本連載を初めてお読みになる方は<孫子の投資法その1>を先にご覧ください。 http://okuchika.net/?eid=4482


■ビジネス(投資)は「数字を使ったアート」である

◎戦争には<五つの大切なこと>がある。

1)物差しで測る:戦場の大きさなどを知ることにより、投入すべき物資の量がわかる。
2)マスで計る:投入すべき物資の量を知ることにより投入すべき兵員の数という数がわかる。
3)数えること:兵員の数を知ることによって敵味方の能力をはかる称がわかる。
4)勝敗を考える:称を知ることによって、勝敗を考えることが出来る。
5)勝:勝敗を考える。

 長年投資やビジネスに関わってきて感じるのは、「投資(ビジネス)は<数字を使ったアートである>」ということです。

 投資やビジネスに<数字>というものが必要不可欠であることはすでに多くの方が理解されているでしょう。バフェットも「会計はビジネスの共通言語だ」と繰り返し述べていますし、「バフェットからの手紙」でも毎年のように会計の数字の話に触れています。

 まさにバフェットは、「会計」というマスやものさしを使って会社(物資・兵員など)、さらには各種経済指標・データを使って経済(戦場)を計測している というわけです。ただし、(米国の)会計ルール(システム)は完全なものでは無いので、企業の「本当の価値=本質的価値」を計測するために独自の基準を用 います。この作業はかなり困難であり、バフェット率いるバークシャー・ハサウエィの本質的価値についてでさえ、副会長のチャーリーマンガ―とバフェットは 違った計算結果になると「バフェットからの手紙」で述べています。

 つまり孫子が述べる1)~3)の「数字」は重要なものだが、それがすべてではないということです。実際、特定の指標や数値に合致する企業をスクリーニングして選び出すような作業は無意味だと述べています。

 企業は「法人」という名前が示すように、法律上人間と同等の価値を持つものとされ、その性質も人間に非常に近いものです。人間の評価において、身長・体 重・試験の成績・学歴などは大いに参考になるかもしれませんが、実際にその人物に会って話をしたり、考えを聞いたり、普段の行動を観察することの方がはる かに重要なはずです。

 したがって企業=法人の評価においても、実際に経営者や従業員の考えを聞いたり、普段の行動を観察することの方がはるかに重要であるということになります。

 実際バフェットが行う企業評価においても、決算書・報告書等には丁寧には目を通すものの単なるデータを読み取っているのではありません。その企業のカラー(社風)、ビジョン、理念、将来性をそのような資料の行間を読みながら推察しているのです。


■決断をするのは「感情=感性」である

 結局、データをいくら積み上げても「決断」することはできません。データが示すのはあくまで可能性や確率であって、可能性や確率そのものが決断することができないのは明らかです。その可能性・確率に基づいて「判断・決断」するのは人間の「感性=感情」なのです。

 データに強い上に頭脳明晰ないわゆるエリート、学者、評論家などの判断・決断が必ずしも正しくないのは、「判断・決断」に重要なのが「感性」であることの一つの証明です。

 また、企業の将来を決めるのもビジネスにおける一つ一つの「判断・決断」ですから、企業の将来性を評価するときに重要なのが、単なる数字では無く「企業の感性=社風」であるということも明らかです。

 しかし、ただ「感性・感情」に流されるままに「判断・決断」を続ければ良いというわけではありません。

 バフェットの師匠であるグレアムがミスターマーケット(マーケット君)と名付けるような、市場の感情の嵐にあたふたしているようではどうしようもありません。

 そこでクローズアップされるのが、孫子が3)で述べている「称」という言葉です。数字や情報を徹底的に分析することによって、「称」というものが身に付 きます。その「称」によって4)や5)の「判断・決断」を行うわけですが、これこそが「データに基づいた、流されない感性・感情」なのです。

 つまり、言葉を変えれば「ビジネス(投資)は数字を使ったアート」であるということなのです。

(大原浩)

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(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)