これまで、このブロマガではYOSHIKIの生んだ名曲について、レコーディング当時のディレクターとして、Co Producerとして、そして音楽家として、その素晴らしさを僕なりにいろいろ解説してきた。

今回は、久しぶりに作品の魅力について触れてみたい。

さて、3月3日には映画『WE ARE X』の、待ちに待った日本での上映がスタート、そしてオリジナル・サウンドトラックもリリースされる。
先行ダウンロードが実施されていないため、残念ながらまだフルサイズの原盤音源は聴けていないけれど、ニコ生で聴いた原盤の一部や、音楽番組「Songs」の演奏など、現在聴くことのできる音を聴いた範囲で、そこに収録される『La Venus』 について、僕なりにその魅力を解説してみようと思う。


『La Venus』を聴いて僕が一番感じたのは、

《歌詞の重要性》と、その歌詞から浮かび上がってくる

《今のYOSHIKIのすべて》だった。

その感じ方は、映画『WE ARE X』が世界中で観られている状況ときれいに重なる。

そして今、そのような作品を生むところが、とてもYOSHIKIらしい、と僕は思うのだ。




これまで僕は、X JAPANの曲について文を書くとき、あえて歌詞には触れず、音楽面だけを解説してきた。

それには理由があった。

まずは、僕自身が名曲マニアであり作曲家でもあること。
そしてX時代、YOSHIKIの圧倒的な才能に気づいていた僕が、その力になるべく2人で大切な会話をする際、基本的には音楽面だけに触れていたこと。
この2つが理由だった。


またX JAPANのファンは、メンバーのことを本当に深く愛し、理解していて、歌詞の解釈についても、とても深い理解をしているファンが多くいるため、わざわざ僕が何らかの解釈を述べる必然性を感じなかったからでもある。

そんな前提で、今回も『La Venus』の解説を試みようとしたのだけれど、聴いているうちに今度ばかりはそうもいかない、と僕は気づいた。

『La Venus』という曲は、歌詞の存在意義がとても大きいと気づいたからだ。

まるで、歌詞がメロディーや曲をトータルで包んでいるように感じたのだ。

僕は、「ENDLESS RAIN」から「ART OF LIFE」に至るまで、YOSHIKIが創作する上で常にすぐそばにいたから、何よりもまずメロディーありき、という彼の創り方は良く知っているのだけれど、ひょっとすると今回の『La Venus』だけは、創作スタイルが少し違うのではないか、と想像してしまう。

『La Venus』については、まず伝えたい歌詞が土台にあって、そこからメロディーを紡いでいったのではないか、と思ってしまうのだ。

これは想像だから曲の解説にはあたらないのだが、敢えてこのような想像を書いたのは、それほどに歌詞の存在が大きいからだ。

また、歌詞が伝えてくれるメッセージとその意味は、『La Venus』という作品が映画『WE ARE X』のテーマソングとして創られたことと密接な関係がある。

ある意味、『La Venus』の歌詞は、『WE ARE X』で描かれた世界に対する、今のYOSHIKIからの答えのようなものなのかも知れない。

YOSHIKI自身の人生、父親との、 HIDEとの、そしてTAIJIとの別れ、Xという生きかた、そしてファン・・・

歌詞に描かれていることは、ちょうどYOSHIKIが世界中の映画祭やCLASSICAL SPECIALで語っていたことにも重なる。


僕の知っているYOSHIKIは、人ができないことを想像を絶するエネルギーと心の強さで粘り強く成し遂げていく一方で、大切なことについては驚くほど素直だ。

だから、歌詞に描かれていることと、最近のYOSHIKIが色々な場所で語っていることの背景には、同じものが存在しているのだと思う。

それはおそらく、映画『WE ARE X』に描かれた『事実』だ。

映画に描かれた数十年間という長い時間の積み重ねに刻み込まれた『事実』・・・。

その『事実』に対して、YOSHIKIは『La Venus』という作品でひとつの答えを示しているのではないか。



『事実』は重く、苦しく、辛いことの連続だ。

けれど、YOSHIKIは未来へ向かっている。

だから・・・

YOSHIKIは大切な作品を生み、命のこもったパフォーマンスをし、自分を深く理解しているファンと会うために世界中を駆け巡る。





僕は、『La Venus』という作品は、『今のYOSHIKIのすべて』に近い、壮大なものだと思う。

だとすると、未来へ向かうYOSHIKIの心は、この作品のどこにあるのだろうか。



僕は、音楽だと思う。

そのヒントは2つある。

ひとつは、美しいTOSHIの歌声。

もうひとつは、極限まで研ぎ込まれた、恐ろしいほどの曲のシンプルさだ。




(つづく)