選挙が終わって10日あまり。前回行われた区議会議員と区長の選挙はあまり取材できなかったのですが(参考:東京都北区の区長&区議会議員選挙で投票してみた!)、今回は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響でTokyo 2020(東京五輪)が1年程度延期になったこともあり、公示前から情報を集めていました。今回は自らの視点を明確にするため、自分が立候補することを知った順番に、各立候補者に対する評価を記していきたいと思います。
東京都議会議員補欠選挙の結果は、下記サイトから確認できます。
■ものすごく順当だった山田加奈子(自由民主党)の当選
今回の選挙は、山田加奈子氏の当選に終わりました。この結果に関しては順当だと考えています。北区議会の区議として4期13年間。議長も務めるなど、区議として十分な実績を残しています。北区に対する貢献度という観点から考えれば、山田氏が落選したら“おかしい”というレベルで、順当な当選だったと思います。それに、公明党も支援してましたからね。
さて、山田氏が立候補することを知ったのは、2019年12月のこと。私が所属している王子法人会青年部会、その忘年会の席でした。それ以前から「最近、山田氏のポスターを見かけるな」と思っていたのですが、どうやら都議補選に出るらしいと、この時に知ることとなります。
王子法人会青年部会には、自民党区議の方も数名所属されています。ただ、実際に常任理事会などに出席することはまれで、重要な式典にちょこっとだけ顔を出して帰るだけという印象です。そうした中、山田氏は顔を出している方ですが、その背景には、山田氏の兄上が王子法人会の青年部会や広報委員会で部会長・委員長を歴任されている、ということもあります。兄上は、私にとっても良き先輩なのです。
ここで重要なことは、少なくとも選挙の半年前には、すでに準備がスタートしていたということです。都知事選挙の政見放送で「私が当選したら都議を擁立して……」とか言っている人もいましたが、都議選はそんな甘いものではないです。もちろん準備期間が長ければ良いとは限らないですが、どんな選挙でも準備期間が長すぎることはありません。それに現職の区議がその地位を辞して立候補するわけでから、その覚悟・本気度は伝わってきます。そこには北区自民党の事情もあります。
■自公選挙協力、八代英太の乱、音喜多駿の台頭
北区における政局を知る上で、自公選挙協力→八代英太の乱→音喜多駿の台頭という流れは、基礎知識となります。そもそも北区を代表する国会議員は八代英太氏(自民党)でした。しかし2003年の第43回衆議院議員選挙では自民党と公明党が選挙協力をすることになり、東京12区(北区を含む選挙区)からは公明党の太田昭宏氏が出馬し、八代氏は比例東京ブロックに回ります。この時は太田氏・八代氏、ともに当選します。ところが次の郵政選挙(2005年)、八代氏は郵政民営化造反者になったことで、自民党の公認を得られず、無所属での出馬となって落選します。ただ、北区の自民党支持者の中には八代氏に同情的な人もいて、“こっそり”応援されたことも記憶に残っています。次の第45回では青木愛氏(民主党)が当選。第46回では太田氏が返り咲き。つまり北区の自民党は、自分たちの代表を国政に送り出せない日々が続いていたのです。
そうした中、2017年10月の第48回衆議院議員選挙で、ついに高木啓氏が比例代表東京ブロックから当選を果たします。高木啓氏の祖父・惣市は区長、父・信幸は都議を務め、自身も都議という、北区ゆかりの政治家ですが、北区自民党としては12年ぶりの悲願成就となったのです。
これで「区」と「国」はそろいましたが、問題は「都」です。実は高木氏、2017年7月の都議会議員選挙で落選しています。もともと北区の定数は「4」だったのですが、この選挙から「3」に減ったんですよね。そのあおりを食らうのは、前回選挙で4位の人だろうと誰もが思っていたのですが、ふたを開けてみると、その人はトップ当選。高木氏は4位で落選となったのです。トップ当選した人物、それが音喜多駿氏です。今回の補選、音喜多氏が北区区長選挙に出馬したことが、直接のキッカケなんですよね。ちなみに音喜多氏は北区区長選で落選しましたが、現在は日本維新の会所属の国会議員となっています。
北区自民党にとって音喜多氏は、いわば“天敵”。音喜多氏から「都」の議席を奪い返し、区・都・国の連係を強化することが、山田氏に課せられた重大な使命だったわけです。山田氏は前回の区議選、自民党の中で最も投票を集めた人物です。絶対に負けられない戦いに送り出すには、これ以上ない人物ということになります。
■音喜多駿の後継目指す佐藤古都(日本維新の会・あたらしい党)
新型コロナウイルスの影響でテレワークとなり、通勤時間がなくなったことで、午前中に散歩する機会が増えました。散歩のコースはまちまちですが、王子駅周辺を通ることが少なくありません。その散歩コースに、日本維新の会の拠点があるですが、そこに貼られているポスターで、佐藤古都氏のことを知ります。もう山田氏が補選に出ることを知っていましたから、「この人も補選に出るのだな」と察します。佐藤氏は公示前より、自動車のスピーカーから「新型コロナウイルスで困っていたら声を掛けてください」と訴えるなど、しっかり準備をしていた印象を受けます。
選挙戦が本格化する中、佐藤氏は最初に街頭演説で見かけた候補者でした。ポスターを見て気になっていた箇所は「ダブリン」という単語。もらったチラシによると「ダブリン大学トリニティカレッジ心理学部へ進学」ということですが、実際に見た第一印象は、ダブリンから連想される「洋風」ではなく、「いかにも維新」でした。街頭演説の様子を撮影しようとしたら、運動員の方が「一緒にいかがですか?」と声を掛けて、ツーショット写真を撮ってくれたり、候補者が名刺を渡したり……。現北区区議の吉田桂介氏(日本維新の会)とムーブが同じでした。
■音喜多駿の選挙戦、その源流は?
音喜多氏が最初に立候補した時は、王子駅前における演説のノウハウがなく、自民党の運動員にフォローされるなんて場面もあったのですが、いまではベテランの風格すら感じます。音喜多氏には興味があり、彼のオンラインサロンに参加していた時期もあるのですが、彼自身には吉田氏や佐藤氏のような、道行く人に握手を求めて……という“泥臭い”選挙をする印象はありません。その代わり、若いボランティアを組織化することに優れている。北区区長選挙は落選という結果に終わりましたが、彼を応援するボランティアは、見事な活躍を見せていました。
なんの根拠もない、あくまでも推論ですが、こうした選挙戦術の源流は2014年都知事選、家入一真氏の選挙活動にあると思います。家入氏は落選、「インターネッ党」も尻つぼみですが、その選挙戦は見事でした。若いエンジニアが集い、ネットを使ってポスター貼りなどを効率化する。私も少しだけ手伝わせていただいたのですが、とにかく熱気がすごかった。そうした雰囲気を受け継いでいるのが、音喜多氏の選挙戦です。家入氏の選挙戦では、支持者からの“やる気”は感じられたものの、その“やる気”を出力する方法については稚拙でした。そこを洗練したのが音喜多氏です。例えば、運動員が全員オレンジのTシャツを着るとか、士気の高い支持者が正しく選挙応援できるよう、うまく導いていると思います。
そうした中、気になったのは“攻撃対象”です。実際の選挙結果もそうでしたが、冷静に考えれば、当選を阻む最大の壁は、自民党・山田氏です。そう考えると、まずは山田氏をたたく必要があるのですが、応援演説を聴いたり、SNSの投稿を見たりする限り、その標的は立憲民主党や都民ファーストの会に向いていたように思います。「冷静に考えれば自民党・山田氏が最大の障壁」と記しましたが、もっと冷静になると、佐藤氏の勝ち目は薄い。そうなると今回の選挙は、2021年に行われる都議会議員選挙に向けた“準備”なのかなと感じました。
前回の都議選では定員「3」に対して「5」人が立候補。音喜多氏、大松成氏(公明党)、曽根肇氏(共産党)が当選し、高木氏、和田宗春氏(民進党)が落選となりました。で、今回の補選の結果、自民・公明・共産で3枠となったのですが、次回の3枠に食い込めるかが、より重要ということです。佐藤氏は「神谷在住」とのことですが、多くの北区民から見れば“新参者”。まずはお手並み拝見というのが、有権者の印象ではないかと思います。
■筆談ホステス・斉藤里恵(立憲民主党)の感動的な演説
斉藤里恵氏の立候補を知ったのは、Twitter(ツイッター)でした。
①皆さま、いつも私、斉藤りえの活動へのご支援・ご理解をいただきまして心より御礼申し上げます。
― 斉藤りえ(都議補選 北区) (@riesaito2019) 2020年5月20日
この度、7月5日に行われる東京都議会議員補欠選挙の北区選挙区で、立憲民主党の公認が決定し、新たなチャレンジをすることになりました。
今回は山田氏と佐藤氏の一騎打ちで、山田氏が勝つだろうなと思っていたところに、ニューカマー登場。ただし佐藤氏とは異なり、2015年の北区区議会議員選挙でトップ当選を果たしていますから、北区民にはおなじみの存在です。ただ、区議会議員選挙の時は「日本を元気にする会」所属、音喜多氏が応援していたのですが、今回は立憲民主党です。
その立憲民主党ですが、北区議会には4人送り出しているものの、滝野川在住の私からすると、あまり存在感がありません。志茂、中十条、豊島、赤羽ですからね。今回は都知事選で宇都宮健児氏を擁立した関係もあり、北区区議会に9人送り出している共産党が協力してくれましたが、来年の都議選ではライバルになる可能性もあるので、ものすごい支援を期待するのは無理な話です。
参考:北区区議会の構成
今回、私が最も注目したのは斉藤氏です。興味本位で申し訳ないのですが、斉藤氏は「耳が聞こえない」ため、どのような選挙戦をするのか、そこに注目しようと思っていました。ただ、立憲民主党の区議は志茂、中十条、豊島、赤羽。選挙活動をする上で、その場所に区議がいるかどうかは、かなり重要なポイントになります。逆に言うと、駅前などを除き、区議がいない地域には来ないので、こちらから出向く必要があるのです。
まず6月17日、赤羽駅東口で活動をするという告知を見たので、散歩がてら行ってみたのですが、告知された時刻に東口で街頭演説していたのは、日本維新の会。阿部司氏(衆議院東京12区支部長)がマイクを持って、小池都政を批判していました。で、西口に行ったら、そこにいたのは都民ファースト会・天風いぶき氏。都民ファースト会が候補者を出していることは、この時に知りました。結局、斉藤氏がいたのは南改札の東側。最初からそのつもりだったのか、それとも駅前の選挙活動は“乱戦”になることがあるので敗れたのか……。
そして6月26日、この日は塩村文夏氏、市井紗耶香氏が応援に来るというので、告知された「志茂すずらん通りの一番奥」に行ってみたのですが……。地元の人なら分かるのかもしれませんが、分かりづらい。メディアと思われる人も、右往左往していました。私のような野次馬はほかにいなかったものの、メディア関係者を引き連れての街宣となったのですが、お世辞にも良い仕切りとは言えなかったですね。あまり人が来なくて良かったという印象を持ったのですが、それって選挙活動としてはダメじゃないですか。
ただ、この日の夕方、赤羽駅東口で行われた演説は感動的でした。メインは宇都宮氏で、共産党の小池晃氏、立憲民主党の蓮舫氏が応援演説、共産党の池内沙織氏が司会という布陣。斉藤氏は1歳で聴力を失っているため、いわゆる“普通”に話すことができない。それでも、あとから塩村氏が原稿を読むというサポート付きながら、自らの声で演説を行ったのです。昔「愛してると言ってくれ」というドラマで、聴力を失った男性を豊川悦司氏が演じていました。最終回、その男性で初めて声に出して叫ぶシーンがあったのですが、その時の感動を思い出しました。
■その演説、本当に応援になっている?
最近の枝野幸男氏の発言には残念だなと感じる一方、安倍晋三氏や松井一郎氏、小池百合子氏、立花孝志氏に比べれば“マシ”なので、今回の選挙が国政ならば、投票先は斉藤氏一択だと思っていたのですが、区や都となると、地元への貢献度は重要な目安となります。ですから所属政党の“大物”が応援に来ても、当の選挙民からすると「?」となることがあります。国政は国政、地方は地方ですからね。
例えば斉藤氏の場合だと、都知事選候補の宇都宮氏はともかく、東京12区から立候補している池内氏、以前にも赤羽で演説している小池氏は良いとしても、蓮舫氏と北区の関係性は、あまり感じられない。演説に、北区民が喜びそうなキーワードを入れるとか、そういう工夫が欲しかった。例えば、後述の西村康稔氏は「大学時代、中里に2年住んでいた」と発言しています。
日本維新の会の場合、応援の顔として使えそうなのが、大阪市長の吉村洋文氏だけという事情があるにせよ、ちょっと厳しい印象を受けました。日本維新の会は都知事選で、元熊本県副知事の小野泰輔氏を擁立していましたが、4位で得票率10パーセントに届かず。私の周りだけかもしれないですが、東京の人は地方の実績をあまり評価しない。最近の都知事は、国会議員か副都知事ですからね。
応援という点では、自民党が豪華でした。良い意味でも悪い意味でも。告示日に西村大臣が応援演説にやってきたのですが、その2日前に突然、新型コロナ専門家会議を解散すると発言し、物議を醸しだしたばかり。河野太郎防衛大臣もイージス・アショア計画撤回でミソが付いた後に応援演説にやってきたのですが、正直、山田氏支持者の中にも「何しに来たの?」という人が少なからずいるように感じました。彼らのせいで、ほかの人に投票することはないと思いますが……。今回、山田氏は「即戦力」を押し出していたので、政権とのパイプがあることをアピールする上で役立ったとは思いますが、今後は応援者の質も考慮しないと足をすくわれる危険性があるでしょう。
■小池百合子再選はアシストしたものの…天風いぶき(都民ファーストの会)
天風いぶき氏の立候補を知ったのは、先ほど書いたように6月17日のこと。演説を聞いていると、都民ファーストの会は北区で苦戦しているようです。あとで調べたところ、区議は1人だけで、都議はゼロ。東京都議会における最大会派なんですけどね……。
もちろん、北区にも都民ファーストの会所属の都議がいました。その人物は2017年7月の都議会議員選挙でトップ当選を果たし、東京都議団の幹事長まで務めた人物です。はい、音喜多氏です。日本維新の会・佐藤氏が音喜多氏の後継を名乗っていますが、都民ファーストの会からすれば本来は自分たちの議席。この2党派がバチバチするのは当然ですが、区議とか都議のといった地方選挙では、党派よりも人。神谷在住の佐藤氏でさえ新参者というイメージですから、北区との縁があまり感じられない天風氏が、北区という地方でいきなり認められることは難しい。チラシによると、都民ファーストの会都政改革委員(北区担当)みたいですが。唯一勝算があるとしたら、国政では八代氏や青木氏といったタレントが当選した経緯があること。天風氏のアピールポイントは、「小池百合子氏の元秘書」と「元宝塚歌劇団宙組男役」が2枚看板ですからね。
演説を聴いていたら、ツーショット写真にも応じていただけましたし、本人から名刺もいただきました。この名刺を渡すムーブ、日本維新の会のやり方だと思っていたのですが、都民ファーストの会もやるということは新発見でした。支える区議は1人だけで、小池氏以外に“応援の顔”となるような人物もいない。その小池氏も、自身の選挙活動さえしなかったので、当然応援にも来ない。孤独な戦いを強いられていたと思います。
冷静に考えれば、今回は“顔見せ”。ついでに、都知事選に立候補している小池氏をアシストできることが、立候補の理由かと思います。実際、天風氏の選挙応援カーには、小池百合子氏の応援トレーラーが大体セットで付いていました。小池氏の応援に関しては後述しますが、選挙ポスターが問題視されることになります。
■ネット配信のゆづか姫・新藤加菜(ホリエモン新党)
今回は4人の戦いか……なんて思っていたら、告示日にもう1人候補者がいることを知ります。ホリエモン新党の新藤加菜氏です。私は、実際に会ったことない人物の評価はしない(できない)方針ですが、報道によるとネット配信の世界では「ゆづか姫」として知られる著名人のようです。
新藤氏の主張はネットなどでも確認しましたが、それほど悪いものではない。まあ大体、選挙公約は有権者に耳あたりが良いものなので、それを見極めるために実際、どんな人物かを観察する必要があるわけです。ただ、やはり疑問なのは、なぜ北区なのかです。天風氏でさえ「都政改革委員(北区担当)」という肩書があるのですが、新藤氏が北区の補選に出る理由は不明でした。
今回の都議補選は北区のほか、大田区と日野市、北多摩第三にて行われたのですが、なぜ新藤氏は北区を選んだのか。1つは、ホリエモン新党の代表である立花氏が党首の(ややこしい!)NHKから国民を守る党の区議が、北区には1人いたことがあるでしょう。大田区や日野市、北多摩第三の議会公式サイトを見る限り、同党の議員は確認できませんでした。どのレイヤーの選挙においても、区議の存在は重要ですからね。光木慎太郎区議のTwitterを見ると、ポスターを貼って回る様子が投稿されていますが、こういう地道な作業が重要なのです。(選挙後に離党したようですが、最低限の義理を果たしたということでしょう)
区民の方から連日のように御質問と御指摘を頂いております、ポスターに関する御指摘が多いので、指定された場所の掲示板へ修正を行っています。今日は雨が降っていてびしょ濡れですが3時間ほど歩いて何とか終わりました。区民対応などの裏方がメインですが、新藤候補の応援になっていれば幸いです。 pic.twitter.com/KP1Q33IvyR
― みつき慎太郎 (@Mitsufits1218) 2020年7月3日
国会議員、特に比例から当選した著名人なんかは「自分の力で当選した!」みたいな自負が強いのか、今回の選挙期間中にも離党した議員がいましたね。そういう人って、地域で地道に活動されている議員やその支持者のことを、なんだと思っているのでしょうか。
閑話休題。ただ新藤氏が北区を選んだ理由は区議の存在ではなく、「女の戦い」というマスコミ受けを狙った戦略だったと推測されます。
■候補者の5名のプロフィールを確認
今回の候補者は全て女性でした。その理由は不明(単なる偶然かも)ですが、2017年の都議選で高木氏が落選した原因の1つに、塩村都議(当時)に対するセクハラ野次の対応で誤ったことがある。そういう経緯を考えると、またやらかしかねない男性ではなく女性の方が支持されやすいと、自民党は考えたのかもしれません。
音喜多氏は区議選で斉藤氏、駒崎美紀氏と女性候補を立て、2回連続トップ当選を果たした実績があるので、今回も女性候補者が良いと考えたのでしょう。立憲民主党は、北区に縁がある斉藤氏を選ぶのが最善手。3人女性が並んだので、都民ファーストの会とホリエモン新党はかぶせてきた、というのが私の推論です。
ただ、プロフィールだけを見ても山田氏の圧勝です。北区との縁という点では「北区生まれ北区育ち」に勝るものはありません。選挙において出身地が最重要だとは思いませんが、その地域の問題を理解しているという点では非常に有利です。例えば、日本では近年、そして最近も、大規模な水害被害が起きていますが、北区も水害被害を受ける危険性が高い地域なのです。
岩淵水門の役割などは、北区の小学生が社会の授業で習うことですが、それをどれぐらい理解できているか。当選してから「北区のことを勉強します」では遅い。ですから佐藤氏や斉藤氏も「北区在住で子供を育てています」をアピールポイントにしています。今回の熊本水害で無神経な発言をした会派は、次回の選挙で票を失ったと考えてよいでしょう。
自身がハンディキャップを抱えていることから、そうした方々のことを理解できる。これは斉藤氏のアピールポイントです。ただ、本人が一番大変だということは理解しつつも、介護する方も大変です。右腕のない父を持つ山田氏のほか、天風氏も「母と祖母の介護をしている」とチラシに記しています。また佐藤氏は好きなものに「手話」を入れています。
天風氏のチラシには「父は国会議員秘書を勤めた(原文ママ)のち、政治家を目指しましたが39歳で他界」と書いてあります。一方、山田氏の父は自民党から区議選に出馬して五度落選。一度も当選できず、その意思を継いで当選したのが山田氏で、その翌年に父上は他界されています。不謹慎だとは思いますが、こうしたアピールポイントは似てくるものですよね。
ただ今回本命の山田氏にとって、最大のアピールポイントは「街の電気屋さんの娘」だったと思います。隣の巣鴨地蔵通り商店街(豊島区)やハッピーロード大山商店街(板橋区)ほどではないにせよ、赤羽や十条の商店街は、それなりに盛り上がっている。しかし私の地元・滝野川の商店街は苦境に立たされています。宮元、御代の台仲通り、八幡通り商、馬場、きつね塚、滝野川銀座……。私が小学生ぐらいまでは、どこもにぎやかでしたが、見る影もありません。板橋駅の近くでは「滝野川新選組まつり」など頑張っていたのですが、もう5年ぐらい開催できていません。山田氏は滝野川が地盤ですから、個人商店からの期待が高い印象を受けます。それが前回区議選で2位の投票につながったのでしょう。いや、ほかにも滝野川地盤の自民党区議はいたのですが、あくまで個人の感想ですが「頼りない」と感じられたのでしょう。その分、票が流れたのだと思います。
山田氏に対抗できるポイントは海外経験です。山田氏の経歴は国内に限られていますから。そうしたこともあり、佐藤氏、斉藤氏、新藤氏は海外留学をアピールしています。
■ポスター問題
今回の補選で話題となったのがポスターです。その発端は、新藤氏の「アベノマスクブラ」でした。新藤氏に関しては、マスコミ受けを重視している印象でしたので、その話題作りの一環だったと思います。今回の補選をキッカケに名前が広く知られれば、次の選挙(それは北区に限らない)で有利になる。実際、すでに新藤氏は千葉県・印西市市長選挙に立候補しています。そうしたことを考えれば、あえて突っ込まない方が良いというのが、大局を見た判断ではないかと思います。音喜多氏も、天風氏のポスターを問題視しながら、新藤氏のポスターはさらっと無視しています。敵を絞ることも重要です。例えば前回の区長選挙、音喜多氏は現職区長の対決をピックアップしましたが、もう1人の候補・川和田博(日本共産党、新社会党推薦)には触れませんでした。不必要に戦線を広げる必要はないのです。
都議候補ポスターに小池知事。これ、我々も都知事候補とのコラボは考えたけど、同時期に他の選挙に出ている人は違反だと言われ断念した。本日も北区選管に聞いたらやはりNGで、当該陣営に事前注意をしてたのに…とのこと。これは「小池知事側」の公選法違反なので、一発アウトもありえると思うが…? pic.twitter.com/fj2YWcbZ7l
― 音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選出) (@otokita) 2020年6月26日
私が観察する限り、今回の選挙に関係ある人たちで、新藤氏のポスターに苦言を呈していたのは、池内氏ぐらいでしょうか。池内氏は、インテリの印象が強い共産党にあって、“知力低め”なムーブを見せる人物です。それが“素”なのか“役割”なのかは不明ですが、池内氏も浪人中で名前を売りたいから、両者の思惑が一致したという感じでしょうか。
ポスターに関しては、音喜多氏が指摘するように、天風氏と小池氏のツーショット写真の方が問題でしょう。ただ、これも間隙を突いた作戦だと思います。佐藤氏も吉村氏とのツーショット写真にしているから、この問題を指摘する際にひと手間(吉村氏はOKな理由を説明する)が必要になる。山田氏も選挙違反を指摘したいけど、下手に指摘すると菅原一秀氏や河井克行氏、河井案里氏の選挙違反で批判を受ける危険性がある。斉藤氏陣営も、池内氏が新藤氏を批判したことで、天風氏への批判を鈍らせた印象を受けました。さらに当の天風氏にも今回は“顔見せ”だから、悪名は無名に勝る的な計算があったのかもしれません。
結局のところ、菅原氏の選挙法違反が不起訴になったことに象徴されるように、現金を配って回るぐらいの違反をしなければ逮捕されないので、やったもの勝ちになっているのが、日本の選挙の実情だということです。
■終わりに
かなり長い文章になってしまいました。今回の取材内容を全て書き切れたとは思いませんが、満足できる内容になったかなと思います。これだけ調べても投票できるのは1票。何も考えない人が投票する1票と同じですから、自己満足以外の何物でもない。選挙なんて、そんなものです。むしろ当選した、あるいは落選したけど地域で活動している政治家と、どうやって付き合っていくかの方が重要。誰に投票したか、どこが勝ったか、そもそも投票したかどうか関係なく、どうすれば自分の生活をより良くできるか。そう考えると、政治に無関心ではいられないですよね。
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