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なかったことになったあの戦争(アメリカ大統領選挙テレビ討論会)|THE STANDARD JOURNAL 2

2016/09/30 12:24 投稿

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先日の放送でも触れましたが、
今回の大統領選のキャンペーンを通じて
全く話題になっておらず、
むしろ避けられているトピックがあることを紹介しました。

※【Youtube無料動画】
▼無かったことになったアフガン戦争/「Credibility」
|TSJ / 奥山真司の「アメ通LIVE!」 
https://youtu.be/-evHbKwfzNw

それは、もうすぐ開始から15年を迎える
アフガニスタンでの戦争です。

NYタイムズ紙の記事によれば、
民主党のヒラリーも共和党のトランプ両候補が
全く触れない理由は、どちらが触れても損するだけだから、
というもの。

▼15 Years Into Afghan War,
   Americans Would Rather Not Talk About It
http://www.nytimes.com/2016/09/21/world/asia/afghanistan-war-15-years-americans.html

たしかにアフガニスタンでの戦争というのは、
開始したのはブッシュ政権時代の共和党でしたが、
それを継続させたのは民主党のオバマ政権。

少し前に起こったNYでの爆弾事件で捕まった犯人が
アフガニスタン出身のイスラム系の人間であったことを考えれば、
彼らがその話題にほとんど触れなかったのは実に奇妙です。

この記事では、それほどまでに
アフガニスタンでの「失敗」が、
アメリカのリーダー層に重い影を落としているという、
その暗い雰囲気が伝わってきますし、
それをあえて見ないようにしている
アメリカのトップの人間たちの哀しさが伝わってきます。

「じゃあアメリカはアフガニスタンから
 あっさり撤退すればいいじゃないか」

とお感じになられる方もいるでしょう。

たしかにその通りです。

ところがアメリカのような大国の、
とくにエリート層の人間というのは、
自分たちの戦略が完全に破綻している
ということを知りながら、
それでもやめられない事情があるわけです。

その核心にあるのが、
「信頼性」(クレディビリティ)の問題。

戦略系やリアリスト系の文献などで
以前から指摘されていることですが、
アメリカのような大国のリーダーたちは、
すでに自分たちの戦略が破綻していても、

「それ以上失敗したら、アメリカの評判や信頼性に傷がつく」

と言って、その解決する望みのないプロジェクトを
ダラダラと続けてしまうということです。

これに似たような前例はいくらでもあります。

たとえば朝鮮戦争が勃発した時(1950年)ですが、
この時には中央情報局(CIA)が
当時のアイゼンハワー政権の政権幹部たちに対して、

「アジアで共産主義(北朝鮮)の南下を許してしまったら、
ソ連に対峙している欧州のNATOの同盟国たちにも動揺が起こる」

「だからこそアメリカはここで踏みとどまり、
 同盟国の信頼を維持しなければならない」

という内容のメモを送り、
ダレス国務長官は朝鮮介入を決心しております。

要するにここで決定的な動機になったのが、
アメリカの「評判・信頼性」というもの。

ところが
実際にアメリカが朝鮮戦争を開始していたときに、
当の「アメリカの信頼性」を感じていたはずの欧州側の人間が
どう思っていたのかというと、

「アメリカはアホか、極東の変なところで戦争してないで、
 欧州正面のソ連の脅威にしっかり対抗してくれ!」

と感じていたということが、
当時の政府高官のメモなどから
明らかになっております。

つまり欧州側は
アメリカが極東で共産主義の南下を防いで
信頼性や評判を保つかどうかは全く意に介しておらず、
ひたすら自分たちの安全だけを考えていた、
ということなのです。

これはルトワック的にいえば、
アメリカのエリートたち
(CIAから政府高官、大統領まで)は、
「信頼や評判を守るアメリカ」という存在を
「発明していた」
ということになります。

もちろん朝鮮戦争がアメリカにとって
失敗だったかどうかは別問題ですが、
ここで私が指摘したいのは、
今回のアフガニスタン戦争の場合にも
アメリカのエリート層の中に同じような心理状態が働いている、
ということ。

なぜなら冒頭に紹介した記事にもあるように、
アメリカは今後、アフガニスタンの崩壊を防ぐために、
毎年定期的に1〜2兆円の支出を
続けなければならないわけです。

しかもこれは、
ただの「現状維持だけのための費用」ですから、
どう考えても米軍や政府内での士気は上がりません。

結果として、現在の大統領選挙でも
アフガニスタンの戦争は「なかったこと」
にしようという傾向が強くなるのは当然でしょう。

そういった意味で、
われわれが気をつけなければならないのは、
このような、
「失敗したという評判を気にしてダラダラ続ける」
という悪癖であり、これは(エリート)集団だけではなく、
個人にもすべからく当てはまるという点です。

戦略の失敗は、われわれの怠慢な気持ちや
余計な「発明」から生まれます。

アフガニスタンにおけるアメリカの
「公然の失敗」を例に挙げるまでもなく、
われわれもそれぞれ肝に銘じておきたいものです。

( おくやま )


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