それにしても、X JAPANの存在が世界的なバンドとして広がっていく上で、映画『We Are X』の存在はとても大きいと思う。
なぜならX JAPANというバンドは、その音楽性に加え、メンバーの人間性と人生、そしてそれを深く理解し支えてきたファンの存在が、ひとつの渦になって積み重ねられてきた歴史に、大きな意味と深い魅力があるからだ。
僕はまだ観ていないけれど、『We Are X』にはそれらがしっかりと、そして美しく描かれていることだろう。
ちょうどこの原稿を書いている時、日本上映が決定した、という嬉しいお知らせが届いた。
今回は『We Are X』に僕自身が関わったことについて綴っていこうと思う。
2015年初夏。
Xのドキュメンタリー映画のために用意された、インタビュー撮影の日。
手配されたハイヤーを降りると、映像スタッフらしき人が僕に声をかけ、目の前にある古ぼけたビルのエレベーターに案内してくれた。
「今、ちょうど別の方のインタビューを撮り終わったところです。準備ができるまでこちらで少々お待ち下さい」
スタッフはそう伝えると、僕をエレベーターから収録スタジオの控え室に導いてくれた。
2週間ほど前に届いた、今回のインタビュー撮影に関する案内メールによると、僕にインタビューするのは監督自身だったはずだ。
監督はどんな人なのだろう・・・
予備知識が全くない僕は、監督と直接会える興奮を少し感じながら、今回インタビューのために用意したメモ書きに目を通した。
インタビューに備えて、自分とXの関係について、そしてXというバンドについて、僕なりに大雑把にまとめたメモだ。
でも正直なところ、そんなメモ書きはたいして役に立たない、と思っていた。
何しろ30年間にわたってXというバンドのことを考え続けてきた人生だ。
僕の想いは・・・メモ書きなどにまとめられるようなものではない。
それでも、僕があえてメモ書きを用意したのは、インタビューの内容が全く予想できないからだった。
万が一、インタビューが的を射ていない内容だったり、Xや僕のことについて正しい認識がなかったら、まずそこから説明をしなければならないかも知れない。
そんなことはないと思いたいが、一応万全の準備はしておきたいと思ったのだ。
(実際には、このメモが全く必要なければ良いのだが・・・)
ぼんやりそう思いながら、ふと僕は、近くにあった姿見で自分の顔を見つめた。
そして今の自分の姿が、いずれXのドキュメンタリー映画に使われるかも知れないのだ、と現実的に考えてみた。
でも正直なところ、そのイメージを頭に浮かべることはできなかった。
理由はよくわかっていた。
別に自分の風貌が嫌いだからではない。
メンバーと一緒に闘っていた30年近く前の、あの日々・・・。
僕はどんな写真にも映像にも、自分が映らないように心がけていた。
Xというバンドの物語を常に見つめていたかったからだ。
「今、ちょうど別の方のインタビューを撮り終わったところです。準備ができるまでこちらで少々お待ち下さい」
スタッフはそう伝えると、僕をエレベーターから収録スタジオの控え室に導いてくれた。
2週間ほど前に届いた、今回のインタビュー撮影に関する案内メールによると、僕にインタビューするのは監督自身だったはずだ。
監督はどんな人なのだろう・・・
予備知識が全くない僕は、監督と直接会える興奮を少し感じながら、今回インタビューのために用意したメモ書きに目を通した。
インタビューに備えて、自分とXの関係について、そしてXというバンドについて、僕なりに大雑把にまとめたメモだ。
でも正直なところ、そんなメモ書きはたいして役に立たない、と思っていた。
何しろ30年間にわたってXというバンドのことを考え続けてきた人生だ。
僕の想いは・・・メモ書きなどにまとめられるようなものではない。
それでも、僕があえてメモ書きを用意したのは、インタビューの内容が全く予想できないからだった。
万が一、インタビューが的を射ていない内容だったり、Xや僕のことについて正しい認識がなかったら、まずそこから説明をしなければならないかも知れない。
そんなことはないと思いたいが、一応万全の準備はしておきたいと思ったのだ。
(実際には、このメモが全く必要なければ良いのだが・・・)
ぼんやりそう思いながら、ふと僕は、近くにあった姿見で自分の顔を見つめた。
そして今の自分の姿が、いずれXのドキュメンタリー映画に使われるかも知れないのだ、と現実的に考えてみた。
でも正直なところ、そのイメージを頭に浮かべることはできなかった。
理由はよくわかっていた。
別に自分の風貌が嫌いだからではない。
メンバーと一緒に闘っていた30年近く前の、あの日々・・・。
僕はどんな写真にも映像にも、自分が映らないように心がけていた。
Xというバンドの物語を常に見つめていたかったからだ。
全てを観て、全てを理解し、新しい未来を常に胸に描きながら、目の前で起きることを全て心の中に刻み込んでいく・・・それが僕の役割だったから、僕は決して被写体にならないのだった。
そして僕とメンバーの共闘が終わった時、僕の心の中には6年間にわたる物語の記憶が、きちんと保存されたのだった。
そこまで考えた時、僕は突然、不思議な気分になった。
僕の心の中にしまってある大切な物語・・・。
そしてそれから長い時を飛び越え、観た瞬間、僕が『生きている映画』だと感じたあのマジソン・スクエアガーデンのライブ。
その間に横たわる、悲劇の時間と止まってしまった時計・・・
それらをすべて包み込んで、いま、Xという物語がひとつの映画となり始めている。
しかも・・・その映画を創り始めているのは、アメリカの映画スタッフとイギリス人の映画監督だ。
あの頃メンバーが夢見ていた世界進出・・・それが成功し始めている今だからこそ実現する、まるで奇跡みたいな話・・・。
そうか・・・
それなら、ほんの一部でも、僕が被写体となって登場するのは決しておかしい事ではないんだ。
それなら、ほんの一部でも、僕が被写体となって登場するのは決しておかしい事ではないんだ。
映画を創っている監督から見れば、おそらく僕はその物語のピースのひとつなんだ・・・。
そのことを理解した瞬間、僕は強いエネルギーが自分の中に沸き起こるのを感じた。
協力したい…。
新たな視点で描かれる『Xという物語』が素晴らしいものになるため、
力になりたい…。
心からそう思った。
すると、まだ会っていない監督のことも、ちゃんと信じられる気がしてきた。
信じよう・・・。
僕はメモを見るのではなく、目を閉じて様々な記憶を辿ることにした。
あの頃の、YOSHIKIの、TOSHIの、PATAの、TAIJIの、そしてHIDEの顔・・・そしてライブでファンが一斉にジャンプする姿・・・。
心がじんわりとあたたかくなった。
「津田さん、すみません! よろしいですか? 監督のキジャックをご紹介したいんですが・・・」
スタッフに突然声をかけられ、僕は反射的にソファから立ち上がった。
目の前に、知的で落ち着いた、魅力ある風貌の男性が手を差し出していた。
辛うじて英語で自己紹介しながら握手をした僕に笑顔で応えると、キジャックはスタジオの方へ導いてくれた。
20畳ほどのがらんとした白い部屋に、撮影機材が沢山セッティングされ、スタッフが何人も動いていた。
どうやらここは防音されたスタジオではなく、ごく普通の部屋らしい。
だからだろう、撮影中はエアーコンディショナーを止めますので、という説明を受け、僕は部屋の真ん中にぽつんと置いてある白いカバーに包まれた椅子に座ることを勧められた。
だからだろう、撮影中はエアーコンディショナーを止めますので、という説明を受け、僕は部屋の真ん中にぽつんと置いてある白いカバーに包まれた椅子に座ることを勧められた。
座ると、スタッフに指示をだしていたキジャックが僕のすぐ目の前にディレクターチェアを移動させ、座った。
キジャックの左後ろにデスクがあり、そこに男性が一人座っている。
日本人スタッフがすぐに紹介をしてくれる。
「こちらは〇〇さんです。英語の通訳をしてもらいます」
挨拶を終えると、部屋が静かになった。
僕を真っ直ぐ見つめるキジャックが、落ち着いたトーンで話し始めた。
「僕は、X JAPANというバンドの歴史に心を強く惹かれました。その音楽にも、メンバーにも、そして・・・Un・・・mei・・・kyo・・・do-tai・・・?」
その日本語を口にすると、キジャックは笑顔になった。
その笑顔を見た瞬間、僕は確信した。
キジャック監督は・・・
わかっている。
Xを、深く理解している・・・。
僕は心が熱くなっていくのを感じた。
そして同じように笑顔で答えた。
「はい、『運命共同体』ですね・・・。今日は、僕の心の中に大切にしまってある『Xの物語』を、全て話したいと思います。何でも聞いて下さい」
本当に、心の底から嬉しい、と思うような笑顔を浮かべてうなずくと、キジャックは僕に訊いた。
「ミスター津田、あなたはSony Musicのプロデューサーとして、Xを手がけられたんですよね?」
「はい、そうです」
こうして、キジャックのインタビューは始まった。
(つづく)
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(※この記事は2017年1月に書かれたものです)
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【津田直士プロフィール】音楽プロデューサー/作曲家
Sony Music在籍時に「BLUE BLOOD」「Jealousy」「ART OF LIFE」
のCo ProducerとしてX JAPAN(当時はX)をプロデュース
インディーズ時代から東京ドーム公演までをメンバーと共に駆け抜けた記憶
の一部は、映画『WE ARE X』や『金スマ YOSHIKIスペシャル』『『Disneyマイ・ミュージック・ストーリー - YOSHIKI』『ヘドバン「BLUE BLOOD」30周年記念号』などにて、インタビューという形で語られている。
また、「すべての始まり」を始めとする著書には、その記憶が克明に描かれている。
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