取材に応じてくれた後藤武浩さんと土屋綾子さんは、ともに実家が戸建てだったこともあって、家の購入時には「マンション暮らしは一切考えてなかった」とキッパリ。そんな2人は結婚のタイミングで新居となる物件探しをはじめ、荻窪エリアにある築33年の木造住宅と運命的な出会いを果たす。
彼らはどのようにして、理想的な家を見つけ出したのだろうか?
ここに住むことになった経緯は?
以前は南阿佐ヶ谷に住んでいたのですが、結婚のタイミングで「家が欲しいよね」という話になって、ローンを払いはじめるにしても今ぐらいがちょうどいいのかなと。それがちょうど2年ぐらい前ですね。
それから自分たちで物件探しをはじめたのですが、まずマンションを購入するという選択肢が2人にはなかった。というのも、どちらも実家が一軒家だったということもあり、購入するなら「中古の戸建て」を第一に考えていました。音の問題もありますし、いずれは犬を飼いたいというのもあったので。
間取り
この物件は、自分たちでネットを使って探し出しました。不動産屋に依頼はしてみましたが、彼らが紹介してくる物件は「建売で人が住んでいない家」というものが多く、いわゆる住宅街でよく見る古い家。悪くはないけど、気持ちが高ぶらないというか、その家ならではの特徴を感じづらかったですね。
ここに決めた理由は?
すべての部屋が南に面していて、日当たりが良く、室内が明るいところ。家の前は、近所の人だけが使う狭い歩道なので、住宅密集地でも隣家とはほどよい距離があるんです。
あと、建物自体にも魅力を感じました。この家を建てた人というのが、噺家さんを多く診ていたという変わったお医者さんだったようで、家を購入するときに不動産屋さんから当時の建築図面をいただいたんです。それを見てみると、1階にあった和室にはお茶を点てていたのか水道管が引かれていたり、お酒飲みだったらしく台所には製氷機用の配管があったりと、住んでいた人の趣味嗜好が見えてくるのがいいなと。
天井や内装にはかなりこだわりを感じるし、構造的な部分も30年前にしてはかなりしっかりつくっているそうです。
普通に考えると、30年前に建てられた木造住宅ってかなり傷んでいると思うんです。でも、ここは少し補修をするぐらいで、今でも問題なく住むことができます。そう考えると、東京のお金持ちがつくる家はやっぱりすごい(笑)。
本当は工事をせずにそのまま住んでも良かったのですが、はじめに直しておいたほうがあとから面倒も少ないと思い、引っ越しする前にフルリノベすることに決めました。
はじめてのリノベ、どうでしたか?
リノベ工事は建築設計事務所の「SNARK」さんに依頼。2人とも開放感がある家が好きなので、SNARKさんのつくった事例を見ながら「この物件っぽく」みたいな感じでお願いしました。
基本的な工事は、壁を取って、天井や壁を張り替えて、床をフラットにしたりとか、それぐらいです。予算を少しでも抑えたかったので、自分たちでDIYしたところも多いですね。キッチンのタイル、玄関の収納、カーテンボックス、あと脱衣所の棚なんかも自分たちで付けました。
SNARKさんも業者さんも、工事を進めながらどのようにしたいかを都度聞いてくれたので、それがやりやすかったです。リノベ工事って現場の状態を見てから変更することも多いので、はじめの計画通りに完成させようとしすぎないほうがいいですね。現場での変更にフレキシブルに対応できるかどうかは、リノベをするうえで重要なポイントだと思います。
中古の戸建物件を探すときのポイントは?
都内で戸建てとなると、やっぱり予算が高くなってしまいます。なので、現実的に考えると「中古の戸建て」になるのですが、自分たちはほぼ土地の価格だけで購入できる、築30年前後の物件を中心に探しました。それもハウスメーカーがつくる建売住宅ではなく、個人の注文住宅として建てられたものですね。
あとは、その建物がどれだけしっかりとしたつくりで、どれだけきれいに使っていたか。既存で使えるものが多ければ、それだけリノベ費用は抑えられますから。
わたしたちは荻窪エリアで探しましたが、他のエリアでもおもしろい物件はたくさんあると思います。久我山あたりもいい物件が多かった気がします。
こだわってつくられた注文住宅だと、ハウスメーカーの家よりも耐久性のことだけではなく、間取りや細部のデザインに個人の趣味が反映されていて、おもしろい家が多いです。ここも2階の天井が斜めとフラットの組み合わせだったり、造作家具の天板が大理石調で渋かったりしますが、こういうものって自分たちで発想できないものだったりしますからね。
リノベーションと聞くと「古い家を自分たちの好きなようにつくり替える」というイメージがありますが、わたしたちの場合は、家が持つよさをそのまま活かしながら住むという感覚に近いですね。物件選びは少し手間がかかりますが、いいものが見つかったときは最高ですよ。
荻窪という人気エリアで、運命的な物件に出会えた後藤さんと綾子さん。旗竿地でありながら、南向きの大きな窓からは日の光が入り、庭先には駐車スペースまで完備。古い家の良さをそのまま残したリノベーションは、シンプルで無駄な装飾性がなく、これまでのリノベ事例とはまた違った新しさがあった。
築30年前後になれば建築的価値が0円という古屋は多い。断熱性や耐震性など、気になる部分もあるかもしれないが、状態のいい物件を見つけることができれば、都内で戸建てという選択肢も夢ではないのかもしれない。
Photograghed by Kenya Chiba27歳で35年ローンを組むのってどうですか?(江東区・亀戸)
リノベ2軒目の経験者が語る「理想の家」のつくり方(世田谷区・三宿)
都心、駅近、2部屋の防音室(港区・麻布十番)