はじめのはじめに
水曜夜は冒険者――場所はおなじみ東京は代々木、ホビージャパンの会議室から。
今までは日本全国、いや全世界で同時に遊ばれる店舗イベント、D&Dエンカウンターズのプレイ風景を配信してきましたが、実は今シーズンのD&Dエンカウンターズはこれから発売されるシナリオ(『Murder in Bulder’s Gate』)をお店で遊びましょう、というコンセプトだったりします。
となると、この先発売されるかも知れないシナリオを公然とネタバレ配信してしまうわけにはいきません。
というわけで今シーズンのD&Dニコニコ生放送は、かつてアーケードゲームとして人気を博し、そしてこのたびカプコンからPS3ソフト『ミスタラ英雄戦記』に収められて発売された名作ベルト・アクション『D&Dシャドー・オーバー・ミスタラ』(以下『SoM』)をDM・柳田真坂樹がD&D4版にアレンジして遊びます。さらに今回は、エンカウンターズでおなじみの1~3レベルPC(英雄級)ではなく、それより10レベルほど上の伝説級――“現実の感覚でいえばぎりぎり歴史の教科書に名前が載るぐらい”、“微妙に人間じゃなくなってくる”――のところのPCたちで遊んでゆきます。
このぐらいのレベルになると、キメラやマンティコアといったD&Dでも有名なモンスターとも対決することになり、冒険は「まさにD&D!」と言った体を為してきます。楽しみにしていてください!
英雄、もとい、伝説の勇者たち参上!
さて、第0回。全国各地ではちょうどキャラクター作成をしている頃、こちらでもPL、キャラクターともども顔合わせ。
まずはSoMのキャラ再現枠その1、クレリック/バトル・チャプレン(『プレイヤーズ・ハンドブック』および『信仰の書』所収)の“祝福されし者”グレルダン。2年前の戦い(つまり『SoM』の前作、『D&Dタワー・オヴ・ドゥーム』。やはり『ミスタラ英雄戦記』に所収。悪いリッチが攻めてきたので本拠地の塔にカチコミかけてぶっちらばった)にて魔王デイモスにとどめを刺した冒険者パーティーの一員。太陽神ペイロアを奉じる筋骨隆々たる僧侶。デイモス亡き後も、彼の企みにはまだ何か裏があるのではないかといぶかしみ、調査の冒険を続けている。
ちなみにシナリオ開始前はまだ顔が決まっていなかったのだけど、視聴者からの圧倒的な声によりハゲのおっさんということに。2年前はまだ髪の毛あったっぽいのになあ。プレイヤーは出目に定評のある堀内裕之。
続いて再現枠その2、ウィザード(メイジ)/エニグマティック・メイジ(『ヒーローズ・オヴ・フォールンランズ』所収)のメギス。ライトニングボルトとかファイヤーボールとかいっぱい撃つ系の魔法使い。今回の物語が始まるトリンタン村出身で、いわゆる“村の英雄”。グレルダンとは共に名を知る仲であり、彼の調査にと同行していた。
実はメギスは前シーズン、前々シーズンでも使用したキャラクター。今回は12レベル開始となったが、ここまでレベルが上がってくると魔法使い系は他のクラスと比べて圧倒的にHPが少ないということに愕然としていたりいなかったり。プレイヤーはTCG、『マジック・ザ・ギャザリング』の記事翻訳などで活躍中、若月繭子。
ここからは“D&DではメジャーだけどSoMには登場しそびれた枠”。レンジャー(ハンター)/ピアレス・ハンター(『ヒーローズ・オヴ・フォーゴトン・キングダムズ』所収)のエルカンタールもメギスと同じく、以前のシーズンで使用したキャラを12レベルまでレベルアップ。今回、SoMを再現するにあたり、彼の種族ドラウ(ダークエルフ)をゲームに登場したシャドーエルフと同じものとして扱うことになりました(厳密には違うのです)。
長弓を撃つ武勇の技、精霊の声を聴く原始の技を駆使する野外活動のエキスパート。パーティーのユーティリティを一手に担う、目にして耳にしてその他いろいろ。メギスとは過去のシーズンで知り合ったことを踏まえ、かつて一緒にパーティーを組んだ顔なじみということに。プレイヤーはこの配信が始まってからずっと参加の宮坂健。「そろそろ復帰枠とも言えなくなってきましたね(笑)」とは本人の弁。
アウトロー的イメージの種族が続きます。パラディン/チャンピオン・オヴ・オーダー(『プレイヤーズ・ハンドブック』所収)のブラント。嵐の神コードを奉じる微妙にやさぐれ系ハーフオークパラディン。黒馬にまたがり、首もとに髑髏の象嵌、そして胸元にはコードの聖印の象嵌が施された黒ずくめの鎧(『モルデンカイネンの魔法大百貨』所収のエボン・アーマー)をまとった一見ヤバそうなかさばる男。
そらそうとコードの属性は混沌なのにチャンピオン・オヴ・オーダー(秩序を体現せるもの)とはナニゴト、と早速突っ込まれていたとか。プレイヤーはレヴナント、ミノタウロス、ハーフオークとパラディン種族の組み合わせに挑み続ける堀江貴広。
最後はいそうでいなかったD&Dスタンダードのキャラクター。ファイター(スレイヤー)/ミシック・スレイヤー(『ヒーローズ・オヴ・フォールンランズ』所収)の“魔剣探索者”アーズ。
代々魔剣を探す家系に生まれたハーフリング。ひときわ小柄な身でありながら、見出した魔剣を己が手で振るってみたいと訓練を積み、ついにハーフリングにとっては巨大な剣、バスタード・ソードを意のままに振るうまでになった小さな大剣士。ちなみに魔剣を見つけたら心置きなく貰えるように、開始時の武器は(他の人はみんな+3武器を持っているけど)わざわざ+2武器にしたのだとか。
プレイヤーは今回初参加。旅するTRPG『りゅうたま』のデザイナーにして、TRPGカフェDayDreamにて腕を奮う、プロのゲームマスター岡田篤宏。
りゅうたま公式ブログ(http://ryu0tama.blog.shinobi.jp/)
テーブルトークカフェDayDream(http://trpgtime.hobby-web.net/first/)
【序章】
奇妙な3人連れが、ブロークンランドを突っ切って流れる川沿いの街道を北上して行く。大柄な僧侶と細身の魔道士はこれまで冒険を共にしてきており、そして魔道士メギスの故郷の村に足を向けたところ。そこに魔道士のかつての知り合いであるシャドーエルフの青年が行き合い、こんなことを言い出した。
エルカンタール:「わたしがある日休んでいると、この地を守り統べる精霊ラファエルからヴィジョンを受けた。今はアエングモアと名を変えた、アルフハイムの森にある樹齢1000年を越すという巨大なオーク樹。その樹が悲鳴を上げている。邪悪な企みがその偉大な木を傷つけているんだ」
彼はそれを救いに行かねばならぬと言った。ヴィジョンはともあれ途中までの道は一緒なので共に行くことにする。
すると今度はもっと奇妙なものに行き合った。
大剣が直立してひょこひょこと地面を歩いている。
すわ化け物かと思ってよく見ると、やはり剣が歩くはずもなく、身の丈身幅をすっぽり覆い隠すほどの大剣を背負った若いハーフリングなのだった。ハーフリングは僧侶を見ると、はっとしたふうで、
アーズ:「あなたはもしや、セーブルタワーの英雄の方じゃありませんか」
グレルダン:「いかにも。私は“祝福されし者”グレルダン」
アーズ:「うわあ、本当に英雄の方だ。僕はアーズと言います。ひょっとしてあなたはこの地のどこかに魔剣があるとかいう噂をきいたことは」
グレルダン:「うむ、知らぬ」
がっかりした上にシャドーエルフが一行に混ざっていることを見とがめたアーズがその場を後にしようとするのを当のシャドーエルフ、エルカンタールが口八丁で引き留め、そうして一行が4人になったところを遠くから見ている――黒馬に乗ったばかでかい男。
男はちょうど、どこかからの使いの者らしき人物に、読み終わった手紙を渡し「御意のままに、とお伝えしろ」と唸ったところ。しかめっ面で虚空を眺め、そして視線の先に一行を認めると、にやりと笑った。
ブラント:「ああ、あいつらと一緒に行けばいいのかな――おーい、そこの人ォ!」
叫んだときにはもう馬の腹に拍車を当て、走り出している。
そこの人、と呼びかけられて立ち止まれば、土ぼこりを上げて駆け寄ってくる黒馬と、その上の黒ずくめの男。思わず身構える一行の目の前で男は悠々と馬を止め
ブラント:「あー、一緒に行っても構わんかな。ひとりっきりってのはなぁ、淋しいのよォ」
そうして冑の面頬を上げると、下唇から除く小さな牙。ハーフオークだ。
ブラント:「怪しいもんじゃない、俺はブラント、ほぉらこの通りコードのパラディンよォ」
そんなこんなで5人連れになった。
【ゴブリンと馬車】
そうして進んでゆくうち、ふと、エルカンタールが足を止めた。
エルカンタール:「この先に、敵が。ゴブリンの大群、そして獣が――アウルベアが2頭」
メギス:「なんだと? この先は私の家のある村だが」
エルカンタール:「では、村が襲われたんでしょう。おそらく村人たちを詰め込んだ馬車が3台――先頭には娘たち、次の馬車には子どもたち、最後の馬車には男たちが」
妖精の射手の目は道の遥か先で何も気づかずにいる敵どもをはっきりと捉えている。
エルカンタール:「敵はゴブリン。群れを成し1体の獣のごとく動くゴブリンと、それにアウルベアが2体。さて、わたしが世間で言うような悪党かどうか、今こそはっきりわかるだろう。迎え撃つ準備を」
抑えたその声が消える頃には、道の上にはメイスを引っ提げて仁王立ちしたグレルダンただひとりが見えるばかり。
木の陰に滑り込みざま、エルカンタールは弓を引き絞った。強弓が唸り、油断しきっていたゴブリンの馬車の側面に矢が突き立つ。が、見えるのは道の真ん中に立つ太陽の化身のごとき禿頭の僧侶ただひとり。轢き殺せ、とゴブリン御者は金切声を上げ、馬に鞭をあてる。馬車が猛然と走りだそうとした瞬間。
再び凄まじい勢いで飛んできた矢が、今度は先頭の馬車の手綱を射切った。悲鳴のようにいなないて馬が棹立ちになり、馬車は大きく揺れて止まりかける。そこへ茂みの中からぬっとハーフオークの騎士が現れる。そしてにやりと笑いざま、すぐ隣のアウルベアには目もくれずに馬車をきれいさっぱり叩き壊す。これはまずい、と、後続の馬車は道を外れて脇の草地に突っ込み、するとその先には呪文を紡ぐ最中で無防備なメギス。危ない、と思った刹那、傍らの岩の上から大剣を振りかぶった小さな影が宙を舞った。
〈軽業〉判定、PL岡田の振ったダイスの出目は20。続いて攻撃もヒット。
ハーフリングの剣士が御者台に降り立った時には、ゴブリンの御者は袈裟がけに切られており、紙一重で馬車はメギスの脇に逸れ、止まる。
メギス:「魔術師ケルゴアの不可避の炎(ケルゴアズ・アンディナイアブル・ファイアー)!」
メギスの唇が呪文の最後の一音を紡ぎきった。避け得ぬ炎がゴブリンどものはらわたの奥から燃え上がる。群れを成すゴブリンの数匹が、目や口から炎を吹いたかと思うと黒こげになって倒れた。が、生き残った連中はおぞましい波のようにメギスの痩躯を押し包む。
グレルダン:「怯むな、ペイロアの威光まさにこの場に顕現せり!!」
僧侶の声が轟く。我が側に立って戦うものに神の導きあれ。割れ鐘のような声が祝福(ブレス)の祈祷を唱え終わると同時に、一行の身体は陽光の色に輝き始め、神に導かれた太刀筋は正確無比なものとなる。具体的にはこの遭遇の間すべての攻撃ロールが+1される。
手綱を射切ったエルカンタールは、次にアウルベアの足元めがけて矢を放った。途端に地面から炎が噴き上がり、獣を、そしてゴブリンどもを焼き焦がす。緑の焔(ヴァーダント・フレイムズ)、狩人の矢が原始精霊たちの命の火を呼び起こしたのだ。この炎の中では敵ども逃げも隠れもならず無様に撃たれ、木切れのように燃えるばかり。が、その炎がメギスを傷つけることはない。
その脇ではかさばる騎士とかさばる僧侶が2体のアウルベアと、それぞれ血みどろの殴り合いを演じていた。獣の鉤爪がブラントの心臓近くをざっくりとえぐる。ハーフオーク騎士の目が血の色に変わる。
ブラント:「やりやがったなぁ、てめえらよォ」
ブラントの唇がめくれあがり、とがった牙がはっきりと見えた。仮にも聖騎士を名乗る者が見せていいはずもない、怒り狂った獣の形相だった。山砕きの鎚(モルデンクラッド)が唸りを上げた。力任せに叩き付けられた鎚の下で、骨が砕け、内臓がへしゃげる嫌な音がした。狂乱の一撃(フレンジーイング・スマイト)、本来なら“堕ちたパラディン”ことブラックガードのみが使う技。さらにハーフオークの血が怒りの火に油を注ぐ。振り抜かれた鎚の勢いで半ば潰れた獣は数フィート跳ね飛ばされ、ぐしゃりと地面に落ちて、もう動かなかった。
グレルダンにつかみかかった獣はもう少しだけ命を長らえた。両手で僧侶をつかみ、金切声を上げながらその禿頭をついばもうとしたとき。
その背後でアーズが3台目の馬車めがけて飛びかかっていた。急進(サドン・スプリント)――あり得ない距離を瞬時に走りきったかと思うと、次の瞬間には御者台に飛び乗って哀れな御者を斬り殺し、そうして振り向きざまにアウルベアの首を刎ね飛ばしていた。なので、勢い余ったくちばしは危ういところでグレルダンを逸れ、がちがちと宙を噛みながら、地面に転がった。メギスの雷撃がゴブリンの数を大幅に減らし、かなわないと潰走しはじめた生き残りも、
エルカンタール:「わたしはね、弱い者には強いんだ」
と嘯く狩人の矢で1匹残らず仕留められた。こいつらを村に戻して我々のことをしゃべられてはかなわない。
【そして勇者の名は】
モンスターどもは1匹残らず死体になって転がってしまった。痩躯の魔道士が馬車に駆け寄る。
メギス:「おい、粉屋のスミスじゃないか。鋳掛屋のジョンも。どうしたんだ、いったい何があった?」
黒い肌をしたエルフの青年は恐ろしげな見かけとは裏腹に親切で、そしてこれまた少年のような見かけとは裏腹に巨大な剣を振り回して馬車を止め、怪物を斬り殺したハーフリングの剣士と一緒に、村人たちの縄を切って回っている。禿頭の僧侶は黒ずくめの――一応、鎧に刻まれた聖印からすると戦神コードのパラディンらしい――男と一緒に、怪我人がいないかどうか見て回る。
ようやく人心地ついた村人たちが語った話は、恐るべきものだった。
村を、ゴブリンとノールの軍隊が襲ったのだという。そう、単なる烏合の衆ではない。統制のとれた軍隊、しかも連中は火を噴くやぐらを先頭に押し立てて村の門を破り、なだれこんできたのだそうだ。そして、その時死ななかった村人はそっくり馬車に詰め込まれ、どうやら奴隷として連れて行かれるところだったらしい……
「本当に、ありがとうございました」
救い出された娘たちは互いに寄り添って震えているふうだったが、とうとう一人が思い切ったようにこんなことを言った。
「どうか、お名前だけでも教えて下さいませんか」
というわけで今回はオープニング終わって“名前を入力する”ところまで。
DM・柳田の言うには、次回はカプコンの方もいらしてくださるとのこと。で、PL陣にはまず普通にゴブリン・ウォーマシーンでひどい目にあってもらい、続いてTRPGのほうでもゴブリン・ウォーマシーンでひどい目にあっていただきます、らしい。
電源ありのゲームで慣れ親しんだシーンが再現できたり
電源ありのゲームではやりたくてできなかったことが宣言できたり
それでもやっぱりひどい目にあったり
D&Dを遊ぶのと同時に、電源ゲームをTRPGで遊びなおしてみるというのもまたおもしろいものですよ、というのもお見せしていければな、と。
『水曜夜は冒険者!:ミスタラ英雄戦記 On the Table~』
ステージ1:OPENING:ブロークンランドの北の山々
著:滝野原南生
監修:柳田真坂樹
イラスト:チョモラン
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ホビージャパン
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セッションの風景がまざまざとよみがえる、良い読み物でした。
改めて、素敵な冒険が始まったなぁ、と思います。
これを書いている時点で、次は第3回の川下り。
イカダを見ると全滅の二文字が頭をよぎりますが、さてどうなるか…。