水曜夜は冒険者――場所はお馴染み、東京は代々木、HobbyJapanの配信室より。
はい、戻ってまいりました水曜夜の実況動画。配信が始まった瞬間、画面に映ったのはPLでもDMでもなく、謎のティアマト仮面だったというのはご愛嬌。夏休みの間にGENCONに行ってきたDM岡田が会場でもらってきた戦利品だとか(ちなみに今回は配信の後ろ数十分でGENCONレポートなどもありました。こちらはリプレイには収録しませんので、是非アーカイブ動画等でお楽しみください)。
今回もミシュナはお休み。ネヴァーウィンターがエヴァーウィンター化したせいでもあるまいにやたら冷え込むのがきっかけのお話なので、どうやら今回は風邪をひき込んで寝込んでいる模様。そんな時に王城に飛び込んできた駆け込み訴えは……
賑やかしい死者の中に生者の混じる街エヴァーウィンター。その中央のネヴァー城の執務室で、死者の王ジェイドは今日も忙しい。
事故的に生じたホートナウ山の大噴火により滅びたネヴァーウィンターを、ネヴァー城地下の自動生成するランダムダンジョンを中心的な資産として利用し、“冒険者の街”として復興させようと計画するも、街が滅んだり死者の街になったりしているだのの噂がいったん流れてしまった以上、人の足を呼び戻すのはなかなか難しい。
バルダーズ・ゲートから新技術“新聞”を導入したものの、順調に機能するにはまだ少し時間が必要、そして冒険者を生かさず殺さず……はあんまりなので、殺さず生かさず程度のダンジョン運営は、これまたなかなか難しい。昨日も新進気鋭の冒険者集団がたった1日で地下第一層を突破してしまったとのこと、これはやはり第一層にもひとつふたつはデストラップを設置すべきではないか。ネヴァー城のDay Active Userを考えるに……
思考が埒もない方向で堂々巡りを始めたちょうどその時、街の大法官にしてジェイドの片腕ともいうべきグールのクーリエが執務室に駆け込んでくる。
クーリエ:「申し上げます、申し上げます、街の門前にバーバリアンが来て暴れております」
ジェイド:「なんだバーバリアン。冒険者なら街に入れて……」
クーリエ:「それが、この街のアンデッドを退治すると申しまして。これ危うしとゾンビグールスケルトン集団で飛びかかったのですが、相手はやたらと強く、群がるゾンビをちぎっては投げちぎっては投げ」
ジェイド:「なに、それはいかん。では俺が直々に出向くとしよう」
蛮刀ひっさげジェイドが王城の外に出ると、身を斬るような寒風にちらつく雪。
かつてのネヴァーウィンターの名の通り、街中を流れるネヴァー川の水温が高いために本来なら決してこの街は凍てつくような寒さに見舞われることはなかったはず。それが、まだ10月も過ぎぬというのにこの気候……何がおかしいのだろうやはり死者と生者の境が混ざったのがよくなかったかと思いつつ街の門まで来ると。
ジェイド:「……あれは」
思わず足を止めたジェイド。目の前では確かにバーバリアンが暴れている。豊かな金髪を雪に乱した碧眼白皙の筋骨逞しい女戦士。毛皮を剥ぎ合わせ固めた豪奢な鎧を身にまとっているが、腹部の空いた意匠のそれから露出するのは唸るほど見事な6パック。巨大な戦鎚を振り回しながら叫ぶのは
女バーバリアン:「我はヘラジカ族のローナ、テンパスの名に懸けてこの街のアンデッドをすべて滅ぼしてくれる!!」
ジェイド:「うーん、厄介だなアレ」
ヘラジカ族とは“北方”で最大勢力を占めるバーバリアンの部族。非常に誇り高く、そして非常にバーバリアンらしいバーバリアンつまりアタマが固いことで有名。さてどう話しかけたものか。そこへ
エイロヌイ:「ローナ様と仰いましたか、私はシルヴァナスの聖騎士エイロヌイ」
ローナ:「おお、聖騎士どのか、ありがたい。共に戦おう!!」
エイロヌイ:「勿論のこと。しかしこれだけの数のアンデッド、いちいち倒していてもきりがありません。この背後には必ずアンデッドを生み出した悪の首魁がおらねばなりません。見たところあなた様は足もお速そう、このゾンビたちを振り切って街の中心部まで行き、首魁をなんとかしてはくださいませんか、援護いたします」
ローナ:「そうか、かたじけない!!」
言いざま走り出すローナ、そして背後で笑い崩れるエイロヌイ。
突っ込んでくるローナの姿に、これは捨て置けぬと抜刀し、同じく突っ込むジェイド。その様子を街の一番高い塔の上から見物していたエリオン、ここぞとばかりに“フェザー・フォール”を使ってかっこよくその間に飛び込み引き分けようとするが、一瞬でこれはとても止められないと見て取り、“フェイ・ステップ”で飛び退る。激突するローナとジェイド、だがその鎚と剣は互いに外れ、周囲の建物(復興が思うように進んでいないせいでどのみち廃墟同然なのである)が煽られてバラバラと崩れる。ただし互いに出目は酷いので低レベルの接戦である。
エイロヌイ:「ローナ様、助太刀いたしますわ!!」
駆け寄るエイロヌイ、だがその声は必死に笑いを噛み殺している。ジェイド、その姿を目の端に捉えるやすかさず踏み込み、ローナに一撃を浴びせる。ヒット。それをトリガーとしてジェイドの“貴族の面汚し”的必殺技、具体的には“ダーティー・ディード”が発動する。「やれ」とエイロヌイに一言。するとほとんど優雅なまでにエイロヌイのレイピアが走り、次の瞬間、地に伏せたローナの首筋にエイロヌイの剣先が触れんばかりに突きつけられている。
ローナ:「う……裏切ったのか、くっ……殺せ!!」
もちろん目的はバーバリアンの動きを止めて話の出来る状態にすること。エイロヌイ、目を糸のように細くしてにっこり笑う。
エイロヌイ:「ローナ様、私たちはあなた様をどうもいたしませんわ。ただお伺いしたいだけ。あなたは何故この街にいらっしゃいましたの?」
ローナ:「原初の炎を求めてホートナウ山に向かうところだったのだ!! その途中に、この地域で一番栄えているネヴァーウィンターの街があると言うので立ち寄ったら、アンデッドの巣窟になっているので……」
行きがけの駄賃に街じゅうのアンデッドを滅ぼそうとしたらしい。ちなみに話を聞くに、どうもローナの持っている情報は酷く古く、どうも28年以上前のものらしく思われた。
とりあえず落ち着いた頃を見計らって助け起こす。状況が落ち着いたと見て、高見の見物を決め込んでいたセイヴやヘプタもやってきて、色々と事情を説明する。ついでに原初の炎なら確かにホートナウ山の中にあり、事実エリオンは溶岩に触れたことで原初の炎の力を手に入れたことも話してやる。
ローナ:「そうか、では私をそこに案内しろ!! 私もそのヨーガンとやらに浸かって原初の炎の力を手に入れる!!」
ヘプタ:「……いや、熱湯風呂じゃないんっすから。でも、なんでそんなに原初の炎の力が欲しいんですか?」
ローナ:「それでなければ倒せぬ敵がいるのだ……!!」
アイスウィンドデイルに、恐るべき魔女が現れたのだと言う。その名も氷の魔女、混沌にして悪の冬の女神、“凍てつく乙女”オーリルの申し子。その魔女の力でアイスウィンドデイルは永遠の冬に閉ざされようとしている。いや、アイスウィンドデイルだけではない、北方の都市ラスカンも既に氷に封じ込められている。このままでは“北方”全土が永久凍土となりかねない。そして通常の武器でも通常の炎でも、その氷の魔女は倒せぬ、最後の希望は原初の火の力のみ……。
全員の顔色が変わる。特にエイロヌイの顔が。自然神シルヴァナスにとって悪の冬の女神は不倶戴天の敵。倒さねばならぬ。それには――この直截なバーバリアンに同行せずばなるまい。何しろエリオンが原初の火の力を手に入れたのは事故的ではあったが、一方で極めて稀有な好機をものにしたとも言えるのだ。あの時、イリシッドの陰謀により火のプライモーディアルは今にも目覚めようというところまで活性化しており、火口ちかくまでその力は迫りあがって来ていた。今、原初の火に触れようとすれば、ホートナウ山の溶岩の深奥まで潜らねばなるまい。それは、不可能だ。
エイロヌイ:「わかりました。氷の魔女の存在は――私たちにとっても害悪。助太刀いたしましょう。幸い、私たちの仲間のエリオンは原初の火の力をその身に宿しており……」
ローナ:「ならそいつを殺せは私にもその力が得られるのか!?」
エイロヌイ:「……そんなはずはありません。落ち着きなさい。私たちが同行すると申しておりますよ。その氷の魔女を倒した“英雄たち”の中に貴女もいればよいのでしょう?」
ローナ:「ダメだ、私が戦わねばならぬ」
エイロヌイ:「ならば最後の一太刀をあなたが……」
ローナ:「ダメだ、最初から最後まで私がやらねばならぬのだ!!」
エイロヌイ:「駄々っ子のようなことを……何か理由でも?」
ローナ、一瞬の沈黙。それから苦しそうに声を押し出した。
ローナ:「魔女は、私の、姉なのだ」
呼吸3回分の沈黙。だが、せねばならぬことは決まっている。
ジェイド:「あなたと姉上の間の確執には我々は何のかかわりもない。が、我が臣民に永遠の冬の脅威が及ぶのが、王として私は恐ろしい。あなたに同行させてほしい」
セイヴ:「原初の火の力を手に入れるというなら、原初の火の力を持った仲間を手に入れるというのも姐さんの力ってことになるだろうよ、だから、さ」
エイロヌイ:「だいたい目的がありながら通りすがりのゾンビの殲滅に夢中になってしまうローナ様の事、道中が心配ですわ。同行させてくださいませ」
それでもなかなか首を縦に振らないローナに、ついにジェイドが詰め寄る。徐にネヴァーウィンターの王冠を取り出してかぶり、この王冠が目に入らぬか……とはまさか言わないが、具体的にはそのパワーを使用しての〈交渉〉判定に臨む。この王冠に誓って、王として言う。我々はあなたをどうこうしようというつもりはない。氷の魔女は真に我々にとっても脅威なのだ。我々を同行させよ、氷の魔女をいかにして倒すかはその先の話。
ローナ、じっとジェイドの目を見つめ、ついに頷いた。
ローナ:「わかった。信頼したというわけではないが、協力は有難く受け入れる――これを受け取ってほしい。ヘラジカ族からの友好の証だ」
そうして荷物から取り出して渡したのは、毛皮でくるんだ何やら長細い包み――開くと、黒い氷でできた見事な剣。
ローナ:「ドワーフの名工が作った逸品だ。友好の証にはドワーフの作った最高の武器を贈るというのがヘラジカ族のしきたりになっている」
わかった、それでは……と黒き氷の剣を手にしたジェイドの身の内に、何やら黒々しい思いが湧き上がってくる。これは剣がもたらしたものか、いや、それとも……
……と、ここで視聴者アンケート。
アイスウィンドデイルは俺のものだと囁く身の内の声に身をゆだねるか。
剣の正体もわからぬままとなるが、君子危うきに近寄らず、悪しき想いをもたらす県からすぐに手を離すか。
これは剣がもたらした闇の思い、手を離せばすぐにこの思いは消えよう。
――いや、それはまことか? これは自身の身の内にあったものではないのか?
去来する思いのうちに……
なんということか。アンケートの結果は僅差ながら「アイスウィンドデイルは俺のものだ!!」に。暗黒王ジェイドの名にふさわしい存在にもう一歩深く踏み込んだというところ。ちなみにネヴァーウィンターの王冠に関しては、この思いは「ネヴァーウィンターを害するものではない(どころかネヴァーウィンターの版図を広げるものだともいえる)」ので、特にこういう選択をしたからといってジェイドを滅ぼそうとしたりはしないとのこと。
ジェイドは静かにうなずき、剣を握り直した。
ローナ:「……どうした?」
ジェイド:「いや、何でもない。エヴァーウィンターの王として、確かにこの剣を受け取った。ゆこう、アイスウィンドデイルに……!!」
その日の残りは出立の準備や、留守にする間のあれこれをクーリエに手配したりして過ごし、夜になった。出立は明朝。
だが、その夜はことのほか冷え込んだ。
あまりの寒さに目を覚ましたジェイドは、何やら激しい胸騒ぎに導かれるまま、寝室から中庭へ目をやった。すると、そこには猛烈な雪嵐が渦巻いているではないか!!
そして雪嵐の向こう側におぼろに霞む、ヘラジカの角を冠のように戴いた美しい女の姿。
???:「ローナ……我がもとに戻れ……」
その台詞から想像するまでもない。氷の魔女だ。大急ぎで装備を整え、中庭に飛び出す。エイロヌイ、ヘプタ、セイヴも同様。エリオンは相変わらず屋根の上に立っていた。ローナは長旅の疲れで熟睡しているのか、姿を見せない。そして、装備を整えている間に立ち去ったのか、確かに見たはずの氷の魔女の姿も既にない。
そこには意志をもって吹き荒れる雪嵐と、2頭の真っ白な狒々めいた獣がいるばかり。そしてその冬の眷属どもは明らかな悪意を持ってジェイドたちに襲い掛かってきた。
意志持つ雪嵐は冬の風の精――エア・エレメンタル。
白き狒々はイエティ。
氷の魔女がもたらしたか、とても自然のものではない冷気を放射する氷が散乱する中庭で深夜の血戦が繰り広げられる。
最初に動いたのはヘプタだった。エイロヌイを巻き込んで風精のもとに飛ぶ。エイロヌイのレイピアが雪嵐を切り裂く。意志持つ嵐は実体も持つのか、剣に薙がれた嵐はわずかに勢いを弱める。
ならば、とセイヴが嵐の中心に双剣を構え突撃する。たちまち風の勢いは半分になり、さらに風向きが絡まるように狂い始めた。具体的にはエア・エレメンタルが伏せ状態になったのだ。
だが、ここから冬の眷属の反撃が始まる。吹き荒れる嵐に加え、イエティの発する吠え声は衝撃波となって一行を揺さぶり、跳ね飛ばす。ジェイドなどは危うく中庭の井戸に落ちかける。
だが、吹く風に隙間があり、声を発したなら息を継がねば次の攻撃ができぬ道理がそのまま運の尽き。ヘプタが右手に妖精、左手に炎を掲げて放つ必殺の“フェアリー・ファイアー・ストライク/妖精怪火撃”が風精の芯を消し飛ばし、セイヴの双剣がイエティの一匹を斬り伏せると、残るイエティは戦場を放棄して城を飛び出し、街の外、冬の原野へと逃げ去った。
しかし、いかなる経緯でヘラジカ族の姉娘は氷の魔女と化したのか。
なぜ氷の魔女はローナを呼び戻そうとするのか。
ひとつだけ言えるのは、吹雪越しに見た魔女の目は、生きとし生けるものすべてを憎んでいるとしか思えぬのものだったということだ。
翌朝、装備を改めて街の門までやってくると、焦れたようにローナが待っていた。
ローナ:「遅いぞ!!」
ヘプタ:「とは言いましてもね、こっちは昨夜大変だったんっすよ。姉上ご本人がいらっしゃいましたので」
ローナ:「……!!」
ヘプタ:「あの、姉上はあなたを呼んでらっしゃいましたが、何か心当たりでも」
ローナ:「ない!!」
だが、そう言い切るヘラジカ族の女戦士の目が、何かを恐れおびえているのを、これまた下ろした面頬の奥深くに黒い野望を隠した王ジェイドは確かに見ていたのだった。
そして、さまざまな思惑を秘めたまま、一行は雪の原野に踏み出してゆくのである。
ジェイドの決断
第1回:
問い:黒き氷の剣を手にした瞬間に湧き上がる得体のしれぬ野望。すぐに剣から手を離すべきではないのか?
答え:……いや、アイスウィンドデイルは俺のものだ!!
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