明後日はまた初夏のような陽気だそうですね。
露木行政書士事務所・露木幸彦と申します。
なかなか体も心も追いつきませんが、無理せずボチボチですね。
さて、ここからが本題です。
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さて前回までは母親から父親との熟年離婚の相談を持ちかけられた息子のことを紹介しました。
そして息子は父親が入所している老人ホームへ出向き、話をつけに行ったのですが
今回はその続きからです。
父親、証券外務員、そして施設長の3人が
あろうことか老人ホームの食堂を貸切状態にして「金儲け」の話で
盛り上がっていたのです。
<家族構成>(すべて仮名)
藤谷勇(78歳)年金受給者
藤谷美智子(76歳)専業主婦
藤谷圭介(46歳)勇・美智子夫婦の長男(一人息子)会社員で妻と娘(15歳)の3人家族
とはいえ圭介さんは「父の蓄財」に関しては完全なる
部外者なので、このまま唐突に「母との離婚」の話題を
切り出すのは、あまりにも場違いなので一笑に付されて
終わりでしょう。
そこで圭介さんは話の切り口を工夫しました。
圭介さんは勇さんが「金に汚いタイプ」だと痛いほど
知っているので、離婚の同意を取り付けるために、
気持ちよりお金の面に重きを置いて、
勇さんの気を引こうとしたのです。
「前々から勘付いていたと思うけれど・・・
母さんは父さんと別れたがっているよ。さすがに
今回ばかりは決心が固いので、僕の方で母さんを
翻意させるのは難しそう。
そういえばこの前、母さんは『お父さんが離婚してくれれば
年金以外は何もいらない』と言っていたよ。
ちょっと計算してみたんだけれど、父さんは今まで
月に7万円、渡していたよね。
もちろん、離婚すれば渡さなくてもいいし、
その代わりに年金を4万円、渡してくれればいいから、
これからは3万円も浮くんだよ。
結構、いい話なんじゃないかな?」
もちろん、勇さんもいきなりの「妻からの三下り半」に
相当、驚いた様子で、かなり動揺しており、
2人の間には15分ほど沈黙の時間が流れたようです。
シーンとした食堂で勇さんは目の前に散らかった通帳を
ぺらぺらとめくったり、証書の表裏をくるくると返したり、
投資信託のパンフレットを三角形に折ってみたりして、
落ち着かない様子ですが、
その日はとりあえず「まぁ、考えておく」と言い、
圭介さんは施設を後にしたのですが、圭介さんいわく、
勇さんはまんざらでもない様子だったそうです。
結局のところ、勇さんの思考回路は非常に単純明快で、
複数の選択肢を用意されたら、「金銭的に得な方を選ぶ」ように
出来ているのです。
資産運用であろうと、家庭生活であろうと、
離婚沙汰であろうと、です。どうやら勇さんの目には
「妻との離婚」はある種の儲け話、
そして圭介さんは儲け話を持ってきた業者の人間に
映ったのかもしれません。
そもそも勇さんには「自分が死ぬ」という発想が
抜け落ちていたように思えます。
だから、毎月3万円という金額が「長い目で見れば」
自分にとって大きな得だと勘違いしたのでしょう。
しかし、本当にそうなのでしょうか?
男性の平均余命は80.21歳なので
(平成25年の厚生労働省の簡易生命表)
現在、78歳の勇さんにはあと2年しか残されていません。
妻からの離婚に応じても、2年間で得られるのは、
わずか36万円(月3万円×24ヶ月)に過ぎませんが、
そんな微々たるお金に目が眩んで、
50年も連れ添った妻と離婚するなんて全く釣り合いが
取れないように思えますが、同じことが美智子さんにも
言えるので(50年も連れ添った夫と離婚するのに、
微々たる年金しか請求しない)
やはり、夫婦のことは夫婦しか分からないのでしょう。
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このように「離婚しない場合の支払>離婚する場合の支払」
だからこそ、最終的には勇さんから離婚の同意を
取り付けられたのですが、
逆に「離婚しない場合の支払>離婚する場合の支払」だとしたら、
勇さんは離婚に同意したでしょうか?
例えば、美智子さんが「離婚しても生活費を送って欲しい」と思い、
圭介さんがそれを代弁したら・・・
このパターンでは離婚しない場合の支払は月7万円の
生活費のみですが、離婚する場合の支払は月7万円の
生活費+月4万円の年金なので、勇さんが離婚に応じると、
月11万円を負担しなければならず、離婚前と比べ、4万円の負担増です。
ところで離婚年金分割という制度では、
夫が妻へ分与すべき厚生年金(共済年金)は『2分の1』だと
決まりきっていると思われがちですが、
そんなことはありません。
按分割合のルールは平成20年を基準に異なっており、
具体的には「平成20年より後の年金は夫の同意がなくても
2分の1まで分割できる」「平成20年より前の年金は
夫の同意がなければ分割できない」というのが正しいです。
(裁判離婚の場合を除く)
極論をいえば、夫の同意を得られなければ、
妻は夫の年金のうち、平成20年より前の年金を
全くもらうことができないのです。
今回の場合、平成20年の時点で勇さんは71歳、
美智子さんは69歳ですが、勇さんが71歳から78歳
(平成20年から27年)までに納めた共済年金はゼロなので、
万が一、勇さんの機嫌を損ね、離婚の件がこじれた場合、
美智子さんは勇さんの年金を全く分けてもらうことはできないのです。
また60歳以上の夫婦が離婚する場合、すでに年金を受給している
ケースもありますが、受給前と後でどのような違いが
あるのでしょうか?
まだ年金を受給していなければ、分割の対象になる年金が
増えることがあっても減ることはありません。
しかし、今回の場合、勇さんは65歳から共済年金を
受給しているようで、同時に年金の原資を毎月、
少しずつ取り崩しているのですが、
それは今まさに美智子さんが欲している
年金分割の対象でもあるのです。
共済組合の試算によると今すぐ離婚すれば、
美智子さんの年金は月4万円増えますが、
今後は月4万円「以下」になり、離婚が遅れれば遅れるほど、
ますます減っていくので圭介さんは一刻も早く、
勇さんを説得しなければなりませんでしたが、
欲張って生活費と年金を二重に請求したせいで、
勇さんの機嫌を損ね、一生涯、離婚に同意せずに
美智子さんの得られる年金がゼロのままだったり、
離婚が遅れたせいで年金が減るようでは本末転倒です。
ですから、圭介さんは機転を利かし、
「離婚しない場合の支払>離婚する場合の支払」が
崩れないように話を進めたそうです。
「父が年金のことに疎くて、本当に助かりました」
圭介さんは当日のことをそう振り返りましたが、
結局のところ、勇さんが離婚年金分割という制度について
何も知らなかったようで、このことは不幸中の幸いでした。
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勇さんが年金を渋り出せば、2分の1(最大限)ではなく、
3分の1や4分の1しか分与しないと言い出す危険もあったのですが、
圭介さんは「とにかく法律で2分の1だって決まっているから」と
連呼し続けた結果、勇さんは何も疑うことはなく、
事なきを得たのです。
また前述の通り、離婚時に年金分割の手続をしておくと、
夫から妻へ分割された年金は、夫が亡くなった後も妻が
生きている限り、支給され続け、今回のケースでは離婚6年目に
「離婚しない場合の生活費<離婚した場合の年金」となりますが、
勇さんがそのことを知れば「俺が損するような条件なんて
絶対にのまん!」と言い出しかねません。
6年後にはすでに自分が亡くなっているかもしれないのに、です。
(次回に続く)
現在私が執筆しているダイヤモンドオンラインの連載
『実例で知る! 他人事ではない「男の離婚」』ですが
おかげ様で本日、15回目が公開されました。
今回は『不倫した妻に子どもを奪われ
養育費だけを払い続けた男の悲哀』です。
男性はもちろん、夫の作戦を守って知りたいという女性にも
役立つ内容です。立場を逆にすれば、きっと応用できるはず?!
ぜひぜひご覧いただければ嬉しいです。
http://diamond.jp/articles/-/80509
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