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ウクライナ問題を「地政学」的に考えてみた|THE STANDARD JOURNAL

2014/03/03 19:18 投稿

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  • 奥山真司
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おくやまです。

ソチオリンピックが一段落して
(といってもパラリンピックはこれから開催ですが)、
いきなりウクライナ情勢が大変なことになっておりますので、
これについて地政学の見地から簡単な分析を。

現在のウクライナの状況については、
すでにメディアなどで色々な分析がされておりますので、
細かいことについては、今回はあえて述べません。

今回、強調したいのは、以下の3つの点です。

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1.ウクライナは「リムランド」にある。

当たり前ですが、ウクライナは
ソ連が崩壊した後に独立した国々の中でも
地理的に非常に微妙な場所にある国です。

ロシアの影響を逃れるために、
アメリカから支援(陰謀?)を受けた「オレンジ革命」によって、
2005年からのユーシェンコ政権では親欧米路線に転換。

ところが2010年に選挙でヤヌコビッチ政権に変わると
「親露」路線に転換。

そして今回の2014年のデモを契機とした政変では、
再び「親欧米」路線に転換しております。

「なんか安定しないなぁ」
とお思いの方もいらっしゃるとは思いますが、
その理由は地理的な意味合いがかなり強く、
「地政学」でお馴染みの用語を使えば、

< ロシアのハートランド VS  欧米のシーパワー >

という形で、大きなパワーが激突する要衝に
位置しているわけですね。

具体的に言えば、ロシアに接している東部や南部は
ロシアの「ハートランド寄り」の地域であり、反対に
ポーランドやルーマニアに近い北部や西部は
欧米の「シーパワー寄り」の地域、ということです。

さらにウクライナは、「リムランド」の特徴である、
人口の多さ(元ソ連諸国では二番目の規模)や
農業生産量の高さ(世界有数の穀倉地帯)
という特徴を持っております。

「そんな単純なものなの???」
と感じた方もいると思いますが、
この「ロシアvs欧米」、そして「陸vs海」という、
いかにも"地政学的"な構図を頭に思い描いておくのは
とりあえずは有益なのです。

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2.クリミア「半島」にカギがある

ウクライナが「リムランド」にあるということは
読者の皆さんにお分かり頂けたと思いますが、
ここで一つ気になることが出てきます。

それは、黒海に面しているウクライナ領内の、
クリミア半島の南端に、
ロシアの黒海艦隊の軍港(セバストーポリ)があることです。

さらにロシアは、このクリミア半島にある
クリミア自治共和国の人口の約60%を占める
ロシア系住民の一部に、ロシアのパスポート(!)を
配布したりもしているのです。

これはいわば、「リムランド」であるウクライナの
海側に突き出た半島の先端に、
ロシアの「シーパワー」の一大拠点がある
ということを意味するわけわけです。

そして、この地政学的要衝の貸借関係をめぐって、
ロシアとギクシャクした関係が続いてきたことは
報道でもすでに論じられている通り。

先日崩壊したヤヌコビッチ政権は、ロシアとの間で
この基地を2042年まで貸すことに合意しておりまして、
ここ数日では、ここの軍港を拠点として、
ロシア側の軍事介入が始まったとも報道されております。

「地政学」をよくご存知の読者の皆さんは
ここでお気づきだと思いますが、
このセバストポリ軍港が現実に存在している、ということは、

「ロシアはランドパワーである」

という単純なテーゼが成り立たず、
そこには地政学の理論がねじれている
とお感じかと思います。

ですが、これはロシアが、
すでに黒海を「内海化」しており、
陸側の拠点になっているとして解釈すれば、
大枠では間違っておりません。

地政学的な基本として、重要な認識は、

そもそも「半島」というのは、
必然的に海と陸のパワーが衝突するリムランドに属しているために、
常に紛争が起こりやすくなる。

ということです。

「半島」というのは、地政学においては「鬼門中の鬼門」で、
日本にとっての朝鮮半島や満州、
イギリスにとっての対岸の低地国(オランダ、ベルギーなど)
更に、フランス、
そしてアメリカや中国にとってのベトナム、
などの例でもよくわかります。

つまり大国同士の権益がぶつかったところという意味では、
「半島」というのは政治的に火種を抱えやすいわけです。

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3.ウクライナは「通り道」である

日本国内のメディアではあまり報じられていないようですが、
ウクライナは、ロシアとヨーロッパをつなぐ
いくつもの重要なパイプラインの「通り道」です。

ロシアはEUへのガスの輸出を大部分を
ウクライナを通るパイプラインを通じておこなっております。

そして地政学では、

「通り道」(Lines of Communication)を誰がコントロールするのか?

ということが、極めて重要な意味を持ちます。

実際のところ、プーチン大統領自身は
このウクライナ・パイプラインの買い取りを目指しております。

ウクライナは、歴史的にヨーロッパの周辺の大国
(ロシア、ドイツ、オーストリア、トルコ)に「通り道」のように
何度も蹂躙されてきております。

似たような「通り道」にあったポーランドが、
今回のロシア側の動きを異様に警戒して批判しているのも、
このような歴史的な事情の現れです。

このような「ロシアの通り道」に対して、
アメリカは一体何ができるかというと、
正直なところ、何もできません。

なぜかと言えば、
「アメリカにはウクライナには利害がない」からです。

※参照※---

▼ロシア、ウクライナ軍事介入へ 米、抑止手詰まり
 大統領警告も対抗策なし (産経新聞 3月2日)
http://goo.gl/ARZTDV

>>ウクライナに関する米国の国益は「ロシアに比べてはるかに小さい」
>>(政治学者のイアン・ブレマー氏)との指摘も根強く、
>>オバマ政権の及び腰に拍車をかけている。
>>軍事介入の可能性も、ほぼ皆無に等しい。

-------

そして、ロシア側の意志としては、
この地は欧米側には絶対に引き渡さない!
という固い決意を持っております。

プーチン大統領は2008年の4月に、当時のブッシュ大統領に対して、
「ジョージ、君はわかっていない。ウクライナは国家ではないんだ」
と言っていますが、このプーチンの「世界観」がミソなわけです。

今回のウクライナ問題でも、
アメリカ側としての「切れるカード」は、
かなり限られていると言えるのではないでしょうか。

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以上、現段階での情報に基いて、
ウクライナ情勢についての
地政学的なポイントを3つ上げてみました。

80年代に核戦略についての優れた本を書いた、
フレッド・カプランという人物が、最近ある記事の中で、

「冷戦が始まる前から、国際政治はチェスのような性格を持っていた。
その点は永遠に変わらないだろう」

と述べておりまして、さらに、

「プーチンは…ウクライナへの影響力をめぐる目下の争いを
チェスのゲームのように見ていることは間違いない」

と断言しております。

このことは、プーチン大統領が率いるロシアだけのことではなく、
中国やアメリカのような「大国」にとっては
ごく当然のこと。

それは、読者の皆さんもよくご存知の通りです。

チェスゲームのような国際政治の中で
日本は何としても逞しく生き残ってゆかないといけません。

ユーラシア大陸の反対側で、
今、リアルタイムで展開されているこのパワーゲームは、
まさに「リアリズム」そのままに進行していることは、
各種の報道などから、皆さんも痛感しておられると思います。

そして、上述の3点のように、非常に「地政学」的な動きでもあります。

ここに、東アジアのパワーゲームの今後を占う上で、
日本人がしっかり考えるべき、極めて重要なヒントがあるわけです。

( おくやま )

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