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マッカーサーの作戦における「累積戦略と順次戦略」|THE STANDARD JOURNAL

2014/01/28 12:52 投稿

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おくやまです。

すでにご存知の方もいらっしゃると思いますが、
私はいまから七年ほど前に、
J.C.ワイリーという米海軍の軍人の書いた
『戦略論の原点』という本を訳して出版しております。

▼戦略論の原点(普及版)
J C ワイリー (著), 奥山 真司 (翻訳)
http://goo.gl/CZ1mNl

この本は私の指導教官であったコリン・グレイという戦略家が、
自分の生徒たちに熱心に読むように勧めていたこともあって、
たしかに自分で訳してみても非常に勉強になった本でした。

私自身も今でもたまに読み返すことがあるのですが、
本当に短い本にもかかわらず、一切無駄なことの書いていない、
エッセンスに満ち溢れたスルメのような本だと実感しております。

その内容を簡単にいえば
「戦略には分野にかぎらずに共通項がある」というものなのですが、
原著者のワイリーはその中で、あらゆる戦略というものを、
その進み方の性格から大きく二つにわける、
ということを提案しています。

それが「累積戦略」(cumulative strategy)と
「順次戦略」(sequential strategy)というものです。

これについては私はすでに色々なところ(たとえばCD)
http://www.realist.jp/cumseq.html
などで解説しているので詳しい説明はここではしませんが、
簡単にいえば、累積戦略は
「コツコツと常にやりつづけて爆発的な効果を狙うもの」。

そしてその反対の順次戦略は
「明確なビジョンをもって段階を踏みながら進めていくプロセス」
を持ったものです。

ちなみにワイリー自身は、この二つの戦略について
「どちらが大切だ」ということは決していっておらず、
むしろ二つを同時に進めることが肝要だということ、
とくに自身が参加した第二次大戦の太平洋戦線における
アメリカの対日戦略を引き合いに出しながら説明しております。

私はそもそもこの二つの戦略のうち、
「累積戦略」の重要性を日本人は忘れつつある
という問題意識を持っておりまして、
前述のCDを作ったときの意識もまさにそこにありました。

ところが、私が最近またこの本を読み返して噛み締めたのは、
むしろワイリーの「二つの戦略を同時に行うことが肝要だ」
という部分。

なぜこういうことを感じたのかというと、
実は私が教えている大学の生徒が卒論で、
朝鮮戦争開始当時のアメリカ上層部の動きについて
分析しているのですが、
そういえばマッカーサーが行った仁川上陸作戦というのは、
この二つの戦略(というかこの場合は作戦ですが)を
同時に働かせたから成功した
ということに、私自身が気付いたからです。

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具体的にいえば、マッカーサーは1950年の9月15日に
いわゆる「左フック」と呼ばれる「機動」的な動きで、
朝鮮半島中央部へ西側の黄海から一気に米軍(国連軍)を上陸させて、
釜山付近まで押し込んでいた北朝鮮軍を南北に分断。
壊滅状態に追い込みました。

この時に重要なのは、北朝鮮側が朝鮮半島南端の釜山で
激しい「消耗戦」を行っていたという事実です。

つまり、マッカーサーが鮮やかな上陸作戦(機動)を成功させた裏には、
別の場所で膠着した戦い(消耗戦)が行われていた、
という対比(コントラスト)があったということです。

戦争にはこのような例がいくつかありまして、
たとえばナチス・ドイツが1940年の第二次大戦の時に緒戦で
フランスを壊滅させた際には、ベルギー辺りで
のろのろと侵攻していたボック将軍率いるB軍集団という存在に対して、
グデーリアン将軍の装甲師団が、
セダンでミューズ川にものすごい勢いで迫ったという対比があります。

また91年の湾岸戦争の「砂漠の嵐」作戦では、
米軍はイラク軍を地上軍によって大きく包囲するために、
その5週間ほど前から空爆を集中的に行っており、
しっかりと前準備をしております。

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さて、今回、これらの事例を引きつつ、
私が何を言いたかったのか?と言いますと・・・

ある鮮やかな戦略の背景には、
それを鮮やかに見せたり引き立たせたりする、
もう一つの別の要素や戦略が必ず存在している。

ということです。

これはボクシングでいえば、
派手なフックやアッパーを活かすには、
地道なボディーやジャブが必要ということです。

そして成功した戦略というのは、
この二つを意識的・無意識的に併用していた、
つまり、「戦略では二つのことを同時に行う必要がある」
ということですね。

例えば、最近の中国などは、軍拡を着々と進めながら、同時に
「中国は正義である、日本は悪である」
というプロパガンダを拡散させておりまして、
「累積」と「順次」だけに限らず、
いくつかのことを並行してやっているわけです。

優れた戦略や成功した戦略には、
その背後に別の対照的な要素がある。

我々はこのことをしっかり自覚して、
日々の自らの行動にも、積極的に
(もちろん、試行錯誤を含みつつですが)
取り入れる必要がありますね。

( おくやま )

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