おくやまです

今回は、先日の「ニコ生」の放送中でも取り上げた、
NYタイムズの記事について、更に詳しく考察してみたいと思います。

生放送をご覧になったかたはご存知の通り、
オバマ大統領のアジア歴訪の最中に、NYタイムズが
「アメリカは東シナ海の領土紛争から手を引くべきだ」
というタイトルの記事を掲載誌ました。

これは書いたのは、上海の名門校である
復旦大学のアメリカ問題研究センターの所長である
呉 心伯(Wu Xinbo)教授です。

この論文の要約はすでに私のブログの方に上げてありますが、
その重要部分をまずは以下に引用しておきます。

===

▼アメリカは東シナ海の領土紛争から手を引くべきだ
(http://geopoli.exblog.jp/22554177/)

●ワシントン政府は1971年に尖閣の管轄権を
勝手に日本に返してしまったただけでなく、
「日米安保はこの小さな島々にも適用される」と主張しており、
これは結果として、日本政府にさらに
侵略的な姿勢を北京に対してとらせることにもつながった。

●この問題の平和的な解決法というのは、
究極的には日本政府が紛争の存在を認め、
中国に対して融和的な政策を採れるかどうかにかかっている。

●ところがここで大きな要因となるのは、
ワシントン政府がその戦略を改めて日本を抑制するように動き、
北京政府の海洋権益と安全保障環境についての懸念を
払拭するような合理的な姿勢を採ることができるかどうかという点だ。

===

「なかなか刺激的だなあ」というのが
一般的な感想かと思われますが、
私なりにこの中国の専門家が言っていることの要点をまとめますと、

1.アメリカは尖閣問題から手を引け
2.日本は領土紛争があることを認めろ
3.そうしたら、この問題は棚上げしよう

という3段階の議論になるかと思ってます。

最初に刺激的なこと(アメリカ出ていけ!)とまずぶち上げて、
最後に融和的な解決法(棚上げ)をほのめかすという、
中国の典型的なレトリックを使ってますね。

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さて、私がこの論文を読んでいて気になったポイントが3つあります。

▼ポイント1:上から目線で、自分に非はない。

この手の論文にありがちな「上から目線」は相変わらずで、
日本だけでなく、アメリカに対してもまったく遠慮のないものの言い方をしております。

とくに目立つのは、
「自分には絶対的に責任はなく、悪いのはアンタたちだ」
という徹底した責任転嫁の姿勢でしょうか。

・・・「中国には、強く反発するしか選択肢は残されていなかった」
・・・「究極的には日本政府が紛争の存在を認め、
    中国に対して融和的な政策を採れるかどうかにかかっている」
・・・「アメリカがすべきことは“何もしない”ということだ
    領有権に関する問題では中立を維持し、
    しかもその仲介者になろうとしてもいけない」
・・・「アメリカができる最も建設的なことは、その影響力を使って、
   東京政府に公式に紛争が存在することを認めさせることだ」

など、とにかく「態度を変えるのはお前たち(日米)だけで、
こっちは何も悪くない」という姿勢で首尾一貫しております。

拙訳『自滅する中国』(http://goo.gl/KYMPTj)の中で
原著者のルトワックも指摘しておりましたが、
こういうのはいわゆる「大国の自閉症」から来るもので、
とくにまだ大国政治の経験の浅い中国側の知識人というのは、
どうしてもこのように傲慢で
相手のことを全く考えないものの書き方をしがちです。

ただしこれは、裏を返せば彼らの「被害者意識」というか、
脆弱性を意識したところから出てくる「攻撃性」という見方もできます。

また、重要なのは、彼らが「何を言っていないか」ということでしょう。

たとえばこの論文では
日本側が2012年に勝手に国有化して
棚上げ合意を破棄したと言っておりますが、
中国が92年に勝手に領海法を制定して、
棚上げを崩したことなどには全く触れておりません。

この論者がこの事実を全く知らないという可能性もありますが、
とにかく「すべて日本やアメリカが悪い」という前提から
議論を組み立てていることについては注目すべきかと。

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▼ポイント2:人民日報と意見が一緒

この種の知識人の政策提言や分析は、
往々にして北京の共産党中央からの指示、
もしくはそれをかなり意識したものであることが多い・・・。
このことは、もはや、日本でも周知の事実となっています。

実際のところどうなのか?というと、人民日報の英語版の
Li Xiaokunという人が書いた記事(http://goo.gl/VAvmsI)にも
似たような論調のことが書いてありました。

ここでは香港の新聞の社説として、

「今回のアジア歴訪で米国から保護を約束された日本やフィリピンのような国々は、
 一安心してつけあがることになり、これによって状況を悪化させる」

ということを書いている点です。
それを踏まえた上かどうかは知りませんが、
この復旦大学の先生も、

「安倍政権は(アメリカからの)このような支援を元にして、
 中国に対してさらに強い姿勢を示してくる可能性が高い」

と指摘しており、

「日本が中国に対して一層侵略的になるように、アメリカがけしかけている」

という認識を現しております。

日本を傲慢にさせているのがアメリカであり、
だからアメリカはアジアの同盟国から手を引け、
という論法なのですね。

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▼ポイント3:二国間交渉に持ち込みたい

大国というのはそれぞれ別々の性格や文化を持っているものです。
しかし基本的に共通しているのは、

「自分よりも力の小さい国に対しては一対一で交渉したがる」

という傾向です。

今回の記事の中でこの復旦大学の教授は、

・・・「これは最終的には日中の二国間だけで合意すべきことだ」

と書いており、アメリカは介入するな!
ということをしきりに書いているわけですが、
これはアメリカと日本が一緒になってくると中国の立場が弱まるから、
という「パワー」を冷静に自覚した発言だとも言えるわけです。

彼は最後に、尖閣について「3つのNO」や「棚上げ論」を示して、
解決の用意があることをほのめかしておりますが、基本的にこれも

「自分たちのパワーが強い状況を背景にして交渉したい」

という欲のあらわれだと見なすべきでしょう。

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さて、いかがだったでしょうか。

このような中国側の意見記事を読んでいると、
思わず「またこんなことを言ってる・・・アホか!」
とツッコミを入れている読者の皆さんの姿が想像されます。
本当に「ああ困った」なお話なわけですが、
そうと言っても、日本はまさに<地理的な状況>から、
このような激しい(理不尽?)なことを言ってくる隣国とは、
否が応でも、未来永劫付き合い続けなければなりません。

※だからこそ「ああ困った。」なわけですが(苦笑)

中国側(・・・だけではありませんが・・・)が何を考え、
何を狙い、何を嫌がっていているのか。
「リアリズム」の視点でシビアに見極めないとなりません。

しかし、それ以前に、「そもそも」の話として、
中国側がどのような「戦略」をもって仕掛けてきたとしても、
冷静かつ柔軟に、そして徹底的に反論できるように、
日本人自身が、自らの姿勢、つまり、「日本の戦略」
をしっかり考えて、備えておくことが先決です。

いずれにせよ、「リアリズム」が必要とされることは言うまでもありません。

( おくやま )







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