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戦う前から勝負はついていた!?クリミア情勢|THE STANDARD JOURNAL

2014/03/28 19:59 投稿

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  • 奥山真司
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おくやまです

このところ、ウクライナ情勢についての話題を
ずっと書いておりますが、ここは重要なポイントなので
更に今回もこの話題を引っ張ります。

今回のクリミアの「併合」選挙において
なぜロシア系が圧勝できたのかについて、
前回、「距離」という<地理>的な要素が重要である
ということを指摘しました。

もちろん、私もこれだけで全てを説明できるとは思っておりませんで、
それ以外の要素も取り入れなければならないことは当然であります。

ではクリミアの選挙でのロシア系圧勝の理由について、
まだ他であまり注目されていない

「それ以外の要素」

にはどのようなものがあるでしょうか?

それはクリミア自治共和国内の
「ロシア系の圧倒的な覇権状態」
にあると考えています。

前々回も書きましたが、
クリミア自治共和国内部の人種構成は、人口が多い順に、

1,ロシア系(58.5%)
2,ウクライナ系(24.4%)
3,タタール人(12.1%)

となるわけですが、この状況は、
見方によっては、クリミア内の人種間の「バランス」は、
「はじめから圧倒的にロシアに有利だった」
ということも言えるわけです。

それじゃあ、そもそもはじめから「バランス」なんかなかったんじゃないの?

というツッコミも入るわけですが、ここで一つ
重大なことを指摘しておかなければなりません。

それは「バランス・オブ・パワー」という考え方には、
大きくわけて2つの考え方がある、というものです。

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その2つの考え方とは、

1.バランス・オブ・パワー(balance of power)勢力均衡

2.インバランス・オブ・パワー(imbalance of power)勢力不均衡

ということになります。

「またまた横文字かよ・・・」
と厳しい表情をしている方もいらっしゃるとは思いますが、
これもそれほど難しいものではないので、
ガマンして少々お付き合いください。

まず1つ目。
これは今まで普通に言われてきた、
いわゆる「勢力均衡」という意味です。

いくつかのプレイヤーがいる状況下において、その関係性の中で
突出した勢力を出さないようにするための自律的な動きが起きて
そのことが全体の安定性を生む。

つまり、各プレイヤーの実力にそれほど差がない場合には、
互いのバランスを保とうという動きにつながり、
これが「平和」につながる、
というのが一般的な「リアリズム」の考え方です。

ところが、このプレイヤーたちの中で、
突出したパワーを持つプレイヤーが一人いた場合にはどうなるでしょうか?

それが現在の国際関係における「アメリカ」のような存在であったり、
今回のクリミアにおける「ロシア系」の存在だったりします。

それが

2つ目の「インバランス・オブ・パワー」というものです。

これは突出したパワーの持ち主のおかげでバランスが極端に偏ってしまい、
そのために逆に全体のバランスが「安定」してしまうというものです。

これは、学問的には「覇権安定論」といわれているものです。

ロバート・ギルピンという国際政治経済学者が、
1981年に『世界政治における戦争と変化』
(War and Change in World Politics)
という有名な本の中で提唱したのがきっかけです。
http://goo.gl/9QLmWO

この理論、簡単に言ってしまうと、

「圧倒的なボスや組長がいると、その組織は安定する」

という、なんともあからさまなもの。

実は、これは既に現在のアメリカの対外戦略にも応用されている考え方です。

以前のご紹介した、「オフショア・コントロール」という
アメリカの対中“軍事”戦略についての議論がありました。

この理論を批判した人物である
エルドリッジ・コルビー(http://www.cnas.org/colby)という
元国防省の役人でシンクタンクのアドバイザーが、

「1945年以降の西太平洋におけるアメリカの大戦略は、
 圧倒的な覇権状態を維持すること」
であり、これは「覇権安定論」がその底にあるということを、
正直に認めちゃっているわけです(笑)

※参照※
▼The War over War with China
Elbridge Colby | August 15, 2013
http://goo.gl/eaSqGG
------

このように「圧倒的なパワーが安定につながる」というと、
まるで帝国主義者!?ともとれる意見ですが、
つい最近だと、私が著作を翻訳したこともあるロバート・カプランなども、

「アメリカという帝国は世界の安定に寄与している」

とも取れるような内容の記事を書いております。

※参照※
▼In Defense of Empire
ROBERT D. KAPLAN
http://goo.gl/ykMnFs
------

しかもこれは「ある程度は正しい」と言わざるをえない部分があります。

なぜなら、まさに「覇権安定論」でいうところの、
「一部の圧倒的なパワーによるシステム全体の安定」
という現実を述べているからです。

これは要するに、

「インバランス・オブ・パワー」

という「勢力不均衡」の考え方なんですね。

ここまでのお話を踏まえて、クリミアの件に話を戻しますと、
選挙の時点で、既に「ロシア系が圧倒」という
既存の秩序ができあがっておりました。

つまり・・・

クリミア国内ではすでに
「ロシア系の覇権状態」は完成していたというわけです。

で、いざフタを開けてみれば、案の定、圧勝。

そしてロシア側のロジックとしては、
近くにある(元々はロシアのものである)クリミア半島における
影響力を「回復しただけ」ということになります。

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さて、今回もウクライナ情勢というネタに、
戦略的な視点で、しつこく(笑)色々とツッコミを入れてみました。

今回ご紹介した
「覇権安定論」や、「勢力不均衡」などの考え方に従えば、
アメリカの覇権が崩れると
世界中の至るところで、その「多極化」がもたらす様々な現象が起こる、
ということになります。

その結果、"覇権国"以外の国々は、
その大小を問わず、ますます「戦略的」に"小賢しく"動くことを
求められてきます。

ここで読者の皆さんならば、すでにお気付きかと想いますが、
日本が東アジアにおいて戦略的に厳しい状況におかれつつある原因は、
まさにここにあるわけです。

もちろん私は「だから戦争が起こる」
と言っているわけではありません。

そうではなくて、私が何度でも言いたいのは、

<国際政治における「戦略的」な構造>という視点を持って下さい。

ということです。

<戦略的な構造>とは何ぞや?ということですが、
それは、私がこれまでに言い続けてきた通りです。

「リアリズム」的な議論が復活し、
国際政治における「地理」という確実な要因が再び注目され、
勢力均衡というメカニズム、そして「プロパガンダ」など要素を
もはや無視することは出来ない・・・ということです。

今回のウクライナ情勢は、まだその「序章」なのかもしれません。

( おくやま )
( 管理人 )

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