おくやまです。

昨日の放送(http://live.nicovideo.jp/gate/lv275717905)や
本日のブログ(http://geopoli.exblog.jp/26251067/)でも紹介したように、
ナショナル・インタレスト誌に
とても興味深い挑発的な記事が掲載されておりました。

※【Youtube無料動画】
▼日韓は核武装して中国を牽制せよ!(米大教授が指摘)
|TSJ / 奥山真司の「アメ通LIVE!」 
https://youtu.be/8QaEsvsMlUQ


そのタイトルは、ズバリ「日韓を核武装させよ」というもの。

ところがその内容は実は3段階になっておりまして、

①北朝鮮が核拡散を続けることによって
 北東アジアの不安定の要因になっている

②その北朝鮮を支えているのは中国だ

③中国を本気にさせるためには日韓に核武装させよ

ということなのです。

ここまであからさまに
北朝鮮の崩壊を提案している記事も珍しいわけですが、
私が気づいたのは、以下の3つの点。

第一に、核武装という物騒なことも、
実はクラウゼヴィッツが『戦争論』で説いているような、
国家の政策にとってのツールでしかない、
という冷酷な事実です。

「核武装」というのは、日本国内の一般的な感覚としては、
即「戦争」と同じくらいタブーの香りのする、
できれば触れたくないトピックであります。

ところがわれわれはそのために思考停止しているわけで、
これをあえて「利用しよう」という考えには至りません。

われわれは戦後70年間に安全保障の問題について
自分のこととして向き合わず、
なるべくタブーには向き合わずに過ごしてきたわけですし、
しかも向き合わずに過ごせてきたわけですから、
ある意味で幸せだったわけです。

ところが国際政治のパワーゲームとしては、
このような「タブー」で脅しをかけるというのは日常茶飯事。

もちろん日本がそれをしろ、とはいいませんが、
まずそのような現実があることに気づくことも重要でしょう。

第二が、ハッタリの重要性です。

紹介したこの論文では、
「日本(と韓国)に核武装をさせろ」とは言っておりますが、
「核戦争をしろ」とは言っておりません。

むしろそこで主張されているのは、
いざ日韓が計画を本気で進め始めたら
(というか、そのモーションを見せれば)、
中国は「マズイ」と気づいて北の崩壊に進むはずだ、
ということです。

もちろんこれは(ルトワック的にいえば)
中国側がどう感じるかという「反応」的な部分もあるので、
中国が北朝鮮崩壊を本気で始めるかどうかは微妙です。

また、これに気づいた北が、
日本や韓国でテロ活動を始める、というリスクもあるでしょう。

それでも政治家は、時として国際的な舞台で
「ハッタリ」をかますことが必須となります。
そしてそれを本当に必要なタイミングで、
必要な形で言えるのかが勝負です。

古代ギリシャの哲人アリストテレスは、
政治家に最も求められるべきものは「勇気」である
と説いております。

そしてこの要素が最も発揮されるのは、
このような(核武装をするという)「ハッタリ」が
必要になってくる瞬間なのです。

もちろん日本は必ずしも核武装をする必要はありません。
ただしその「脅し」を使う覚悟は絶対に必要なのです。
その覚悟に必要なのが、政治家の勇気なのです。

第三が、クラウゼヴィッツの説く「重心」です。

たとえば今回の核武装論文では、
まず北朝鮮の核拡散や
北東アジアの不安定の最大の要因は北朝鮮であるので、
その政権を崩壊させることが重要だ、
という目標が掲げられます。

ところがその目標の達成の
最大のカギを握っているのが中国の存在。

ではこの中国が一番嫌がることであり、
脅威を受けている国々にとっても
合理的な解の一つである核武装を、
近隣の日本と韓国にさせろ、
ということを述べているのです。

つまりここでの「重心」はあくまでも中国にあり、
ここが相手方の権力の源泉であり、
そこを動かせば目標は達成できる、
ということなのです。

「どこにパワーがあるのか」

を見極めるのは、戦略思考やリアリズム的な視点
を身につける上での基礎中の基礎。

この論文は、そういう意味では
余計なことをいわずに、
あくまでも要点だけを述べている
という意味では合理的です。

もちろんだからといって、
私は紹介した論文のように
「日本も核武装をすべきだ」とは思っておりません。

ただし、そうするかもしれない
という脅しを「ツール」としてとらえ、
それを実際に使えるだけの「勇気」を備え、
そして、どこに「重心」があるのかを見極める。

これが、国民の生命と財産を守る役割を担っている
リーダーとしての政治家だけでなく、
われわれ一般国民にも必要である。

この論文を読んであらためて感じた次第です。

( おくやま )

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http://www.realist.jp/Clausewitz.html