おくやまです。
おくやまです。 最近の中国や韓国との外交問題、 そしてアメリカとのTPPにおける交渉など、 日本はいわゆる「情報戦」と呼ばれる分野では、 非常に劣勢であるということは、 読者の皆さんも薄々お気づきのことではないでしょうか? そこで、今回は、 << なぜ日本はこのような「プロパガンダ戦争」に弱いのか? >> ということをテーマにして、私なりの見解を少し述べてみたいと思います。 :-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:- この分析を行う前提として、 読者の皆さんにぜひ押さえておいて頂きたい概念がありまして、 まず、そちらを先にご説明させて頂きたいと思います。 ご存知の通り、私は(古典)地政学という学問、 戦略研究、もしくは戦略学(strategic studies) と呼ばれる分野の枠組みの中で勉強してきた者です。 その戦略研究を学んだ人でしたら、 戦略思想における最も重要な人物を二人挙げろ、と問われれば、 『戦争論』の著者であるカール・フォン・クラウゼヴィッツと、 『兵法』の著者であるとされている、孫子(孫武) の二人の名前を必ず挙げるはずです。 この二人の偉大な思想家については 以前から色々な比較研究が行われてきたのですが、 英語圏ではとくにマイケル・ハンデルという人が著した、 包括的な研究が有名です。 ▼米陸軍戦略大学校テキスト 孫子とクラウゼヴィッツ マイケル・I・ハンデル (著), 杉之尾 宜生 (翻訳), 西田 陽一 (翻訳) http://goo.gl/y15wDS そして、実は、この研究の前に、 この二人の偉大な戦略思想の違いについて、 鋭く端的に理解していた人物がおりました。 それが、ジョン・ボイドというアメリカの元軍人です。 ちなみに、この方については、 戦略の理論を学んだことのある人であれば誰でも知っている、 と言っても過言ではないくらい、有名な方でもあります。 たとえばこの人は、アメリカの戦闘機である F-15やF-16の設計に関わった戦略思想家として、 日本の軍事研究家にも、ある程度名前の知られておりますし、 彼の提唱した「OODAループ」(ウーダ・ループと読む)は、 一部のビジネス・経営戦略に詳しい人々にはおなじみのもの。 このボイドが、クラウゼヴィッツと孫子という二人の戦略思想を、 「摩擦」という概念を中心に対比させておりまして、 これがとても興味深いものなのです。 「摩擦」というのは、ご存知のように物理学の概念ですが、 クラウゼヴィッツは戦争における社会学的な解釈をしておりまして、 「戦争を計画通りに実行させない阻害的な要素」 という意味での「摩擦」の存在を指摘しております。 この「摩擦」なのですが、ボイドによれば、 クラウゼヴィッツと孫子の間には、その捉え方について 決定的な大きな違いがあるというのです。 その違いとは何か?ボイドの解釈によれば、 クラウゼヴィッツが ●「味方における摩擦の発生を最小限にしろ」 とアドバイスしていたのに対して、 孫子のほうは ●「敵における摩擦の発生を最大化しろ」 とアドバイスしている点だというのです。 この二人の「摩擦」についての考えを、無理を承知であえて言い換えてみると、 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^ クラウゼヴィッツ:「自分を鍛えよう」と考える vs 孫子:「相手に迷惑をかけよう」と考える ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^ ということになります。 これをさらに言いかえますと、 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^ あらゆる戦略には、大きくわけると「内向き」と「外向き」の二つの指向性がある ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^ ということになります。 これが、現在の日本がおかれている、 国際的なプロパガンダ戦争におけるポジションや 戦略を考える上でも、非常に参考になるものなのです。 では、この「内向きの戦略」と「外向きの戦略」という区別は、 日本にとってどのように参考になるのでしょうか? -:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:- これまで何回かにわたって、 「バック・パッシング」や「バランシング」 などの戦略について説明してきました。 このようなリアリスト系の議論の中にも、戦略の指向性、 つまり「外向き」と「内向き」という対比が議論されております。 それが、 「内的バランシング」(internal balancing) と 「外的バランシング」(external balancing) と呼ばれるものです。 ※ 「またおくやまはワケのわからない横文字を・・・」 とお感じのかたもおられることと思いますが、 実のところ、それほど難しい概念ではないので、 もう少しガマンしてお付き合いください。 ※ まず「内的バランシング」のほうですが、 これはある国家が別の国家に脅威を受けたときに、 自国の国力増強で、その脅威に直接対抗、 つまり「バランシング」しようとするパターン を説明したものです。 例えば、日本は最近になって、中国の脅威を感じて、 防衛費を上げようとしたり、または集団的自衛権、 さらには憲法改正などの動きに出ていることは、 皆さんもご存知の通りです。 これなどはまさに「内的バランシング」 の典型的な例でありまして、 つまり、「自分を鍛えて負けないようにがんばる」 というものです。 そてとは正反対の「外的バランシング」ですが、 これは国家が脅威に直面した場合に、自国の力だけでなく、 同盟国などの外国への働きかけを行うことによって、 それに対抗していこう とするものです。 同じく日本の例で言えば、中国の脅威に対して、 日本が日米同盟の深化を進めたりするのが わかりやすい例だと言えます。 要するに「外に働きかける」ことが、 この戦略の核心にあるわけです。 -:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:- さて、ここまでのお話で、賢明なる読者の皆さんは、 そろそろ、私が言わんとしていることにお気付きのことと思います。 日本の国家戦略においては、 上記で説明してきたような「外向き指向の戦略」、 つまり孫子的で「外的バランシング」を活用する という要素が決定的に弱い、 ということです。 例えば、最近の靖国神社や慰安婦問題への 中国や韓国などからの反応への対処を見てもおわかりの通り、 日本政府は「自分たちの立場を説明する」という、 後手に回った「内的バランシグ的」な対応に終始しております。 ところが、中国や韓国は日本をプロパガンダ戦で攻める場合には、 外的バランシング的な、外への働きかけ、 つまり「いかに外国に働きかけて相手(日本)に迷惑をかけるか」 という動きをしているわけです。 これに対処するにはどうすればいいのでしょうか? それは日本も別の形で「相手に迷惑をかける」という 孫子的・外的バランシング的な対抗策を実行しなければならない ということです。 このような、「戦略のツボ」をわかっている諸外国は、 もちろん、中国に対しても、これらをしっかり実行しております。 巷間、外交下手とも揶揄されているオバマ大統領でさえ、 数日前に世界的に尊敬されているダライ・ラマとの会談を行いましたが、 これなどは、まさにその典型。 彼らは"中国が嫌がること"を行うことにより、 全世界が認める「中国の倫理的な問題点」を シタタカに突いて攻めることにより、 「外的バランシング的な動き」をしっかりと行っているのです。 安倍首相は靖国に参拝するのも結構なのですが、 それはあくまでも「内的バランシング」というか、 見方によればその反対の効果をもたらすもの となっています。 もし本気で中国に「プロパガンダ戦争」で対抗していこうと考えるなら、 オバマ大統領のようにダライ・ラマと会談をするなりして、 もっと「相手に迷惑をかける」 という戦略を考えるべきではないでしょうか? 今後の国際社会・国際政治の世界では、 実際の戦闘行為を伴った戦争はもちろんなくなることはありません。 そして、それに匹敵するレベルで、いわゆる「情報戦」、 「プロパガンダ戦争」のウェイトが上がることも間違いありません。 この「プロパガンダ戦争」において、 日本がサバイバルしてゆくことを考えたとき、 これまで日本人が得意としてきた 「身を整える」という「内的バランシング」的なやり方に加えて、 残念ながら、私たちが不得手としている・・・と言わざるを得ない 「外的バランシング」的な行動も真剣に考えるべきです。 もちろん、かくいう私自身も、 皆さんにそのキッカケとなるネタを 今後も続々と提示してゆきますので、 ぜひ、共にお考え頂ければと想います。
( おくやま )
ブロマガ会員ならもっと楽しめる!
- 会員限定の新着記事が読み放題!※1
- 動画や生放送などの追加コンテンツが見放題!※2
-
- ※1、入会月以降の記事が対象になります。
- ※2、チャンネルによって、見放題になるコンテンツは異なります。
THE STANDARD JOURNAL
スタンダードジャーナル編集部
月額:¥550 (税込)
コメント
コメントはまだありません
コメントを書き込むにはログインしてください。