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進撃する巨人、ロシア。|THE STANDARD JOURNAL

2014/05/02 18:10 投稿

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おくやまです

読者の皆さんもご存知かもしれませんが、
数日前のことですが、このようなニュースがありました。

===

日本の対ロ制裁に失望=報復制裁も-ロシア
http://goo.gl/IEksBz

【モスクワ時事】ロシア外務省は29日、声明を出し、
ウクライナ危機をめぐる日本の対ロ追加制裁に「失望」の意を表明した。
その上で、報復制裁に出る可能性を示唆した。

日本は29日、先進7カ国(G7)と足並みをそろえ、
ロシア政府関係者ら計23人に対する入国査証(ビザ)発給を
当面停止する制裁措置を発表した。

ロシア外務省声明は「この(制裁)措置は外圧によるもので、
日ロ関係の全般的発展が重要だとする日本の見解と矛盾する」と指摘。
その上で「制裁をもって対話するのは非生産的であり、
日本が対ロ制裁に参加しても、ウクライナの緊張緩和に寄与しない」と批判した。

一方、ロシアのパノフ元駐日大使は国営タス通信に対し、
日本の制裁は資産凍結を含まず、欧米に比べて柔軟だとし、
その狙いは「制裁下でも戦略的関係を継続し、
政治対話と経済協力を維持することにある」と述べた。

===

いやはや、アメリカやEUにつきあう形で、
日本もロシアに対する経済制裁を行い、
ロシアはそれに対して怒った、というニュースです。

ここでロシアがしたたかなのは、
「日本は外圧でつきあわされてやってるんだから見逃してやる」
ということを言外に含んだコメントを出していることです。

あの「天安門事件」の後の中国のように、
「一番先に助けてくれよ」とでも言いたげですね。

今回、皆さんと考えてみたいのは、
この「経済制裁」(economic sanction)についてです。

-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-

論者によって分かれるのですが、
「経済制裁」というのは、「戦争」とまではいきませんが、
国際的にはけっこうな「敵対行為」だと見なされます。
当然、国家間の関係にかなり深刻な影響を及ぼします。

いわゆる「平和憲法」を大事にしている日本ですが、
「経済制裁」という名の「戦力」を行使することについては、
政府見解においても「実行してもOK」ということになっております。

ところが・・・ここにはそもそも根本的な問題があるのです。
それは何かというと、この「経済制裁」というものは、
実は効かないことのほうが多いのです。

はい。ここで、今回も読者の皆さんからの
厳しいツッコミが・・・脳裏をよぎりました。

これはどういうことか?と言いますと、
まず、「経済制裁」というのは、国際関係論の世界では
専門に研究している人がおりまして、
その中でもとくに有名なのが、アメリカのタフツ大学の
ダニエル・ドレズナー(Daniel W. Drezner)という方です。

この人はちょっとひねくれた「リアリスト」なのですが、
『ゾンビ襲来:国際政治理論で、その日に備える』
(http://goo.gl/fR0BE)
という国際関係論の入門書が翻訳もされておりますので、
読者の皆さんの中でもご存じ方もおられるかと思います。

このドレズナー教授が、経済制裁の一般的なメカニズムとして
「制裁のパラドックス」(sanctions paradox)
ということを言っているわけです。

これはいったいどういう意味なのか?というと、

自国と制裁を加える相手国が、
長期間の親密な経済関係で結ばれていないと、
「経済制裁」は効果を発揮しない

といういうものです。
はい。ここで、こんな声が聞こえてきそうですね・・・

「なんかややこしいな、その説明は」

これ、要するに、

「カネをわたさないぞ!(経済制裁するぞ!)」
と脅して本当に効果があるのは、
そもそも親しい相手じゃないとダメ、ということです。

ここで、ちょっと考えてみるとわかるのですが、
この「経済制裁」という<脅し>を行おう!という時点で、
そもそも、その二人というのは仲が悪くなっている・・・
というのが普通ですよね。

当然、ビジネス関係なども切れかかっているわけですから、
<脅し>ても、そもそもあまり効果がないわけです。

ああ矛盾。

例えば、現在のアメリカが、貿易関係のつながりの深い
日本やカナダに対して経済制裁を行うのであれば、
それは最大の効果を発揮するでしょう。

ところが事実上経済関係のないキューバなどに対して
「経済制裁」を加えても、効果はほとんどありません

と言われると、わかりやすいですね。

日本の場合を考えてみると、例えば、
北朝鮮に対しては、2004年頃から特別に法律を作って
経済制裁を続けております。

しかし、そもそも拉致問題などで両国関係は疎遠であったため、
この制裁によって北朝鮮が態度を改めたか、
となると、これは微妙なところがあります。

このような事例からも明らかなように、
ドレズナー教授は以下のような「パラドックス」を指摘します。

●経済制裁というのは、
 最も使われなさそうな場合に最大の効果を上げ、
 最も使いたいケースでは最少の効果しか期待できない。

うーむ。確かにこれは「矛盾」です。

アメリカや日本が、ロシアに対して経済制裁をしたところで、
EU諸国に比べれば経済的な結びつきは少ないため、
ロシアに対する影響も限定的とならざるを得ません。

アメリカとしては、ここはやはり、
ロシアとの結びつきの強いドイツや中国に
積極的に動いてもらいたい、
というのが本音でしょう。

しかし、EU諸国はロシアとの間に大きな経済関係がありますから、
実のところ、制裁なんかしたくありません。

それどころか、スキあらばその制裁の網目をかいくぐって
利益さえ上げたいと思っているのが、本音なわけです。

このような身も蓋もない現実の中で、
日本の外交関係者も、腹の底では
「どうせ経済制裁なんてしたところで、対して効かねぇだろうなぁ」
とぼやいているでしょう。
しかしアメリカとのお付き合いは最重要課題ですから、
アメリカへの支持表明の「ポーズ」という意味合いも含めて、
今回のような発表をしたというのが、実際のところ。

こうして、「経済制裁」は、実質的な効果をそれほど上げぬまま、
衰えたりとは言え、<地政学的なグレートゲーム>における
"巨人"であるロシアの”進撃”が進むことになるのです。

( おくやま )





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