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田辺文也氏:なぜわれわれは福島の教訓を活かせないのか

2017/03/15 20:00 投稿

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マル激!メールマガジン 2017年3月15日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/
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マル激トーク・オン・ディマンド 第831回(2017年3月11日)
なぜわれわれは福島の教訓を活かせないのか
ゲスト:田辺文也氏(社会技術システム安全研究所所長)
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 2017年3月11日、日本はあの震災から6周年を迎えた。
 一部では高台移転や帰還が進んでいるとの報もあるが、依然として避難者は12万人を超え、その7割以上が福島県の避難者だ。原発の事故処理の方も、いまだにメルトダウン事故直後の水素爆発によって散らばった瓦礫を取り除く作業が行われている状態で、実際の廃炉までこの先何年かかるかは、見通しすら立っていない。
 ここに来て、新たに重要な指摘がなされている。それは、そもそも事故直後の対応に大きな問題があったのではないか、というものだ。
 原発の安全を長年研究してきた田辺文也・社会技術システム安全研究所所長は、日本の原発には炉心が損傷する最悪の事態までを想定して3段階の事故時運転操作手順書が用意されており、ステーションブラックアウトの段階からその手順書に沿った対応が取られていれば、あそこまで大事故になることは避けられた可能性が高いと指摘する。
 事故時運転操作手順書には事故発生と同時に参照する「事象ベース手順書」と、計器などが故障して事象が確認できなくなってから参照する「徴候ベース手順書」、そして、炉心損傷や原子炉の健全性が脅かされた時に参照する「シビアアクシデント手順書」の3つがあり、事故の深刻度の進行に呼応して、手順書を移行していくようになっている。田辺氏は特に今回の事故では停電や故障で計器が作動せず、原子炉の状態がわからなくなってから「徴候ベース手順書」に従わなかったことが、最悪の結果を招いた可能性が高いと言う。
 以前からこの「手順書」問題は仮説としては指摘されていたが、ステーションブラックアウトに直面した福島第一原発の現場で実際に手順書がどのように扱われていたのかが不明だったために、それ以上の議論には発展していなかった。
実際に手順書の内容と事故直後に東京電力が取った対応を比較すると、東電の対応は手順書から大きく逸脱していたばかりか、「そもそも手順書の概念や個々の施策の目的や意味が理解できていなかった」(田辺氏)ことが明らかになったのだと言う。
 現在の事故時運転操作手順書は、スリーマイル島原発事故やチェルノブイリ原発事故の教訓をもとに作られていると田辺氏は言う。2度と同じような失敗を繰り返さないために、高い月謝を払って人類が蓄積してきた原発事故対応のノウハウが凝縮されているのが3段階の事故時運転操作手順書なのだ。
 たとえ手順書通りに対応していても、もしかすると福島の惨事は避けられなかった可能性はある。しかし、少なくともあの福島の事故で、事故後の対応に過去の失敗の教訓が活かされていなかったという事実を、われわれは重く受け止める必要があるだろう。起きてしまった事故は元には戻せないが、少なくともわれわれにはその教訓を未来に活かす義務があるのではないか。
 田辺氏は、今回の事故ではこの手順書の問題がきちんと検証されていないために、新たな安全基準も不完全なものになっている可能性が高いと指摘する。どんなにしっかりとした手順書を作っても、その意味を十分に理解した上で、非常時でも実行できるような訓練が不可欠と語る田辺氏と、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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今週の論点
・原発事故で手順書が正しく参照されなかった理由は、やはり「安全神話」か
・福島原発の悲惨な現状と、合理性のない予算
・手順書に沿った対応をすれば避けられた可能性がある事故
・原発再稼働にかかわる保安規定認可の妥当性にも疑義あり
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■原発事故で手順書が正しく参照されなかった理由は、やはり「安全神話」か

神保: 今回は配信日が3月11日ということで、メディアはどこも震災6周年の報道をしています。ただ、どうも原発そのものの話はもうどこもあまりやっていないような印象を受けました。4月から多くの方が福島に帰れるようになる――実際に帰れるかどうかは別として、そうなるということを受け、現地からの中継などは行われていますが、原発そのものについては、もう関心がなくなってしまったのか。

宮台: おそらく今ドキュメンタリーをやれば、みんな観るでしょうし、新しい発見があれば興味を持つとは思います。しかし、多くは福一で事故が起こる前のノリに戻ってしまったのかもしれませんね。

神保:この状況で原発の危険性や問題点を取り上げる企画というのは、現政権が事実上、原発を推進しているなかで、あまり得にならないと。そういう意味では、一番ビジネス・アズ・ユージュアルに戻ったのは、社会よりもメディアということになりますね。

宮台: 東電だけでなく、日本には各地域に巨大電力会社があり、スポンサーシップの非常に大きな力を持っています。新聞社の話を聞くと、電力会社から直接クレームがなくても、営業部門が「自粛」という方向に気を使うわけですね。その意向に編集部が従う流れだと言っていました。

神保: そこもはっきりとした命令が下るわけではなく、忖度、よく言う「あうん」です。そうなると、責任がどこにも見えなくなると。
 そういうわれわれも、原発問題は度々取り上げ、いろいろやってきたつもりではありましたが、状況がまったく進まなくなってしまった。みなさんご存じかどうか、実はまだ瓦礫の撤去をしているんですよ。燃料の撤去に手を付けることすらできず、廃炉など遙か地平線の彼方の話です。線量が高く、ロボットですら壊れてしまう。
そんな状態から進まず、同じことを繰り返し取り上げてもなかなか誰も観てくれないということもあって、正直、少し手をこまねいている部分もありました。そうしたなかで、6周年にして目からうろこというか、大変な事故だったから仕方がない、ではなく、実はすべて想定されていたことなのに、想定外のことをしてしまったからこのような事態を招いたのだという指摘が出てきて驚いています。
ゲストをご紹介します。社会技術システム安全研究所の所長で、原子炉安全工学がご専門の田辺文也さんです。実は田辺さんが最近、雑誌などで指摘されているものを拝読しまして、なぜ今までその話が出てこなかったのかと思いました。その中身をお伝えする前に、これは発覚するまで5年もかかったんですか?

田辺: 実は私が最初に指摘したのは、2012年の暮れに岩波から出した『メルトダウン――放射能放出はこうして起こった』という本です。そのなかで、事故対応を誤り、格納容器(ベント)を優先して、本来優先すべき原子炉の冷却をむしろ後回しにしてしまったと指摘しました。具体的に言うと、減圧して低圧注水系で炉心冷却を確保するという手順が示されているのに、どうもそれに従っていない。そのためにその場対応になり、タイミングよく減圧、低圧注水ができなかったのではないか、という説を提示したのです。

 

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