レコーディングスタジオというのは不思議な空間だ。
『良い演奏を良い音で録る』という目的のためにあらゆる工夫がなされ、優れた機材が集められ、常にスペシャリストによる試行錯誤が続けられる。
スタジオの使用料が高いのは、そのためだ。
そしてスタジオ使用料が高いことも含め、そこが特別な空間で神聖な場所であるがために、演奏する際には独特の緊張感が生まれる。
レコーディング本番の時、録られた音を確認している時、何らかのジャッジをする時・・・演奏者、エンジニア、そしてプロデューサーの集中力は限りなく高くなる。
そして良い作品を創り上げるために、重要な会話が交わされる。
また、ある時はその研ぎすまされた緊張感を、その場にいる人間全員の大爆笑が一気に消し去る。
この「笑い」も実は大切だ。どんなに真剣に創られていても、一方で音楽はエンターテインメントだからだ。
さらに、スピーカーから音が鳴っている時も、音が止まり静かになっている時も、重要な会話がなされている時も、爆笑の渦で部屋が満たされている間も、そのスタジオにいる誰かが、イマジネーションを膨らませている可能性が高い。
最大の目的は作品を創ることにあるのだから、決してそのイマジネーションの邪魔をしてはいけない。
そして誰かの心に生まれたイマジネーションを、ちょっとしたやり取りで最大限膨らませていくことも、大事なことだ。
僕がレコーディングスタジオの空間が好きなのは、こういった特別な雰囲気や暗黙のルール、そして作業の結果生じるさまざまな出来事がすべて『良い演奏と良い音』を生み、それがそのまま『素晴らしい作品』につながるからだ。
こういったレコーディングスタジオの意味と特性を考えれば、YOSHIKIが巨額を投じてそれを購入し、時間をかけて自らのイメージ通りのスタジオに創り上げていったのは、当然のことだと思う。
『すべては音楽のために』だ。
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1992年 8月。
「ART OF LIFE」のレコーディングに再び参加することとなった僕は、YOSHIKIから現況の説明と今後のレコーディングの方針を聞かされた後、早速、現在大まかに組まれているスケジュールを、僕の経験に基づいてさらに緻密なレコーディングスケジュールに整えていく作業にとりかかることにした。
スタジオのコントロールルームで打ち合わせが終わり、僕はこれから再開する「ART OF LIFE」のレコーディングへ向けて、急速に気持ちが高まって行くのを感じていた。
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