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「Earth, Wind & Fire」(アース・ウィンド・アンド・ファイアー)

20世紀において最も成功したバンドのひとつ。モーリス・ホワイトによりアメリカで結成、1971年から現在のバンド名を名乗る。その音楽性は多岐にわたり、ローリング・ストーン誌にて「ブラック・ポップの音楽性を改変させた」と評される。
世界でのCD・レコード総売上は9000万枚以上。グラミー賞6回受賞、2000年にはロックの殿堂入りなど、その他数々の音楽賞の受賞や殿堂入りを果たしている。


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<TSUYOSHI評>

アース・ウィンド&ファイアーは、ある意味ヴィジュアル系バンドだと認識している。1980年前後のモーリス・ホワイトの見た目は、当時まだ幼かった私にはインパクトが強過ぎた。男性のはずなのに、どこかその辺りにいるおばちゃんのような面構え。その顔の上にある額の面積は異様に広く、顔の外輪を成すその髪の毛は、具志堅用高以上に大きなアフロ・ヘアー。ヒゲは顔全体を覆っているかと思いきや、口周辺のヒゲと頬のヒゲは実はセパレート。そしてタイトなキラキラのボディースーツ。はだけ過ぎの胸元。いやはや、完璧である。彼の弟であるベース担当のヴァーダイン・ホワイトも兄に負けず劣らず。一度来日公演を観に行った際に確認済みだが、ライブのはじめから終わりまで彼は嘘みたいにひたすら動き回り続けている。にもかかわらず、リズムが全くと言っていいほど崩れない驚愕のベース・プレイ。そして出っ歯なのに受け口。もう奇跡である。他の主要なメンバーもそれぞれキャラクターが立っていてとても興味深い。個人的にはこういった捉え方もエンターテインメントの楽しみ方のひとつだと思っているが、オリジナリティーに溢れた素晴らしい楽曲の数々や派手なマジックショーのようなライヴ・パフォーマンス然り、ともあれどういった面を切り取るにせよ、彼等が我々に多くの感動と喜びを与えてくれた存在であることに変わりはない。

70年代辺りから発生してきたと言われているアース・ウィンド&ファイアーのようなスタイルのセルフ・コンテインドなバンドグループは最近めっきり少なくなった。ブラック・ミュージック、主にR&Bというカテゴリーに限れば、そのスタンスで活動しているのは今はミント・コンディションくらいなものか。なによりR&Bはプロデューサーありきなジャンルだったりするので、この減少傾向は致し方ないのかもしれない。そんな中、有名どころの外部プロデューサーなどを立てず、ありとあらゆる要素を自給自足でプロデュースすることは大所帯バンドにとってはとても大変なことだったはず。だがアース・ウィンド&ファイアーの場合、途中デイヴィッド・フォスター周りが顔を出すものの、基本的にはリーダーのモーリス・ホワイトの手腕によりグループはまとまり、そして成功を収めることとなる。しかしながら、サウンド自体はメンバー各々によるプレイそのものが単にクオリティの高いものだったため、自ずとサウンドが一つにまとまり易かったのではなかろうか。

70年代中頃のメンバー構成でいうと、例えばギターのアル・マッケイとジョニー・グラハムのふたり。主にリズムギター担当のアル・マッケイは、ギターを知る人なら誰もが崇めるカッティング・グルーヴ・マスター。レコーディング音源のミックスのイコライジング具合のせいもあるが、とても柔らかで且つコシのあるグルーヴのカッティングを聞かせる。たとえフレッドとヴァーダインのホワイト兄弟によるドラムとベースのタイム感がズレたとしても、アル・マッケイのリズムギターさえあればグルーヴはキープされる。それほどアル・マッケイという人はこのバンドには欠かせない存在だった。一方、主にリードギター担当のジョニー・グラハムはそこまで器用でないながらも、たまにあるギターソロではそのルックスも相まって存在感を示していた。20年程前のある時期、私の地元である名古屋になぜかジョニー・グラハムが出稼ぎに来ていて、夜な夜なライヴハウスでギターを弾いていた。やはりギターの腕自体はそこまで器用ではなかったのだが、「名古屋にアースのギターがいる」というトピックだけで心なしか心躍った記憶がある。キーボードのラリー・ダンもサウンド面において重要視されている。当時からソロ・フレージングやパッド利用としてシンセサイザーを上手く使い、アース・ウィンド&ファイアーの”宇宙感”を示すのに一役買っている。あと、サックスのアンドリュー・ウールフォークとホーン隊の「フェニックス・ホーンズ」。歌以外の主要テーマのフレーズは大体彼らが引き受けている。ある意味ブラス・ロックと同じ役割を担っていた訳で、その存在意義はとても大きかった。さらにラルフ・ジョンソンのラテン色の強いパーカッションが加わったり、モーリスが爪弾くカリンバによってアフリカンな空気をまとわせてみたり。かくして、単なるファンクサウンドとは一線を画するアース・ウィンド&ファイアーのオリジナルなサウンドとなる。そして、ここに地声担当のモーリス・ホワイトとファルセット担当のフィリップ・ベイリーの歌声が乗っかる。テンプテーションズのデヴィッド・ラフィンとエディ・ケンドリックスが如く、最強のバンドの上でこのふたりの歌声が自在に舞い踊る訳である。

アース・ウィンド&ファイアーには土臭い曲もあれば美しい曲もあり、どの曲もとても人気が高い。『Boogie Wonderland』(http://youtu.be/god7hAPv8f0)はどうだろう。雑誌”ムー”などによりオカルトブームに湧いていた当時のここ日本においては、アース・ウィンド&ファイアーのヴィジュアルや長岡秀星によるジャケットのイラストなどによる神秘的なイメージ付けは彼等の人気をあおった追い風となっていた。そんなことを想起させる映像だったりもする。しかし、このPVを観る度いつもニヤけてしまう。だってひたすら”画”が強いですから。


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<西崎信太郎 評>

かつてDREAMS COME TRUEの中村正人氏が「私達は、あなたの作った曲をパクって日本で売れています」との告白に対し「それで良い。そこにオリジナリティを加えて、次の世代に受け渡すのが君たちの仕事。僕らもそうしてきたんだ」と答えたのは、EW&Fのリーダー故モーリス・ホワイト。DREAMS COME TRUEに留まらず、ここ日本でもEW&F、すなわちモーリスが作ったサウンドに影響を受けたアーティストは数知れず。事実、EW&Fの楽曲をオマージュした作風でヒットした曲も数知れず。何気なく耳にしていたあの曲も、もしかしたらモーリスのサウンドあってのサウンドかもしれない。もはや、モーリスの功績を目に見える尺度で計る事は困難でしょう。

そんなモーリスが、去る2月3日に逝ってしまったわけですが、一国の主であるオバマ大統領が、偉大なミュージシャンとはいえ、一個人に対して追悼のコメントを残したという背景からも、モーリスの偉大さを改めて感じとれます(彼らが同郷ということもあったかもしれませんが)。「彼らの楽曲のプレイリストは時代を越えて褪せることのないもので、今でも誕生日パーティーやバーベキュー・パーティー、結婚披露宴や家族の集まりなどで、みんなの気持ちをひとつにさせるものです」というオバマ大統領コメント、これが音楽の本当の姿ですよね。

僕が思う偉大さとは、一部の人だけが理解しえる深奥な世界を、一般層にシェア出来るポピュラリティに変換できる人。「良いけど難しい」を「分かりやすいから良い」に置き換えられる人。モーリスが作るメロディはどれもキャッチーで、だからこそ皆に愛され、そこから多くの物語が生まれたのではないでしょうか。たった1人の思想が起こした数々のドラマ。モーリスと同じ時代に生きられた事に感謝。