THE STANDARD JOURNAL

「面倒な事は他国にやらせろ!」という「バック・パッシング」の論理。|THE STANDARD JOURNAL

2014/02/14 10:56 投稿

  • タグ:
  • 奥山真司
  • 地政学
  • リアリズム
  • 戦略学
  • アメリカ通信
  • STANDARDJOURNAL
  • 中国


おくやまです。

前回は、日本を代表する国防・安全保障の専門家である
森本敏元防衛大臣の提唱する「オフショア・バランス」
という概念について簡単に論じてみました。

(参照)
▼森本敏氏の「オフショア・バランス」論はカン違い?!
http://archive.mag2.com/0000110606/20140207112227000.html

私は森本氏が
「日本が自ら中国にぶつけられるような提案をしているように見られる」
という可能性を指摘したわけですが、
その時に「バック・パッシング」という概念について触れました。

この「バック・パッシング」(buck-passing)という戦略は、
日本ではまだまだ馴染みのない概念ですので、
今回はこれを簡単に説明してみたいと思います。

-:-:-:-:-:-:-:-:-:--:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-

「バック・パッシング」というのは、
私が翻訳した『大国政治の悲劇』(http://goo.gl/AaSyeq)
の中で、原著者のシカゴ大学教授である
ジョン・ミアシャイマーが提案した概念です。

彼はこの戦略が、過去200年間の大国同士の関係において
頻繁に使われているということを、
歴史の例を豊富に使いながら解説しております。

その例として使われているのが、主に以下の4つ「多極時代」のケース。

1,ナポレオン戦争(フランス)
2,プロイセンのドイツ統一(ドイツ)
3,統一後のドイツ帝国(同上)
4,ナチス・ドイツ(同上)

そして、こららの例を参考にしながら、
脅威となった大国に対して、
周辺の大国たちがどのような戦略を使って
対処してきたのかを説明しています。

そこで最も使われていたのが、
今回説明する「バック・パッシング」という戦略。

ミアシャイマーによれば、これは

「自国と同じように脅威を受けている他の国をつかって、
その面倒な仕事を肩代わりさせる」

というものです。

そしてその「面倒な仕事」というのは、
脅威となっている大国を直接押さえ込む、というものです。

このような直接脅威を抑え込む仕事を
「バランシング」(balancing)といいます。

つまり「バック・パッシング」という戦略は、
脅威を及ぼしてくる国たいして、
別の国を使って対抗(バランシング)させる、
というものです。

「バック・パッシング」の典型的な例を挙げるとすると、
19世紀後半にプロイセンがドイツを統一しようとしていた時に、
イギリスやロシアがプロイセンにたいして使っていた戦略が
「バック・パッシング」です。

なぜか?当時のイギリスとロシアは、
実は統一しつつあるドイツ(プロイセン)よりも、
「むしろヨーロッパ最大の脅威はフランスである」
と考えていたからです。

そしてこの「最大の脅威」であるフランスに対抗するために、
イギリスとロシアが使った戦略が、
「勃興しつつあったドイツを利用すること」
だったのです。

つまり、恐るべきフランスよりは、
それに直接対抗(バランシング)してくれるような
ドイツの存在を認めたほうがいいよね、ということで、
ヨーロッパの中央にドイツのような強力な国家が出現するのを認めて、
むしろそれを支援するような動きに出たわけです。

これは、ドイツの側からすると、
「フランス」というコワい存在と直接対決したくない、
イギリスやロシアから、いわば「肩代り的な存在」
として"利用された"・・・ということになります。

-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-

さて、これを現在の東アジアに当てはめて考えてみましょう。
この場合の「脅威」となる大国というのは
一体どこの国でしょうか?

少なくともアメリカと日本にとっては、
それが中国になるというのは
当然のように思われます。

そうなった時に、もしあなたがアメリカの大統領の立場にいて、
厳しい国家財政を抱えた状態で、
国防を安上がりしようすれば、
何が最適な選択肢になるでしょうか?

リアリスト的な前提からいえば、それは当然、

「他国を使って侵略的な国家を抑えること」

となります。

このケースの場合には、中国の周辺国を使って、
中国に直接対抗(バランシング)してもらい、
自国はリスクを背負わずに安全でいることを目指すわけです。

そしてこの場合、日本と中国がぶつかって衝突し、
あとで両者が疲弊したとに、
まるで白馬に乗った騎士のようにさっそうとあらわれて、

「君たち、戦争はやめたまえ」

とボロボロになった日中両国に対して、
停戦を呼びかけるというシナリオになります。

「いやいや、そんなことアメリカがやるわけないじゃないか」

と言いたくなる方もおられるかもしれませんが、
アメリカは既にこのようなことを
第二次大戦で"実践"しております。

アメリカはノルマンディー上陸作戦(1944年)で
本格的にヨーロッパ戦線に参加しているのですが、
この時はすでにナチス・ドイツ側は、
国防軍を東側のソ連との戦いで6割近くも失った状態でしたから、
アメリカが参戦してきたときには
すでに「勝負あった」と言っても過言ではありません。

これを言い換えれば、

第二次大戦の末期となるノルマンディー上陸作戦まで、
アメリカはソ連(とフランスとイギリス)に、
ナチス・ドイツを「バランシング」させていたのです。

つまりアメリカから見れば、ナチス・ドイツの脅威にたいして、
ソ連などの諸国に「バック・パッシング」していた
ということになるのです。

-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-

さて、ここまでの議論を踏まえて、
読者の皆さんにも考えて頂きたいのですが、
果たして、現在の日本は
他の大国に「バック・パッシング」を行って、
パワーを温存、もしくは相対的に上げることができるのでしょうか?

現在考えられるパターンとして最も理想的なのは、
何と言っても、東アジア最大の脅威である中国を、
アメリカさんにお願いして抑えこむ、
もしくは封じ込めてもらう、
ということです。

もっと大胆に突っ込んで言うと、
「アメリカと中国を直接ぶつけさせるのがよい」
ということになります。

「アメリカにバック・パッシング?そりゃ無理だろ!」

と、多くの皆さんからツッコミが入りそうですが、
実は日本は一度だけ(おそらく、意図的に狙ったわけではなく)、
これを成功させております。

それは1950年から3年間続いた朝鮮戦争です。

日本は当時、ポツダム宣言を受けてアメリカの占領下にあり、
海外での武力行使などは完全に禁じられていた、というより、
そんなことをできるような状況にはありませんでした。

ところが、金日成率いる北朝鮮軍の南下によって、
朝鮮半島は火の海になりました。

ここでアメリカは「国連軍」という名の元に
北朝鮮(とその背後にいる中国)にたいして「バランシング」、
つまり武力介入を行ったわけです。

本来ならばこの仕事は日本の仕事だったわけですが、
日本は無力化されていたので、
仕方なくアメリカがこの重責を直接負うことに。

これは見方を変えれば、朝鮮戦争の時に
日本はアメリカに「バック・パッシング」をしていた
ということになるのです。

私は色々な機会に繰り返しお話しているのですが、
国際政治というのは危険なビジネスであり、
騙し騙されが世の常です。

もちろん、日本自らが、軍備を増強し、
「パワー」を増大化させる、ということが正攻法ではあります。

しかし、「リアリスト」であろうとするからには、
正攻法のみならず、あらゆる選択肢を考慮するものです。

その中には、今回、お話した「バック・パッシング」という概念はもちろん、
情報をコントロールすること、いわゆる「プロパカンダ」という考え方も、
とうぜん含まれます。

その多くの選択肢の中から、
自らの国益を最大化するための手段は如何なるものか?

我々はその判断力を身に付ける必要があるのです。

( おくやま )

8c13dd3dbf86c5431d97cf728d32897c2482d303

806dfcce70e94558b413f45ae6b3a339dd8bcccf


67eeb08a5be59b243fb587929b17e5574aa41583

ブロマガ会員ならもっと楽しめる!

  • 会員限定の新着記事が読み放題!※1
  • 動画や生放送などの追加コンテンツが見放題!※2
    • ※1、入会月以降の記事が対象になります。
    • ※2、チャンネルによって、見放題になるコンテンツは異なります。

THE STANDARD JOURNAL

スタンダードジャーナル編集部

月額:¥550 (税込)

コメント

コメントはまだありません
コメントを書き込むにはログインしてください。

いまブロマガで人気の記事

スタンダードジャーナル(THE STANDARD JOURNAL)

スタンダードジャーナル(THE STANDARD JOURNAL)

月額
¥550  (税込)
このチャンネルの詳細