それでも米中は必ず衝突する 奥山真司
■アメリカはウクライナ危機に介入するか
―― 最近のアメリカの対外政策はシリア問題に見られるように極めて消極的です。オバマ政権の外交政策をどのように見ていますか。
奥山
これはアメリカでよく言われていることですが、アメリカ国民がオバマを大統領に選んだのは、外交政策に期待したからではありません。国民が彼に求めているのは、停滞したアメリカ経済を立て直すこと、すなわち国内問題を解決することです。それ故、オバマ政権が外交に消極的なのはある意味で当然のことです。
また、もともとアメリカのような大国は内向き志向が強くなりがちです。大国は広大な領土と多くの人口を抱えていることもあり、絶えず国内で問題が起こっています。その対応に忙殺されてしまうため、どうしても外交の優先順位は下がってしまうのです。
それは現在の中国の状況を見ても明らかです。中国では国内の治安維持費が軍事費を上回っており、外交よりも内政に力を注いでいることがわかります。
アメリカの消極的な態度は、今回のウクライナ危機への対応にも表れています。2008年にロシア軍がグルジアに侵攻した際、当時のブッシュ政権は対抗手段として他のNATO諸国とともに、黒海に艦船を数隻派遣しました。アメリカはその時、グルジアに近いソチの辺りまで船を進めました。つまり、実際にドンパチが起こっている付近まで軍隊を近付けたということです。
もちろん今回も米軍はミサイル駆逐艦の派遣を決定しましたが、まだ現時点ではクリミア半島で武力衝突が起こっていないので、黒海でのにらみ合いは前回より控え目なものとなっており、アメリカ側の対応は今ひとつ歯切れの悪いものとなっています。地政学的には、黒海の「内海化」をめぐっての争いが再発したと見てよいでしょう。
もっとも、アメリカがいくら内向きになったとはいえ、ウクライナ問題について何の対応もしないというわけではありません。アメリカは他の国を使ってロシアを封じ込めようとしています。これは国際関係論の世界では「オフショア・バランシング」と言います。具体的に言うと、アメリカはドイツをロシアにぶつけようとしています。
しかし、実際にこの戦略が上手くいくかどうかはわかりません。というのも、ドイツはロシアが最も多く天然ガスを輸出している国だからです。もしロシアがドイツへの天然ガスの供給をストップさせれば、脱原発を進めているドイツは極めて不都合な状況に陥ることになります。実際、ロシアは天然ガスを「武器」と見なしており、2009年にウクライナへの供給を止めたこともあります。
また、天然ガスだけでなく、ドイツとロシアの間には密接な経済関係があるため、ドイツがそう簡単にアメリカに協力するとは思えません。『インターナショナル・ニューヨーク・タイムズ』の記事によると、ドイツはロシアの輸出相手国として、その輸出総額はオランダ、中国に次いで第3位であり、輸入相手国としても中国に次いで第2位です。
その他にも、ドイツのシュレーダー前首相がロシアのガスプロムと協力して事業を進めているなど、現在のドイツとロシアはかつての独ソ関係を彷彿とさせる関係にあります。地政学的には悪夢と言っていいでしょう。アメリカもどう対処すればよいか頭を抱えていると思います。
■対中タカ派がいなくなったオバマ政権
―― アメリカは対中政策についても消極的なように見えます。
奥山
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