TSUYOSHIと西崎信太郎のR&B談義

R&Bフリーク以外は置き去りにするR&B評 第22編『Maxwell』

2016/06/26 00:04 投稿

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「Maxwell

アメリカ合衆国ニューヨーク市ブルックリン出身のR&Bシンガーソングライター。1996年にデビューアルバム「Maxwell's Urban Hang Suite」をリリース。2009年リリースの4thアルバム「BLACKsummers'night」は全米アルバム・チャート1位を獲得、翌2010年にグラミー賞で最優秀男性R&Bボーカル・パフォーマンス賞、最優秀R&Bアルバム賞の2部門を受賞した。
 



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<TSUYOSHI評>


超絶アイコンのシャーデー・アデュが在籍するバンド”シャーデー”が個人的に大好きなのだが、そこのギタリストのスチュアート・マシューマンがプロデュースした男性シンガーのアルバムが出るというトピックだけで私はそのシンガー”マクスウェル”に飛びついた。1996年発売のマクスウェルの1stアルバム『Maxwell's Urban Hang Suite』には、マーヴィン・ゲイ『I Want You』でお馴染みのリオン・ウェアや、かつてのモータウンにおいて必要不可欠なギタリストの1人だったワー・ワー・ワトソンも参加していた。その点でも物凄いトピックのアルバムであったのだが、どういう訳だかマクスウェルが出てきた同時期にはディアンジェロやエリカ・バドゥといった当時のR&Bの流行りを度外視したアーティストと一緒くたに”ネオ・ソウル”のアーティストなどと言われていた。実のところマクスウェルの場合は”ネオ・ソウル”の範疇とは異なり、バンドサウンド全盛の80年代R&Bの影響が色濃い。リオン・ウェアが絡んでいる「Sumthin' Sumthin’」は、いくらリオン・ウェアが携わっているとはいえ、結局パトリース・ラッシェン「Forget Me Nots」ありきな気がするし。1stシングルに選ばれた「...Til the Cops Come Knockin'」はマーヴィン・ゲイの香りと90年代R&Bテイストが上手い具合に入り混じっている良曲であるものの、当時チャートはあまり振るわなかった様子。この曲はリスナーにさほど刺さらなかったが、バンドサウンド全盛80年代R&B然とした2ndシングル「Ascension (Don't Ever Wonder)」は多くの人々の心を掴む事となる。黒人の方々は結局こういうのも漏れなく好きなのかと、当時少し驚いたのを覚えている。なんにせよ楽曲の世界観と合致したマクスウェルのセクシーな歌声有りきな結果だとは思うのだが、ともあれマクスウェルは歌が上手い。歌が上手いとはこういうことだ、という優れたお手本である。練られた楽曲の数々と瑞々しく表現された歌のコラボレーション。『Maxwell's Urban Hang Suite』は、まさに極上のアルバムである。
彼のデビュー翌年に収録、放送されたMTVアンプラグドでは彼の音楽的なスタンスが垣間みられて面白い。レコーディング・バージョンとは違うアレンジをしっかり施してパフォーマンスする姿はとてもかっこよく、なかなかの変態性が見てとれる彼自身が意図的に作り出してる部分も多いであろう醸し出ている雰囲気もまた興味深い。音源としてリリースされている『Maxwell MTV Unplugged』を聴くだけでも楽しいが、映像で観た方がよりその変態性が楽しめる。例えばMTVのオンエアー的には1曲目『The Suite Urban Theme』の後半部分とメドレー形式に演奏されている2曲目の『Mello: Sumthin (The Hush)』の流れ(https://youtu.be/KhdkhnwlMa8)。かっこよさの中にあるちょっとした動きや顔芸。歌やサウンドはきっちりしている中でのくだけた部分がなんとも惹き付けられる。「緊張と緩和」みたいなことだろうか。
表向きには途中軽いブランクがあった後、2009年に8年ぶりのアルバム『BLACKsummers'night』を出すのだが、ここでもマクスウェルは時代の流れおかまいなしにブレないサウンドを届けてくれている。アルバムからのリード・シングルだった『Pritty Wings』(https://youtu.be/RkPy4yq7EJoも丁寧なアレンジや音作りがされている本当に素晴らしい曲。後半にかけてのアレンジの仕掛け具合も、毎度ながらハッとさせられる。ホーンのアレンジの巧みさやベースの歌う感じとかも含め、最初から最後まで決して派手ではないのだが、大切な人を手放す事への心の揺らぎをとらえた歌詞の内容を表すかのように、静かな中にも熱が垣間みれたりもする、実のところ相当グルーヴィーな曲なのである。

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<西崎信太郎評>

あれだけ来日パフォーマンスが実現しなかったディアンジェロも、'15年に初来日パフォーマンスが実現されてから(デビュー時の'95年にはプロモ来日歴あり)、この約1年の間に3回も日本でパフォーマンス。ということで、めでたくこのマクスウェルもデビュー20周年にして今夏に初の来日公演が決定。ダフト・パンクが"Get Lucky"を公開した'13年以降、今日にかけてブームを超えたスタンダードになりつつある80'sディスコ/ブギー・リヴァイバルのように、こちらもリヴァイバルの風を 感じる90's R&B復権の流れを作ったのが、'14年末にリリースされたディアンジェロ、ジョデシィの新作リリースになるのでは。そこにかぶさった形となったマクスウェル新作リリースのアナウンス、そして初来日の知らせ。やっぱり今のR&B/ソウル・シーンは、ヴェテラン頼みなのか。米国で猛烈に売れているブライソン・ティラーや、気鋭のロー・ジェームスのような旬のオルタナティブR&Bは、日本での反応はイマイチなのか。それとも レコード・バブル期に売れたヴェテラン勢はやっぱり凄かったのか。あれ、なんか愚痴っぽくなっているぞ。いや、大好きですよ、マクスウェル。話を戻しましょう。
 もともと、アーティストのバックグラウンドや音の構成から聴くなんていう高度な聴き方は出来ず、ただメロディや歌声を聴いて入る典型的な日本人の洋楽に対する触れ合い方な私ですが、マクスウェルの楽曲に初めて触れたのは"Sumthin' Sumthin'"。確かDJ KIYOさんのMixtape『Cisco R&B Fair 98』に収録されていたのを聴いたのが出会い。この"Sumthin' Sumthin'"しかり、SOSバンド"No One's Gonna Love You"使いの"Ascension(Don't Ever Wonder)"しかり、スティーヴィー・ワンダー、マーヴィン・ゲイらを聴いて育ったというマクスウェルのルーツから生まれたこれらアーバン・ソウルを聴く限り、個人的にはディアンジェロ、エリカ・バドゥらと並んで「ネオ・ソウル・シンガー」というカテゴライズにはちょっと違和感を覚えたり。どちらかというと、マクスウェルのルーツであるスティーヴィー・ワンダーらの「ニュー・ソウル」を90's的解釈で表現された「ニュー・クラシック・ソウル」の方がしっくりくるような。そもそもこういった音楽シーンの内側から作られるサブ・ジャンルは、コマーシャライズされた部分が大きいのでさほど意味はないかもしれませんが。今「ニュー・クラシック・ソウル」なんていうサブ・ジャンルを使う人は恐らく皆無でしょうし。

 さてさて、そんなマクスウェルの新作が間もなく登場。『black SUMMERS'night』。'09年にリリースされた『BLACK summer'snight』の続編。3部作の真ん中にあたる作品でございます。既に"Lake By The Ocean"、"1990X"、"Gods"の3曲が公開。'09年作の時は、私まだCDストアのバイヤー時代で、記憶に残っている限り、僕がバイヤー時代に最も売れたアルバム・ベスト3に入るくらい売れた記憶あり。あとはマクスウェルの翌年にリリースされたシャーデー『Soldier Of Love』。あとマイケル・ジャクソン『This Is It』。全部ソニーさんですね。序項の話に戻っちゃいますが、やっぱりレコード・バブル期に売れたアーティストは強いですねぇ。でもこれだけ騒ぐと、若いリスナーも気にならざるを得ないという凄さ。レコード・バブル期のリスナーの訴求力も、これまた強力ということ。楽しみですね、初来日公演。

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