俺の棒銀と女王の穴熊〈4〉 Vol.9
☆
帰宅するとすぐにパソコンに向かい、ブログ開設の作業に取りかかった。
この手の作業は初経験だったし、どのサービスがいいのかもわからないが、ブログを運営しているプロ棋士はたくさんいるので、彼らを参考によさそうなサービスを選定した。
あとは管理画面の操作を手探りで覚えながら、文章を書き込んでいく……。
<彩文学園将棋部1年の春張です。
今日からブログをはじめることにしました。
うちの部にはこの前テレビにも出た、アマ女王の神薙紗津姫さんがいます!
先輩も含めてうちには女子が3人いますが、11月の女流アマ名人戦を目指して頑張っています。
練習風景の写真とかどんどんアップしていきますので、ぜひ注目してください!>
ブログ名はシンプルに「彩文学園将棋部の日々」とした。
紗津姫と依恋の写真を厳選して一枚ずつ張り付け、末尾には「今日の次の一手」というコーナーを設けて、棋譜管理ソフトで出力した局面図を掲載する。プレビューで何度も確認してからアップロードボタンをポチッとクリック。神薙プロデュース計画は実にあっさりと幕を開けた。
「よし、ひとまず形になったな」
女子たちにメールを一斉送信して、ブログのアドレスを知らせる。
メールを送ってわずか数分後、依恋が電話してきた。
「あたしの写真、なかなか可愛いじゃない!」
「はいはい。他になんか要望とかあるか?」
「ちゃんと宣伝してよ。それだけ」
「……宣伝か。考えてなかったな」
神薙紗津姫、とキーワード検索した人がやがてブログを見つけてくれると計算していたのだが、それだけに頼るのは疑問手だなと思った。
「インターネット戦略の第一歩は宣伝よ! なんだったらあたしが広告費、出してあげてもいいし」
「学生のブログでそんなことできるか!」
「遠慮しなくていいのに」
よっぽどこのブログを通じて自分をアピールしたいらしい。このやる気の半分だけでも紗津姫にあればと思わずにはいられなかった。
間を空けずに金子からの着信が来た。
「ブログ見ましたよ! なかなかいい出来じゃないですか」
「普通の感想がありがたいよ。でさ、ちゃんと宣伝してくれって依恋から頼まれたんだけど、どうすりゃいいかな」
「そりゃあ、先輩や碧山さんのセクシーショットをバンバン載せれば」
「……個人的には見たいけど、それ以外で」
「冗談ですって。まあ普通にアンテナサイトに登録すればいいんじゃないですかね。将棋のブログだけを集めたやつとか」
「なるほど、その手があったな」
「ところで私もブログに載せたいものがあるんですよー。『将棋とBL』ってテーマの論文なんですが」
「却下だ!」
「そうですか……。残念です」
「……今のは冗談じゃなかったのか」
「私はBLに関してはいつでも本気ですよ?」
脱力しながら携帯を切った。
気を取り直し、来是は「将棋アンテナ 棒銀さん」への登録作業を済ませる。プロ棋士、一般の将棋ファンを問わず、あらゆる将棋ブログの新着情報を配信しているサイトで、来是も普段から情報収集に役立てているが、まさか運営者側の立場になるとは思っていなかった。
依恋言うところのインターネット戦略、その第一歩はこれで完了した。あとはアクセスが集まってくれるのを祈るだけだ。
夕食を取り、風呂から上がると紗津姫からメールが来ていた。
『とっても素敵なブログですね! 無理をしないよう、マイペースで更新していってください。』
短い中に優しさが滲み出る文面だった。
ミスコンに出てもらいたいという真意は隠したままで、申し訳なくも思う。しかし彼女には、自身に秘められた可能性を発見し、開花させてほしい……。
もっとも、一番重要なのは自分の棋力を向上させることだ。来是は気合を頭脳に集中し、先日図書館で借りた詰将棋本に取り組みはじめた。
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