため、スイスの法制・税制から守られ、財務や報酬の公開を義務づけられていない。しかもバッハ会長を始めとするIOCの理事はIOC傘下にある財団やOBSなどの数多ある子会社、関連会社の役員も兼務している。まず、五輪の主催者であるIOCが、どうしても東京大会を開催したい立場にある。
放映権料は丸ごとIOCに持っていかれる構図になっているが、JOCにとっても東京大会はゴールドスポンサーからオフィシャルサポーターまで3段階のスポンサー群が設けられており、国内スポンサーからの収入だけで3,000億円からの収入をもたらす。
しかし問題は2013年に五輪を招致した段階では、「コンパクトな五輪」を標榜していた東京大会の予算が、いつのまにか1兆6000億円まで膨れあがっていることだ。最終的には1兆円近くになる赤字分は第一義的には開催都市の東京が穴埋めすることになっているが、国が債務保証をしているため、都が負担できない分は、結局は税金で補填されることになる。しかも、日本は大会経費以外にも国立競技場やその他の施設建設費などで、国と都で合わせて既に五輪のために1兆円を超える財政負担をしている。当初7,340億円で開催できるはずだった東京大会が、最終的には何と3兆円を超える財政負担を生んでいるのだ。
しかし、一番の問題はこれだけ多くの問題を抱えた五輪の大会やIOC、JOCなどの利権構造を、既存のメディアがほとんど報じようとしないことだ。結局のところ五輪はメディアにとっては最大のキラーコンテンツだ。新聞にいたっては驚いたことに読売、朝日、毎日、日経の4紙は、自分たち自身が東京大会のオフィシャルパートナーとして大会のスポンサーに名を連ねている。メディア自身が自ら進んで利害当事者になっているようでは、五輪に関する中立的な報道など期待できようはずもない。
五輪大会は医療体制にも多大な負荷をかける。先週、五輪組織委が日本看護協会に大会期間中の500人の看護師の派遣を要請しているころが明らかになったのに加え、今週は同じく200人のスポーツドクターも募集していることがわかった。五輪の大会期間中は、元々脆弱な日本の医療体制が更に手薄になることが避けられない。このような状況下でどうしても五輪開催を強行するのであれば、菅政権そしてIOCと組織委は、コロナに感染して十分な医療のケアを受けられないがために病状が悪化したり死亡したりする人を、大会期間中に一人たりとも絶対に出さないことだけは保証してほしいものだ。
ジャーナリストの後藤氏と、なぜそうまでして五輪を開催しなければならないのか、誰が何のために五輪開催を強行しようとしているのか、その結果、国民にはどのようなツケが回ってくるのかなどについて、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・感染対策が見えない東京オリンピック
・誰がそうまでしてオリンピックをやりたがっているのか
・オリンピックを中止すべき7つの理由
・商業主義で変わり果てたIOCと、スポンサーの責任
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■感染対策が見えない東京オリンピック
神保: 今回はオリンピックがテーマですが、新型コロナウイルスのワクチン接種がいよいよ始まるということで、まずはその話をしたいと思います。ゲストは元毎日新聞の記者でジャーナリストの後藤逸郎さんです。
日本はワクチンの接種が非常に遅れており、世界の新規感染者率を見ると、あのイギリスが実は日本とほぼ同じくらいまで来ています。注目したいのは、人口の少ないイスラエルはまた別として、なぜアメリカやイギリスが一斉に接種できたか。日本でどれくらい知られているかわかりませんが、イギリスは1月、アメリカは3月に法改正を行い、医師を筆頭に、理学療法士、医学生、看護師、整体師、足病医、管理栄養士、作業療法士、視能訓練士、義肢装具士、放射線技師、またスピーチ・アンド・ランゲージセラピストまでが打てるようにしたこと。特に大きかったのは、薬剤師が薬局で打てるようにしたことで、だから接種が一斉に進んだんです。日本では、きちんとした医師がいる場に限り、歯医者さんも打っていいということになりましたが、これも相当、七転八倒だったようです。というのも、その間、歯科医としての仕事ができなくなるからです。
宮台: 機会費用が生じるというやつですね。
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