おくやまです。
読者の皆さんもご存知かもしれませんが、 数日前のことですが、このようなニュースがありました。 === 日本の対ロ制裁に失望=報復制裁も-ロシア http://goo.gl/IEksBz 【モスクワ時事】ロシア外務省は29日、声明を出し、 ウクライナ危機をめぐる日本の対ロ追加制裁に「失望」の意を表明した。 その上で、報復制裁に出る可能性を示唆した。 日本は29日、先進7カ国(G7)と足並みをそろえ、 ロシア政府関係者ら計23人に対する入国査証(ビザ)発給を 当面停止する制裁措置を発表した。 ロシア外務省声明は「この(制裁)措置は外圧によるもので、 日ロ関係の全般的発展が重要だとする日本の見解と矛盾する」と指摘。 その上で「制裁をもって対話するのは非生産的であり、 日本が対ロ制裁に参加しても、ウクライナの緊張緩和に寄与しない」と批判した。 一方、ロシアのパノフ元駐日大使は国営タス通信に対し、 日本の制裁は資産凍結を含まず、欧米に比べて柔軟だとし、 その狙いは「制裁下でも戦略的関係を継続し、 政治対話と経済協力を維持することにある」と述べた。 === いやはや、アメリカやEUにつきあう形で、 日本もロシアに対する経済制裁を行い、 ロシアはそれに対して怒った、というニュースです。 ここでロシアがしたたかなのは、 「日本は外圧でつきあわされてやってるんだから見逃してやる」 ということを言外に含んだコメントを出していることです。 あの「天安門事件」の後の中国のように、 「一番先に助けてくれよ」とでも言いたげですね。 今回、皆さんと考えてみたいのは、 この「経済制裁」(economic sanction)についてです。 -:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:- 論者によって分かれるのですが、 「経済制裁」というのは、「戦争」とまではいきませんが、 国際的にはけっこうな「敵対行為」だと見なされます。 当然、国家間の関係にかなり深刻な影響を及ぼします。 いわゆる「平和憲法」を大事にしている日本ですが、 「経済制裁」という名の「戦力」を行使することについては、 政府見解においても「実行してもOK」ということになっております。 ところが・・・ここにはそもそも根本的な問題があるのです。 それは何かというと、この「経済制裁」というものは、 実は効かないことのほうが多いのです。 はい。ここで、今回も読者の皆さんからの 厳しいツッコミが・・・脳裏をよぎりました。 これはどういうことか?と言いますと、 まず、「経済制裁」というのは、国際関係論の世界では 専門に研究している人がおりまして、 その中でもとくに有名なのが、アメリカのタフツ大学の ダニエル・ドレズナー(Daniel W. Drezner)という方です。 この人はちょっとひねくれた「リアリスト」なのですが、 『ゾンビ襲来:国際政治理論で、その日に備える』 (http://goo.gl/fR0BE) という国際関係論の入門書が翻訳もされておりますので、 読者の皆さんの中でもご存じ方もおられるかと思います。 このドレズナー教授が、経済制裁の一般的なメカニズムとして 「制裁のパラドックス」(sanctions paradox) ということを言っているわけです。 これはいったいどういう意味なのか?というと、 自国と制裁を加える相手国が、 長期間の親密な経済関係で結ばれていないと、 「経済制裁」は効果を発揮しない といういうものです。 はい。ここで、こんな声が聞こえてきそうですね・・・ 「なんかややこしいな、その説明は」 これ、要するに、 「カネをわたさないぞ!(経済制裁するぞ!)」 と脅して本当に効果があるのは、 そもそも親しい相手じゃないとダメ、ということです。 ここで、ちょっと考えてみるとわかるのですが、 この「経済制裁」という<脅し>を行おう!という時点で、 そもそも、その二人というのは仲が悪くなっている・・・ というのが普通ですよね。 当然、ビジネス関係なども切れかかっているわけですから、 <脅し>ても、そもそもあまり効果がないわけです。 ああ矛盾。 例えば、現在のアメリカが、貿易関係のつながりの深い 日本やカナダに対して経済制裁を行うのであれば、 それは最大の効果を発揮するでしょう。 ところが事実上経済関係のないキューバなどに対して 「経済制裁」を加えても、効果はほとんどありません と言われると、わかりやすいですね。 日本の場合を考えてみると、例えば、 北朝鮮に対しては、2004年頃から特別に法律を作って 経済制裁を続けております。 しかし、そもそも拉致問題などで両国関係は疎遠であったため、 この制裁によって北朝鮮が態度を改めたか、 となると、これは微妙なところがあります。 このような事例からも明らかなように、 ドレズナー教授は以下のような「パラドックス」を指摘します。 ●経済制裁というのは、 最も使われなさそうな場合に最大の効果を上げ、 最も使いたいケースでは最少の効果しか期待できない。 うーむ。確かにこれは「矛盾」です。 アメリカや日本が、ロシアに対して経済制裁をしたところで、 EU諸国に比べれば経済的な結びつきは少ないため、 ロシアに対する影響も限定的とならざるを得ません。 アメリカとしては、ここはやはり、 ロシアとの結びつきの強いドイツや中国に 積極的に動いてもらいたい、 というのが本音でしょう。 しかし、EU諸国はロシアとの間に大きな経済関係がありますから、 実のところ、制裁なんかしたくありません。 それどころか、スキあらばその制裁の網目をかいくぐって 利益さえ上げたいと思っているのが、本音なわけです。 このような身も蓋もない現実の中で、 日本の外交関係者も、腹の底では 「どうせ経済制裁なんてしたところで、対して効かねぇだろうなぁ」 とぼやいているでしょう。 しかしアメリカとのお付き合いは最重要課題ですから、 アメリカへの支持表明の「ポーズ」という意味合いも含めて、 今回のような発表をしたというのが、実際のところ。 こうして、「経済制裁」は、実質的な効果をそれほど上げぬまま、 衰えたりとは言え、<地政学的なグレートゲーム>における "巨人"であるロシアの”進撃”が進むことになるのです。
( おくやま )
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