おくやまです。 先月の中国の防空識別圏から 今回の安部首相の靖国参拝まで、 日本の同盟国であるはずのアメリカの対応について 不信感を抱いている人がいるかもしれませんが、 これについて少し書いてみます。 まずは安部首相の靖国参拝についてですが、 さっそくNYタイムズ紙が社説で批判をしております。 ただしこの批判の仕方が、 アメリカの「覇権国」としての立場からなされていて とても興味深いものなので、 ここから少し分析をしてみましょう。 まずは論より証拠、その社説の要約をお読み下さい。 === 日本の危険なナショナリズム By NYタイムズ論説委員 ●日本の安部首相は、政権担当開始から一年経った 先週の木曜日に靖国神社を参拝した。 ここは日本の戦争で死んだ人々を祀っており、 第二次大戦の戦犯も含まれているために 議論を呼んでいる神道の神社である。 ●中国と韓国はすぐさまこの行動にたいして批判を行っており、 アメリカも同じことを実行した。安倍首相の参拝は すでに悪化している中国・韓国との関係をさらに悪化させるはずだ。 中韓は靖国神社のことを、大帝国日本による侵略と 植民地主義の戦争の象徴として見ている。 ●アメリカの駐日大使館は、 アメリカが「日本の指導者が近隣諸国との 緊張を悪化させるような行動を取ったことに、 米国政府は失望している」という声明を発表している。 ●ここでの疑問は、なぜ安部首相が この時期に靖国参拝を行ったのかということだ。 日本の首相はここ七年間において靖国参拝は行っていないのだが、 これは政府トップにおいてこの神社が 中国と韓国を象徴的に不快感を起こす場所であり、 参拝はこの二国との関係悪化につながる ことを認識していることを示している。 ●日本との中韓との関係は2000年代半ばの頃よりも悪化している。 中国と韓国のリーダーたちは安部首相が2012年に政権についてから (第一次政権は2006〜2007年)会談を拒否しており、 この理由の一つが、東シナ海の領海争いと、 第二次大戦中に日本の兵士によって 性的奴隷となることを強要された韓国の従軍慰安婦の問題である。 ●逆説的ではあるが、安倍首相が 「靖国参拝はいいアイディアだ」と考えるのを可能にしたのは、 中国と韓国がこれらの問題で日本に圧力をかけたからである。 ●ここ一年間における日本が実効支配している島々にたいする 中国の敵対的な動きのおかげで、日本の国民は 中国の軍事的な脅威の存在を確信した。 この問題のおかげで、安部首相は中国からのすべてのシグナルを無視し、 日本の軍隊を「領土防衛に厳しく限定したものから、 世界中のどこでも戦争を行えるように転換させる」 という目標を追求することができるようになったのである。 靖国参拝は、そのアジェンダのうちの一つである。 ●日本が慰安婦問題でしぶしぶした態度をとっていることにたいして 韓国が継続的に厳しい批判と、朴槿恵大統領が安部首相と この問題についての会談を拒否していることは、 日本国民の間でも韓国にたいする不信感を植え付けることになり、 意識調査によれば、ほぼ半数の人々が 韓国を軍事的脅威であると見ているという。 ●選挙民の間のこのような視点は、実質的に安倍首相にたいして、 中韓への反発などを考慮せずに行動するライセンスを与えていることになる。 ●読売、朝日、毎日という三大新聞は、安部首相が政権をとってから 社説で首相の靖国参拝に反対の立場を表明している。 さらに安部首相やナショナリストの支持者たちにとって重要なのは、 アキヒト天皇とその前の昭和天皇も靖国参拝は控えているという事実だ。 ●安部首相の最終的な目標は、日本の平和憲法を書き換えることだ。 この憲法は、戦後の占領期にアメリカによって書かれたものであり、 戦争を行う権利を制限したものだ。 ここでもアキヒト天皇は認めていないのだが、彼には憲法下で政治力がない。 ●安部首相が靖国参拝を行う数日前に、 アキヒト天皇は80歳の誕生日のコメントの中で、 「平和と民主制度の貴重な価値」を守るために 戦後の憲法を書いた人にたいして「深い理解」を表明している。 ●よって、もし問題が歴史にあるとすれば、 中韓のリーダーたちは東京に自分たちの (アキヒト天皇を含む)仲間を見つけるはずであり、 彼らは安部首相と会ってこれらの問題を解決するよう迫るべきだ。 彼らが会談を拒否しつづけることによって、 安倍首相は逆にやりたいことをやれるようになるからだ。 ●日本の軍事的冒険は、アメリカの支持があった時だけに可能なものだ。 そしてアメリカ自身は、安倍氏のアジェンダが東アジアの地域にとって 望ましいものではないことを明確に示すべきだ。 アジアにとって必要なことは明らかに国家間の信頼なのであり、 彼の行動はその信頼を損なうものだ。 === いかがでしょうか。 まず私が気になったのは 「意識調査によれば、ほぼ半数の人々が韓国を軍事的脅威であると見ている」 というところなんですが、 いくらなんでも「軍事的脅威」( a military threat) というのは煽り過ぎかと。 しかし全体、とくに最後の部分を読んでふと思いついたのは、 ウォルフラム・ハンリーダー(Wolfram Hanrieder)という ドイツの対外政策の専門家が有名にした、 「二重の封じ込め」(double containment)という概念です。 これは彼が西ドイツの対外政策の歴史を調べていたときに、 「アメリカはソ連の共産主義の脅威を封じ込めると同時に、 西ドイツの脅威も封じ込めようとしていた」 ということに気づき、これに「二重(ソ連&西独)の封じ込め」 という名前をつけたわけですね。 アメリカは「覇権国」として同じようなことを別の地域でやっております。 たとえば80年代には、中東のイラクとイランにたいして 「両面封じ込め」(dual containment)ということを行っておりましたが、 これも実質的には同じこと。 ようするに、アメリカはある地域において、 その安定のためにはその地域の力を持った国家同士を喧嘩させず、 外から「まあまあ」と言って互いに牽制しつつ、 状況をコントロールしようとするのです。 これがリアリスト的な視点から 「覇権国」のやりかたというか、メカニズムなのです。 そしてこの覇権国の目指すメカニズムは、 われわれの住む東アジアにも適用できます。 たとえば上の社説ではNYタイムズ紙は、 「日本の軍事的冒険は、アメリカの支持があった時だけに可能なものだ。 そしてアメリカ自身は、安倍氏のアジェンダが 東アジアの地域にとって望ましいものではないことを明確に示すべきだ」 と述べておりますが、 これは「日本の首根っこはアメリカが押さえている。 でも日本は騒動を起こしてくれるなよ」と述べて、 中国(や韓国)だけでなく、 日本に対しても「封じ込め」を追求しているのです。 「なんだと、アメリカは日本を封じ込めている?!」 と憤りを感じる人もいるでしょうし、これもよくわかるのですが、 これはあくまでも「覇権国」であるアメリカにとって 「最も都合の良い状態」を考えてみれば納得できます。 もちろん米国の中には、 「アメリカは日本の友人であるからわざわざ封じ込めなどしてはいけない」 と考える人は多数いるはずです。 ところが「国益」追求が第一! のパワーゲームが展開される国際社会においては、 自国の都合(日本と中国におとなしくしててもらう)は 常に最優先されるのであり、大枠ではアメリカも この路線にしたがって行動しているのです。 また、「米中は結託して日本を貶めようとしている!」 と考えるのもやや無理があります、なぜなら、 米国と中国はそれぞれ「覇権国」と「潜在覇権国」であり、 互いに心の底から信頼できない存在だからです。 -:-:-:-:--:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:- これはアメリカと日本の間、というか、 世界のすべての国々の関係に当てはまるわけですが。 簡単に結論だけ言えば、東アジアを管理するアメリカにとって最高なのは、 1,中国も日本もおとなしいままでいること。(二重の封じ込め) 2、もし日中がぶつかったとしても巻き込まれたくない →だから尖閣でも「中立」を表明 3,ただし紛争が起こったら、最終的には日本の味方をする(シーパワー同盟) 4,だが本格的に介入するまでは、日本に安全保障の責務を負わせて (日本にバックパッシング)持ちこたえてもらう。 というものです。 このようなことを書くと、「おくやまは反米だなぁ」という声が またまた聞こえてきそうなのですが、 私は別に好き嫌い(親米・反米)という心情から このようなことを書いているのではありませんし、 「アメリカを・・・恨め・・・」とか「倍返しだ!」などを 言いたいわけではもちろんありません。 このお話は、あくまでも"アメリカにとっての「国益」"であり、 「もし彼らが本当に利己的であったら、 こうすることが彼らにとって「最善」である」ということです。 私が言いたいことは、これも「またか・・・」と言われそうですが、 「国家はどの国も利己的である」ということなのです。 大事なことですので、敢えて何度でも言います。 そして、逆説的に考えれば、 もし日本政府の首脳(もしくはあなた自身)が 現在のアメリカと同じ立場だったら、 きっと同じことを考えるはずでしょ? ということです。 日本はどの国にも過度な期待をすべきではありません。 なぜなら国際政治はその底では ホッブスのいう通りの「万人が万人にたいする闘争」があり、 誰も日本を助けてくれるわけではないからです。 -:-:-:-:--:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:- さて、本年度最後も例の如く、「身も蓋もない」結論となってしまいました。(笑) ですが、まず目の前の現実の姿を、 そのまま冷徹に捉えることからしか、新たな希望は視えてきません。 そのような想いで配信してきましたが、 お付き合い頂きまして、誠にありがとうございました。 新年も、読者の皆さんに新たな知的刺激を与えられるような お話を出来たらと思います。 良いお年をお迎えください。 ( おくやま )
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THE STANDARD JOURNAL
スタンダードジャーナル編集部
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