おくやまです。

すでにブログのほうには掲載しましたが、
ダボス会議で日中関係を分析した
ユーラシア・グループ代表のイアン・ブレマーのインタビューについて、
私のほうからいくつか簡単にコメントしてみたいと思います。

※参照※
中国の対日戦略:イアン・ブレマーの分析 : 地政学を英国で学んだ
 http://geopoli.exblog.jp/21961087/

まずブレマーという人物なのですが、
この人は国際関係、とくに世界の安全保障についての
エクスパートでありまして、保険会社に政治リスクなどを提供する
情報・コンサル会社を立ち上げたという、
極めて珍しいタイプの経歴の持ち主であります。

著書も三冊ほど訳されておりまして、とくに『”Gゼロ後”の世界』は、
アメリカが衰退して無極化する世界像を描き出して話題になりましたが、
まだ40代前半という若さでして、
最近は(やや親中的な観点から)東アジアの分析も行っております。

日本の新聞にもよくインタビューが載ることが多く、
彼のことを見かけたことがある人も多いのではないでしょうか。

このブレマーですが、先月末にスイスのダボスというリゾート地で開催された
「世界経済フォーラム」(通称ダボス会議)の中で、
中国が日本に対してどのような戦略を行っているのか
という興味深い分析をインタビューで披露しておりました。

実際の彼の詳しい分析については
私のブログのエントリー(http://geopoli.exblog.jp/21961087/)
を読んでいただくとして、ここでは彼のインタビューから見えてくる、
いくつかのポイントをまとめてみたいと思います。

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1,日本経済の好調さはアピールできていた。

彼やその他の識者のインタビューなどでもわかるように、
安倍首相のいわゆる「アベノミスクス」の効果については、
ダボスに集まった世界の経済人たちも頼もしいと思っていたようです。

ブレマー自身も「(会議の)参加者たちも日本経済に関しては楽観的だった」
と証言しております。この点については安倍首相は
世界の経済人たちにかなり評価されていると見て間違いないでしょう。

2,日中関係を第一次大戦前のイギリスとドイツに喩えたことは、やはり問題だった。

第一次世界大戦に喩えるということは、
歴史的にも学問的にもたしかに「アリ」なもの。

その証拠に、FTをはじめとするメディアのコラムニストなどが
以前から指摘していて、これを外部のコラムニストやジャーナリストが指摘するのは、
別に不自然なことではありません。

ただし問題は、安倍首相がこの喩えを
一国の首相という立場で使ってしまったこと。

第一次世界大戦というのは特に欧州にとって、
第二次世界戦よりも大きな「悲劇」である、という感覚です。

それは、安倍首相が意図していたであろう
「善(日)悪(中)の戦い」というよりは、
むしろ「核戦争」に近い感覚です。

つまり、欧州にとっての第一次世界大戦というのは
「互いに自滅した無駄な戦争」という感覚がつよく、
たとえばイギリスではThe Great War(theという定冠詞に注目)
と呼ばれているように、それは
「唯一最大の(悲劇的な)戦争」
というニュアンスが大きいのです。

第一次世界大戦というのは、
今年が開戦してから100年目ということもあり、
特にダボスのようなヨーロッパ内では関心が高まっていて、
おそらく首相周辺も「わかりやすい例」
として使ってみようと思ったのかもしれません。

たしかに「第一次世界大戦と似たような状況だ」
と付け加えた通訳のミスだという解釈もできますが、
それにしても、この「欧州にとっての第一次世界大戦」
の持つ意味合いや背景についての理解が足りなかった
という点は指摘せざるを得ません。

このことは外交的な「負け」ではないですが、
少なくとも日本のイメージ悪化に一役買ってしまった点はあるでしょう。

3,中国の戦略は、日米関係を悪化させることにあり!

このような見解はすでに尖閣購入騒ぎのあたりから
専門家の中からも出ていたものですが、
今回のブレマーの分析で興味深いのは、
これをアメリカにとってのイスラエル(特に右派のネタニヤフ首相)
の存在とならべている点です。

以前からブレマー自身は
日本(Japan)とイスラエル(Israel)イギリス(Britain)
という三つの同盟国が、アメリカにとっての足かせになりつつあるという、
いわゆる「ジブス」(頭文字をとってJIBs)のリスクを提唱しておりました。

ブレマーによると、中国側はこのような状況をわかっていて、あえて

「日本は軍国主義的で、米政府にとって
 対外政策での問題を起こすような存在ですよ!」

と思わせるための働きかけを、当の日本側に対して行い、
「日本側にヤバイ発言をさせようとしている」
と指摘しております。

今回の安倍首相は、そういう意味で
まんまと彼らの術中にはまってしまったと言えますね。

4,中国の戦略は「成功」している。

ブレマーは去年の11月末に
中国が一方的に東シナ海上空に防空識別圏を宣言した時の、
アメリカと日本の対応の温度差を指摘しておりまして、
ここに中国の戦略の成功が見えるという指摘をしております。

たしかにその時の中国の対応も、日本に対しては
非常に厳しいものであったにもかかわらず、
それを結果として認めてしまったアメリカに対しては
「建設的なものであると賞賛した」わけです。

つまり、現実問題としては、中国側の意志が
「結果としては通ってしまった」ということです。

5,オバマ政権は内向きで外交に消極的

オバマ大統領ですが、目下の課題は
今年11月に開催される中間選挙。
つまり、彼は国内問題で手一杯でありまして、
外交にはまったくイニシアティブを発揮しておりません。

ブレマーが指摘するように、
たしかに去年からオバマ政権は、
シリアやリビア、エジプトなどの事例からもわかるように、
「リスクを怖がっていて、戦術的に動いているだけ」
であり、これが結果として、
日中に関係改善を働きかけるような
仲介者的な役割を果たせていないわけです。

さらに問題なのは、ヒラリー・クリントン前国務省長官
をはじめとする「対中タカ派」的な姿勢をとっていた人々が
オバマ政権から次々と離れていること。

それを見越した中国が、
積極的に「取り込み」を図っているのが
バイデン副大統領。

その証拠として、去年の12月、
バイデン副大統領が中国を訪問した際に
中国側が「手土産」として、長年の懸念だった相互投資条約など、
米中間の関係を促進するような、さまざまな約束を交わしています。

ちなみに、このことはなぜか日本ではほとんど報道されておりません。

それでは、中国側のこのような「工作」に対して、
日本からのカウンターとして、何か打つべき手はないのでしょうか?

それが・・・

6,中国が積極的に安倍首相を批判していた

という点です。

今回のダボス会議で、安倍首相は、
他にも中国を批判するメッセージを発しているわけですが、
そのことについては、ブレマーも
「安部首相が言っていたのは、中国が許しがたいマナーで行動しており、
 日本はそれを看過できないということ」
といったニュアンスで、好意的な解釈をしております。

その反対に問題だったのは、「ある中国政府関係者」による、
「東アジアにはトラブルメイカーが二人いる。安倍晋三と金正恩だ」
という一連の発言や、
別の中国政府関係者と思われる人物による、

「日米に軍事的な対処をさせて、これが大戦争につながるというのも、
 実はそれほど悪いものではない」

※参照※
▼中国政府高官がダボス会議で問題発言 : 地政学を英国で学んだ
 http://geopoli.exblog.jp/21943948/

と、いうかなり強烈かつタカ派的な、
実際に会場を凍りつかせたような発言の数々でしょう。

彼らの発言は、日本のメディアではなぜかほとんど注目されておりません。

ですが、ここが重要なポイントでありまして、
中国側はこのような日本にとっては"美味しい"ネタである、
過激な発言をわざわざしてくれたわけです。

まさに千載一遇のチャンスと捉えて、
日本側は、メディア等で大きく問題にして、
このような事を積極的に世界のメディアに対して
アピールしていかないといけません。

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詰まるところ、いつもの結論になってしまいますが、
現在の国際社会において一番重要なのは
「戦略の階層」の一番上の位置する
「世界観」のレイヤーの発想です。

現代における戦いは、もちろん、
実際の戦闘行為というものもありますが、
それよりも、致命的な影響を与えるのは、
イメージやブランド、それに正統性(レジティマシ―)のような、
曖昧ではあるが「ソフト」的なものです。

ここで皆さんに気付いて頂きたいのですが、
そういう意味では、日本は中国よりも
はるかに優位な立場にあるわけです。

しかし、残念ながらそれをまったく活かしておらず、
むしろ中国側の攻勢に負けっぱなしです。

もはや、このような状況に甘んじている場合ではありません。
日本はそろそろ「攻めの姿勢」でゆくという覚悟を決め、
その自覚を持って、このことを真剣に考える時期に来ています。

( おくやま )

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