バルデマー一行は、手に入れた高級エールを献上するため、ボリス・トッドブリンガー伯の催す宴会に参加していた。
皆は、余興として力を見せ、自分たちの冒険譚を語り、ボリス伯の傍に座ることを許されるまでになった。
そしてアンヤも、ボリス伯の令嬢カタリーナと親しくなることができた。
楽しく和やかな時は、新たな来訪者によって打ち砕かれた。
扉より入ってきたのは、兜をかぶったままの男。
彼はゾセリン・フォンロイター。アンヤの兄にして、恐ろしい死霊術師の息子である。
しかし、そのようなことを知らぬボリス伯は、かつて自分に従って戦い武勲をあげた青年を、言葉によって歓迎した。
バルデマーらは、彼に警戒の目を向ける。アンヤはカタリーナ嬢へ警告の言葉を発した。
ゾセリンは兜を外さぬまま、ボリス伯へ挨拶を始めた。
「忠誠の証として、わが父フォンロイターからの贈物を持参しました」
彼の言葉が終わらぬうちに、彼の鎧兜の隙間から、紫色の光が漏れ、広がった。
ゾセリン自身を媒介として、魔力の風が発生しているのだ。
ヨハンの看破によって、皆はそのことを知るが、止めるすべはない。
フォンロイター城では、死霊の魔術師オンドゥリン・フォンロイターが呪文を唱えていた。
白狼騎士団と金豹騎士団への、滅びの言葉が紡がれる。
その背後には、幼子の高笑いが響き渡っていた――
ゾセリンを中心として溢れ出た紫の光は渦と化し、暴れはじめた。
それに触れた者は、すべて水晶へと変えられてゆく。
同時に、武装したラットマンらが会場へとなだれ込んできた。
ボリス伯は妾腹の息子をかばうが、そこへ向けてもラットマンどもは群がってゆく。
アンヤはいち早くカタリーナを伴い、バルデマーらのもとへと身を寄せていた。
ウドーは声を張って、戦わず逃げるよう、人々へ忠告する。
自分たちも、一刻も早く逃げねばならない。
人の波をくぐり抜け、武器を取り戻し、一行は城壁の上へとなんとか辿り着くことができた。
城壁の下は堀。城壁の内側には、無数のラットマンが侵略のため戦っているという光景が広がっている。
鎧に身を包んだミドンヘイムの騎馬兵さえも、数の暴力に打ち勝つことは難しく、一人また一人と打ち倒されてゆく。
城壁の上にも、銃を構えたラットマンが二体。
そして、ゾセリンが乗ってきたのであろう、翼を生やした巨体が飛来する。
死霊術によって生み出されたおぞましい怪鳥を前に、思わず恐怖で身をすくませる一行。
だが気を取り直した者から、この場を切り抜けるための戦いへ踏み出してゆく。
ウルディサンがラットマンへ魔法を使い、武器を落とさせる。
ウドーはスリングを振り回し、ヨハンは傷を受けながらも、シグマーの加護を仲間へ付与する。
グルンディの、ドワーフの頑丈な図体がラットマンへ猛然と突進し、堀へ突き落とす。
バルデマーは城壁の上を身軽に走り、迫る怪鳥の脇をすりぬけて、残るラットマンの銃を押さえるように攻撃する。
怪鳥の猛攻も、グルンディの硬い鎧と頑丈な身には、大した傷を負わせることはできない。
グルンディが怪鳥の足を叩き折り、身を崩したそこへ、グレッチェンがつるはしを振り上げる。
岩を穿つためのそれは、鳥の頭蓋へ深々とめりこんだ。
受けた傷に治療をほどこし、ひとまずの危機を脱した一行だが、場外へ脱出するための方法がわからない。
ねずみどもは無限に湧きだしてくる。
アンヤが、導きを求めるように、バルデマーの顔を見つめる。
どのようにして脱出すればよいだろうか……バルデマーの選んだ案は、かつても脱出のために用いられた道具、キューゲルシュライバー式飛行機械で飛び立つことだった。
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