皆様こんにちは、ニコ生D&D解説担当の塚田です。フォーゴトン・レルム世界の設定を解説するシリーズの第5回となる今回は、ハーパーに関する説明をお送りします。

 ハーパーはフォーゴトン・レルム世界に大きな影響を与えてきた重要な組織なのですが、D&D4版の『フォーゴトン・レルム・キャンペーン・ガイド』にも『ネヴァーウィンター・キャンペーン・セッティング』にも、ハーパーの歴史や理念に関する記述はほとんどなく、この組織の現状や活動内容だけが書かれているため、新しくフォーゴトン・レルムに触れる方にはやや不親切な状態になっています。そこで、ここでは「そもそもハーパーとは何なのか、ハーパーという設定は何のためにあるのか」をまとめてみることにしました。参考資料としてはAD&D2ndの『Forgotten Realms Adventure』およびD&D3版のレルム系サプリメントを使っています。


ハーパーの目的と活動
 ハーパーは一言で言えば「善の秘密結社」です(“正義の”ではありません)。数百年前にバード、ドルイド、レンジャーなどが集まって結成された、大陸中に広がる緩やかなネットワークであり、明確な指導者や拠点を持たず、ただハーパーの目的や理念に共感する人々が互いに協力しあう集団でした。その活動内容は主に以下のようなものです。

◆諸国間の平和を維持し、さまざまな危険(ゴブリンやオークの諸部族、サーイなどの侵略的国家、ドラゴン・カルトなどの邪悪な組織etc)から守ること
◆自然と文明のバランスを保つこと
◆未来の者が過去の教訓に学べるよう、物語を語り伝えていくこと
◆個人的な利益よりもハーパーの大義を優先すること
◆悪に堕ちたハーパーに、ハーパー自身の手によって報いを与えること

 ハーパーの構成員のほとんどは冒険者または元冒険者であり、各自が自分の判断で行動しながら悪の蠢動やトラブルの気配を探し出してしかるべく対処します。自分の力(元冒険者で今は領主や貴族になっているような場合、自分の資産や兵力も自分の力のうちです)で足りなければ他のハーパーに助けを求めたり、地元の有力者に支援を請うたり、他の冒険者を誘ったりします。こうして誘った冒険者がハーパーの理念に近い善良な志を持っていそうなら、その後も継続的な接触を保ってその冒険者の本性を確かめてからハーパーに勧誘することもあります。

 ハーパーにはバード、ローグ、レンジャーなどの個人主義・自由主義的な考えの持ち主が多いため、全体主義や専制主義よりも自由と独立を重んじ、大きな政府よりも小さな政府を好み、「悪法は守る価値なし」と考える傾向にあります(旧版の用語で言えば“混沌にして善”寄りであるということになります)。ネヴァーウィンターのハーパーが反政府活動に携わっているのも、こういった考え方に由来しているのでしょう。


ハーパーの歴史と現状
 最盛期のハーパーは多くの神々(主に知識、魔法、芸能など)の加護を受け、フォーゴトン・レルム世界の高レベルNPCのうち悪でない者の半分はハーパーに所属している(もしくは協力者である)と言われるほどの存在感を有していました。しかし、明確な組織構造を持たない集団は、いったん内部分裂が始まると止めるすべがありません。さらに、呪文荒廃に関連した一連の出来事によって主要メンバーの多くが死亡・発狂・無力化等の被害を受けたことがとどめとなり、組織としてのハーパーは終わりを迎えることになります。

 とはいえ、ハーパーが成し遂げてきた業績や歴史が忘れ去られることはありません。D&D4版時代のハーパーは、この組織の伝統と理想を守り続ける小さなグループが各地に点在し、何とかネットワークを再構築しようと努力している状況です。ハーパーへの加入を希望するキャラクターは、近くで活動しているハーパーの活動員を探し出した上で、ハーパーの理念に合致するクエストを何回か引き受ければ、比較的簡単にその地域のハーパーの一員として迎え入れてもらえる可能性があります。

 ただし、加入が容易であるということは、悪の勢力の手先が潜入しやすくなっているということでもあります――かつてはハーパーの幹部(20レベル以上の大魔道士がゴロゴロいました)が厳格な入会審査を行ない、裏切り者やスパイには地の果てどころか宇宙の果てまで追いかけて制裁を加えることができたのですが。現代においては、依頼主がハーパーであるからといって無条件に信頼できるわけではありませんし、「ハーパーに入っておけば、いざとなったら高レベルNPCが助けてくれるだろう」などという甘い期待はできなくなっています。


ハーパーについてのメタな話
 最後に、ゲーム・デザインやマスタリングといったメタ的な視点からハーパーの存在理由と使い方を考えてみます(このパートは公式設定でなく筆者の私見が大半なのでご注意ください)。

 フォーゴトン・レルムが初めてD&Dの公式世界設定としてまとめられたAD&D2ndの『Forgotten Realms Adventure』には、「ぶっちゃけハーパーって善属性の盗賊ギルドみたいなもの」(意訳)と書かれています。これはおそらく、中立(無属性)や悪属性のシーフは盗賊ギルド的なものに所属することによって情報やコネなどのギルド資産を活用できるのに対し、キャラクターの設定的に犯罪組織に所属するのが難しい善属性のローグ系PCはそういった資産を利用できないために活躍しづらいという不平等を避ける目的もあったのではないでしょうか(旧版のシーフは4版に比べると戦闘能力が低く、そのためパーティにおいては情報収集など戦闘以外での活躍をはたす、望まれることが多かったのです)。

 そして情報収集の手段が増えるのは、プレイヤーだけでなくDMにとっても嬉しいことです。DM経験のある方なら、「信頼性の高い情報を善意で提供しても怪しまれないNPC」という設定が、セッション進行上とても便利だということもお分かりいただけると思います。ややもすればTRPGのプレイヤーは疑心暗鬼になりがちで、無償で情報を与えれば「ただほど高いものは無い。何か裏があるのではないか」と疑いますし、かといってお金や“借り”と引き換えに情報を与えようとすれば「この情報に回復ポーション1本ぶんの金を払う価値があるのか?」という風に疑い始めます(やや極端かも知れませんが……)。情報不足でゲームが止まってしまいそうな時、都合よく必要な情報を持って現れるNPCとして、ハーパーは最適の存在と言えるでしょう。

 ネヴァーウィンターにおけるハーパーは、リーダーであるキムリルが死んでからは迷走状態にあるようです。そしてハーパーの一員であったヘプタは、裏切り者と誤解されて仲間のハーパーから追われる立場にあります。今シーズンの物語にハーパーがどう関わって来るのか(あるいは来ないのか)、それは次回以降の配信をお楽しみに!


『水曜夜は冒険者!:マスタリングのうらがわ』
著:塚田与志也
監修:柳田真坂樹