おくやまです。

ウクライナ情勢がまだまだ予断を許さない状況ですが、
今回は安倍政権の外交についてひとこと。

本日付(3/6)の日経新聞の朝刊に、
以下のような記事が載っておりました。

(一部転載はじめ)

http://goo.gl/MVJ6FK

▼米ロ緊迫、渦中の安倍外交 
ウクライナ危機、問われる対応  領土・同盟で板挟み

「米欧とは協調するが、日ロ関係を決裂させるほどには、対ロ強硬には振れたくない」
「安倍政権は早々に(ロシアへの制裁という意味で)難しい判断を迫られそうだ。」

「日本は領土と歴史問題で中ロが組み、日本圧力を強めてくる事態は避けたい。
だが、ロシアに配慮して日米結束が傷つけば、かえって中国の対日強硬を招く
--安倍政権内ではこんな議論が交わされる」(p.2)

(転載おわり)

なかなか状況が手詰まり状態ですね。

この状況を簡単にいえば、安倍さんとしては
北方領土問題を解決したいがために
プーチンさんに強くは出られません。
しかも最近は、ソチオリンピックの開会式に出た時に
個人的にプーチンさんに大歓待されております。

ただし西洋的な価値観を共有した同盟国、
アメリカ側の言い分もよくわかる。

なので、この際に経済制裁などに協力することによって、
靖国参拝問題などでギクシャクしてしまった
日米関係を修復しておきたい、となります。

これはまさに「板挟み」な状態なわけです。

前回も述べたように、国際政治というのは
「チェスゲーム」なわけですが、今回は、ポイントを2点にしぼってみます。

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1.問題があるのが当たり前

国家のリーダーというのは、上の記事の安倍さんのように、
外交では「同盟」や「個人的な貸し借り関係」というものに
板挟みになってジレンマを抱えることになります。

ところがここで最も大事なのは、
やはり「日本の国益」。

「いやいや、その”国益”の最適解がないから、
 安倍さん困ってるんでしょ?」

というツッコミもあるかと思いますが、
ここでは少し考え方を変えてみていただきたいのです。

まずリアリスト的な考えの前提を
もう一度振り返って考えてみましょう。

それは「国際政治では、争いがあるのが当たり前」
というものです。

これを逆にいえば、「争いがあるのが普通」であるため、
今回の安倍さんのようなジレンマに直面するのは、
むしろ「ノーマルな状態」であるということです。

そういう風に認識を変えると、ひとつの光明がさしてきます。

それは、ちょっと逆説的かもしれませんが、

「このような問題は無理して解決しなくてもよい」

ということです。

「そんな不誠実なことができるか!」

とお怒りのかたもいらっしゃると思いますし、
私も日本人としては「問題は解決すべきである」
という考え方に大賛成。

ただしプレイヤーの多い国際政治では、
永遠に、とはいいませんが、それでも
なかなか解決しない問題があることは
冷酷な事実なのです。

要するに、私は日本が「問題ありますよねぇ」といいながら、
逆にダラダラとゆるくアプローチすることも提案してみたいのです。

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さて、その典型となるのが、次のポイントです。

2.「ボーキング」(balking)をしよう

「また奥山はわけのわからん横文字を出してきたな」
と、今、ツッコミが入りましたね・・・

ですが、国際政治における
この「ボーキング」という戦略的な概念は、
実は、そんなに難しいものではありません。

「ボーキング」とは、野球の「ボーク」という反則と一緒で、
実際に何かをするような姿勢をとりながら、
実際は"何もやらない"というものです。

もっと俗っぽい言葉でいえば、
「やるやる詐欺」です。(笑)

これは、私の訳しました
S・ウォルト教授の『米国世界戦略の核心』
(http://goo.gl/syhiqR)
の第3章の中で説明されているものですが、
ウォルト教授自身はこれを、

  国際政治の舞台で「ノーということ」であり、
  アメリカのパワーを制御するためには意外と効果的な戦略だ。
  (p.201)

と説明しております。

さらにウォルト教授は、この「ボーキング」には
3つのパターンがあると言っておりまして、

1)ハッキリと「ノー」を表明するもの。
2)「イエス」と言って約束しておきながら、実は引き伸ばしてやらないもの。
3)「イエス」と言って約束しておきながら、タダ乗りして責任は負わないもの。

と指摘しております。

この戦略は、基本的にアメリカだけでなく
どの国に使っても通用するものでして、
当然ながら、現在のロシアに使っても効果あり。

今回のケースで使えそうなのは(2)でしょうか。

「そんなやり方はズルいな、日本には合わないよ!」
「同盟の責務を果たすべきだ!」

というツッコミが・・・また入りましたね。

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もちろん、読者の皆さんの言いたいことは、
私も十分に理解できます。

ただし、どちらかにつくことを明言して危機に陥るよりは、
たとえ不誠実でも、のらりくらりと不明確な態度をとることも、
国益を追及する上では必要なことなのです。

イギリスは、特にフランスに対して、
その外交の狡猾(ユル)さを指摘されて
「不誠実のアルビオン」と呼ばれておりますが
(アルビオンとはフランス側から見える英沿岸の白い岸壁のこと)、
これからもわかるように、外交というのは、
「好かれること」が全てではありません。

ただし決定的に嫌われてもいけないので、
少なくとも「とりあえず嫌われないようにしておく」
ということも大事です。

国際政治において往々にして大事になってくるのは、
実際の「行動」よりも、「それがどう思われるのか」
という点だからです。

ここで覚えておかなければならないのは、

「選択や決断を迫られるような場面に
 追い込まれないようにする」

ということの重要性です。
つまり、日本はもっと「ユルく」やればいいのです。

毎度おなじみですが、国際政治は危険なビジネスです。

そのような危険な状況下では、
「冷静」に「柔軟」に振る舞うことで、
出来るだけ「選択肢」を増やすことが大事です。

となると、「ボーキング」を積極的に"カマして"(笑)
日本はもっとずる賢く(だらしなく?)動く、
というのも全然アリなのです。

( おくやま )


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