イベントの登壇者はWEB女子のサークル「久谷女子」から、猪谷千香(@sisiodoc)氏、岡田育(@okadaic)氏、鳩岡桃子(@hatoco)氏、山本友理(@negimiso)氏の選抜4名。(センター気味のメンバーだそうです)そして、金田淳子(@kaneda_junko)先生の合計5名でした。
◆イントロダクション
イベント中、登壇者からは数多くの刺激的な発言があり、それらを「切り取る」だけでも面白いと思ったのですが、そうした発言を切り取って紹介することは、イベントの趣旨とは異なると感じました。
イベントでは最初に、登壇者5名の自己紹介、「腐女子」遍歴や嗜好(しこう)が語られます。その後も、「こうした考え方が、腐女子内で一般的とは限らない」や、「異なる考え方を持っている人もいる」といった発言がされました。要するに「腐女子」も人それぞれということです。
登壇者5名は「腐女子」という共通点こそあるのですが、「腐女子」としての考え方は5名それぞれでした。年齢や出身地はもちろん、どういった要素に萌えるのかも、異なっています。それどころか、同じ人間でも時期によって嗜好が異なっているのです。
こうしたことから、「腐女子」と一口に言っても、その趣味趣向は人によって大きく異なることが分かります。
◆「腐女子」という「定義」と「個性」の境界線
「腐女子」は人それぞれですが、一方で、「腐女子」というカテゴリーが存在することは事実です。それでは、どこまでが「腐女子」の「定義」で、どこからが「腐女子」の「個性」となるのでしょうか。その境界線は、仲間同士で議論をする場合だと、あいまいな合意がされたまま放置されがちです。しかし、今回のイベントでは「久谷女子」というグループに、金田先生というタレントが「衝突」(別に、ケンカ腰の議論だったわけではないですが、比喩として)することで、かなり明らかになったと考えます。
境界線は「腐女子」の人数だけ存在するのですが、今回、私が注目したポイントは「肉体関係」でした。
「腐女子」は、さまざまなキャラクター(実在・非実在問わず)や、もの(生命の有無問わず)の関係性に「萌える」ようです。猪谷氏は、タクシーの「料金メーター」と「走行メーター」の関係で萌える人がいるとの例を挙げます。「走行メーター」は走った距離を覚えているけど、「料金メーター」は新しい客を乗せると、それまでのことは忘れてしまう・・・。とても切ない関係です。
また、山本氏によれば、漫画や小説で描かれているキャラクター同士の関係性を逆転させる妄想を楽しむこともあるようです。こうした関係性を固定化させないことを「リバ」というそうです。こうした用語があることは、こうした嗜好が、極端に特殊ではないことを意味していると言えます。※1
※1 山本友理(@negimiso)氏より以下のような指摘がありました。
https://twitter.com/negimiso/status/346204462840414208
ちなみに「リバ」の定義は、「(原作の)立場を逆転して楽しむ」ではなく、攻と受の立場が固定されない関係性(リバーシブル)です。好きなのはこれでいうところの同軸リバ http://dic.pixiv.net/a/%E3%83%AA%E3%83%90
このように、もの同士の関係性や、男女における「リバ」の妄想であれば、私でも抵抗なく受け入れることが可能となります。ただし、男同士の関係性となると、ハードルは高くなります。
理由は、私がカップリング(男×女)を妄想する場合、その先には必ず「肉体関係」が存在するからです。要するに、何のために妄想をするのかと言ったら、「オナニーのため」となるのです。そう考えると、男×男のカップリングを妄想されることに、少なからず抵抗感を覚えてしまうのです。
しかしながら、岡田氏は、カップリングを妄想することに、必ずしも「肉体関係」は伴わないと指摘します。例えば、YMOやビートルズのアーティスト写真を見ることで関係性を妄想することはあるが、そこには「肉体関係」の妄想は含まれないと説明します。同様に、山本氏もBL漫画を読むことは「オナニーのため」ではないと説明します。一方で、金田先生は「穴」の重要性を強調します。
つまり、ここで分かることは、男×男のカップリングを妄想する上において、必ずしも「肉体関係」の妄想が伴うとは限らないということです。そうなると、「腐女子」の「定義」は、予想以上にライトな位置に存在すると考えられます。
◆「腐女子」的な嗜好は性別を超えるか?
岡田氏は、YMOやビートルズの例を挙げましたが、「肉体関係」を伴わない関係性の妄想であれば、男性も自然に行っているのではと指摘します。例えば、三谷幸喜作・脚本の『新選組!』を見てニタニタしたり、スポーツ観戦を楽しんだりしている人は、男同士の友情や確執を想像して楽しんでいるのではないかと主張します。※2
※2 岡田育(@okadaic)氏より以下のような指摘がありました。
https://twitter.com/okadaic/status/346177956504293376
ナマモノ&ブロマンス萌えの私の主張は「この中で、ビートルズと山月記、ホームズと三谷幸喜作品が嫌いな男子のみ、腐女子に石を投げよ」でした。
また、そもそも日本社会が「ホモソーシャル」であることを指摘します。
「ホモソーシャル」とは、簡単に説明するならば、男同士でキャッキャウフフしている状態のことです。言われてみれば、日本の政界や会社などでは、そういった場面をしばしば見かけます。また、鳩岡氏が解説した「ネットdeイチャイチャ」なども、「ホモソーシャル」の一部なのかもしれません。
「ネットdeイチャイチャ」は、時間が押していたため駆け足となった、イベントの終盤に紹介された概念です。そのため、詳細な解説はなかったのですが、具体的には、津田大介(@tsuda)氏や家入一真(@hbkr)氏の周辺で起きている論争や、「ゲンロン男子」同士の会話、やまもといちろう(@kirik)氏とイケダハヤト(@IHayato)氏の論争などが、それに当たるそうです。要するに、ネットにより可視化された、男同士のキャッキャウフフということです。
このように書くと、「そんなことはない!」と否定する男性が多いのかもしれません。しかし、それは当然のことのようです。なぜならば、「ホモソーシャル」は、「ホモフォビア」(同性愛嫌悪)と「ミソジニー」(女性嫌悪)を基調としているからです。(※古代ギリシャでは「ホモフォビア」はなかったようです。)
こうした説明を聞いていると、「腐女子」的な嗜好は、女性に限ったものではないように思えてきます。なぜならば、「権力」とか「階級」といった「腐女子」的なキーワードを含めて、男性同士の関係性を、ああだこうだと妄想する男性は、実際に存在するからです。
「腐女子」の定義に「女性であること」は含まれるのか? そうした疑問が浮かんだのですが、今回のイベントでは、そうした議論までは行われませんでした。今後、こうしたテーマで議論されることがあると面白いかもしれません。
また、イベントの最終盤で、金田先生が「攻撃的な性である男に嫌気が差している男性オタク」という例を挙げたのですが(もしかして『電波男』の本田透氏?)、こうした人は言われているほどマイナーな存在ではないと思っています。
◆最後に
以上のイベントレポートを読み返してみると、金田先生の発言が少ないように思えるのですが、実際には金田先生がイベントの主役でした。しかし、「穴」の話は、誰でも読める無料記事では発表しにくいので、何かの機会に、有料記事で紹介したいと思います。
◆cakes(ケイクス)/不定期/150円(1週間)
https://cakes.mu/
岡田育「ハジの多い人生」連載中
◆津田大介の「メディアの現場」/不定期/630円
http://www.targma.jp/tsuda/
◆家入一真のメールマガジン「生け贄スタイルの理論と実践」/月4回/735円
http://yakan-hiko.com/ieiri.html
◆やまもといちろうのメールマガジン「人間迷路」/毎週火曜日(第5週は除く)/735円
http://yakan-hiko.com/kirik.html
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渡辺 文重
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コメント
うーむ、なにはともあれまずは>>5の方の意見に同意するばかり
幸い自分は男性で、今となってはBLだろうがGLだろうがあらゆる分野に趣向を滾らせることが出来るようになりましたが、かつては同性愛、特にGL(BLを誤記した訳ではないので明記しておきますが、女子同士のほうです)には激しく受け入れがたいものでした
どうやら腐男子はGL好き男子ではなくBL好き男子を示しているようですし、特にGLを好む男性の単語が悪意を含んで使用されている訳でもなさそうですから安心していますが…
もし男女カップリング好きや女子好きなだけでGL好きなんて認定されていたら、さぞ不快に感じていたことでしょうね…
話がちょっとずれるかもしれませんがネット上でのことです
単体男キャラが好きなだけで腐女子と言われるのは、空気読まずに単体男キャラを贔屓する言動をしている時が大概かと
なんというか、女のノリで男キャラにアイドルのような扱いをすると気持ち悪いと思う人が多いのでしょう
ネット上では男言葉を使う女性も多いですしね
簡単に罵れる言葉が腐女子で、使われ続けているうちに意味がねじ曲がってしまったんでしょうね
料金メーターで妄想できるとは・・・恐るべし!
(ID:11744617)
中盤までの分析は面白いが,そのあとのホモソーシャル以下の部分の指摘に外的視座の危険性を感じている。
この問題は多分にジェンダー的な疎外の倫理観がはらまれており,内輪当人のパラダイムを超えた分析がその場に持ち込まれ,ショックを与えかねない内容になりうる。
ことに,論争が起きていたり対立が起きているところで,当人たちは喧嘩しているのに,はたからすればホモソーシャルといえるからそれを該当させている,というのには強い違和感を覚える。妄想する側のパラダイムとその場でかかわっている男性同士のパラダイムを混同しているように思われる(女性であることが含まれるのかの議論がなされなかった…というより,自重した意図はそのあたりにもあるのでは?)。
また,腐女子…に限らず,多くの女性のコンテンツ消費者が「男性同士」の恋愛を空想する理由それ自体に,「男女の性差を恋愛に持ち込みたくない」という心理が働いていることは岡田斗司夫以前から指摘があったのだが…。