皆様こんにちは、ニコ生D&D解説担当の塚田です。今回のこのコーナーは、単独クリーチャーを取り扱おうと思います。
D&Dの第4版で登場した「単独」クリーチャーは、文字通り単独でパーティ全員と戦える力を持つ強敵です。たとえばデーモン・ロードや(本物の)ドラゴンのようなラスボス的存在は、そのほとんどが単独クリーチャーとして設定されており、PCたちが力を合わせて強大な敵との死闘を繰り広げることを目標にデザインされていました。
しかし、第4版の発売当初の時点では、残念ながらその目標は充分に達成されているとは言えず、むしろ「単独クリーチャーとの戦闘は面白くない」という声があちらこちらから聞こえてくるありさまでした。そういった問題点のいくつかはその後のサプリメント等で解決されているのですが、今でも単独クリーチャーを敬遠していたり、扱いに困っている方がいらっしゃるようです。そこで今回は、単独クリーチャーを活用するためのアドバイスをお送りします。
以下、既存の単独クリーチャーをカスタマイズしたり、オリジナルのボス敵をデザインするための注意点を述べ、具体例として『モンスター・マニュアル3』および未訳のモンスター・サプリメント『Monster Vault』に載っている、単独クリーチャーらしいパワーや特徴をいくつか紹介します。また、単独クリーチャーのデザインについては『ダンジョン・マスターズ・ガイド2』の内容もご覧ください。
防御値を高くしすぎない
ボスが簡単に倒されてはつまらないと思うなら、防御値ではなくhpを増やしましょう。戦闘にかかる時間は変わらなくとも、「攻撃が当たらなくて敵のhpをなかなか削れない」のと、「ガンガン攻撃を当てて敵のhpを削っていく」のでは、プレイヤーが受ける印象がかなり違ってきます。
また、単にhpを増やすのではなく、一時的に“非物質的”になる(=被ダメージが半減する)パワーを持たせたり、再生能力を持たせるといった方法もあります。個々の敵の性質に基づいて、ふさわしい方法を選びましょう。たとえばパープル・ワームのような超大型のモンスターであれば大量のhpが“それらしい”ですし、リッチのような魔法使い系の敵はより複雑な延命手段を持っている方が雰囲気が出るでしょう。
戦闘をダイナミックに
単独クリーチャーとの戦闘は、皆で敵を取り囲み、とにかくダメージの大きいパワーを使って、膨大なhpをひたすら削り続けるという“作業”になってしまうことがあります。こういう戦闘が面白くなりにくいことは言うまでもないでしょう。
これを避けるため、単独クリーチャーには高性能の移動能力を持たせたり(これによって移動阻害系パワーの使いどころを作れます)、重傷になると性能が大きく変わるようにして、なるべく戦闘に変化をつけましょう。
ロルス;『モンスター・マニュアル3』所収
フォーム・オヴ・ザ・スパイダー・クイーン/蜘蛛の女王の形態([恐怖]、[変身])◆遭遇毎
トリガー:ロルスのhpが0に減少する。
攻撃(アクション不要):近接範囲・爆発10(爆発内の敵すべて);+36対“意志”
ヒット:目標は朦朧状態になり、“すべてのダメージに対する脆弱性20”を得る(セーヴ・両方とも終了)。
後効果:ロルスは目標の移動速度に等しい数のマスだけ目標を押しやる。目標は次の自分のターンの終了時まで幻惑状態になる。
効果:ロルスはこの遭遇の終了時まで“蜘蛛の女王ロルス”の形態になる。この形態でいる間、ロルスは新たなパワーを獲得するが、それまで有していたパワーはいっさい使用できない。
手数を増やす
単独クリーチャーは1体だけで5人のPCに充分な脅威を与えなければならないので、攻撃手段の多さは重要です。死の恐怖を演出するために単体目標への大ダメージ攻撃を持たせ、パーティ全員に脅威を感じさせるためには広範囲にダメージないし状態異常をばらまく攻撃を持たせましょう。ただし、攻撃ロールの回数を増やしすぎると処理が重くなるので、自動的にダメージを与えるオーラなどの能力を併用するのがお勧めです。
オグレモク;『モンスター・マニュアル3』所収
ジャグド・アース/波打つ大地◆オーラ5
このオーラ内のマスは移動困難な地形である。クリーチャーが自分のターンにおいて初めてこのオーラ内のマスに入った時、そのクリーチャーは難易度32の〈運動〉または〈軽業〉判定に1回成功しなければならず、さもなくば20ダメージを受ける。地渡りを持つクリーチャーはこのオーラの効果を無視する。
また、単独クリーチャーには、なるべく自分のターン以外のタイミングでも攻撃を行なえる能力を持たせましょう。これには2つの利点があります。1つは、PCたちがダメージを受ける可能性があるのが単独クリーチャーのターンに限られると、プレイヤーの緊張感が削がれてしまうこと。もう1つは、単独クリーチャーのターンに大量の攻撃を行なわせるのに比べて、クリティカル連発などによるPCの事故死の可能性を減らせることです。
グリーン・ドラゴン;『Monster Vault』所収
Instinctive Flyby/本能的かすめ飛び攻撃
このドラゴンは(自分のイニシアチブ判定結果+10)のイニシアチブにおいて、1回のフリー・アクションとして、フライバイ・アタックを使用することができる。このドラゴンが自分を支配状態または朦朧状態としている効果のせいでこの攻撃のためのフリー・アクションを行なえい場合、この攻撃を行なう代わりにその効果を終了させる。
最後に、単独クリーチャーは必然的に大量のデバフ(能力低下/状態異常)を被ることになるため、幻惑状態などで行動を制限されていても攻撃能力が低下しすぎないようにしましょう。普通のモンスターには持たせにくい強すぎる能力も、単独クリーチャーに持たせる分には問題ありません。状態異常への耐性については本コラムの第1回もあわせてご覧ください。
グリーン・ドラゴン;『Monster Vault』所収
アクション・リカヴァリィ/行動回復
このドラゴンのターン終了時には常に、このドラゴンを幻惑状態、朦朧状態あるいは支配状態にしている効果がすべて終了する。
データ以外の演出と設定
最後に、データとは別の側面から単独クリーチャーとの戦闘を盛り上げる手段についても考えてみましょう。ここで大事なのは、プレイヤーたちに「これからすごい能力を持った強敵と戦うのだ。普段の戦闘と同じつもりでいるとヤバイぞ」という予感と緊張を抱いてもらうことです。そして、そのために使える材料は大きく分けて2種類あります。1つは『ダンジョンズ&ドラゴンズ』というゲームそのものの長い歴史の中で培われてきた、強敵としての存在感。もう1つは、個々のキャンペーンの物語の中で積み重ねてきた演出です。
たとえばD&Dの歴史において、ドラゴンは常に圧倒的な強敵であり続けてきました。経験豊富なD&Dゲーマーほど、ドラゴンとの戦闘は一歩間違えばパーティが全滅しかねないような危険きわまりないものだという印象を抱いているでしょう(他のファンタジーRPGの経験者にも、同様の感覚を持つ人はいると思います)。そういったプレイヤーは相手がドラゴンだというだけで自動的に盛り上がってくれるので、DMにとっては非常に便利なモンスターと言えます。
一方、何の歴史も無い「ぼくの考えたすごく強いボス」がいきなり登場したところで、スリルや興奮が生まれるはずはありません。そのキャンペーンの中でNPCの口から敵の強さを語らせたり、前もって顔見せをしたりして、充分な準備を整えておきましょう。既成のシナリオでもこういった配慮が欠けているケースは少なくありませんが、こういった演出やノリといったものはプレイグループごとの差が大きいので、いずれにせよ最終的にはDMに頑張っていただくことになります。
以上、今回のコラムが皆様の楽しいD&Dセッションに繋がれば幸いです。それでは、次回以降の配信もお楽しみに!
『水曜夜は冒険者!:マスタリングのうらがわ』
著:塚田与志也
監修:柳田真坂樹
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