本連載を初めてお読みになる方は<孫子の投資法その1>を先にご覧くださ
い。 http://okuchika.net/?eid=4482
■最高の仕事は何もしていないよう見える
◎最高に戦いが上手な人は、世間の人々が、戦の兆候をまだ察知していない初期の段階に問題を解決してしまう。だから、目立たないし兵士を無駄に死なせた り、余分な戦費を使うことも無い。大きな戦いになってしまい、世間の人々が、戦に勝ったのは立派だとほめるようでは最高の勝ち方では無い。つまり、目に見 えない無形の勝ち方をしなければならないのだ。
<孫子>と<老子>は、同じことを別の角度から説明しているということができるでしょう。表現の方法は違っても、根本的な哲学や思想はほぼ同じ土台に立っているといえます。
典型的なのが、この<その3>でしょう。実は、<最高の仕事は何もしていないよう見える>というタイトルは、<老子11>を中心に<老子10、15、63>などとも大いに関連する内容なのです(<老子>の詳しい内容については拙著「The Roshi―老子八十一章・乱世を勝ち抜くための【決断】の書―」(昇龍社、アマゾン・キンドル版)などをご参照ください。
例えば、ゴルフの初心者のことを考えてみましょう。ボールが思った通りに飛ばず、あっちに行ったりこっちに行ったりしながらジグザグにコースを歩く(走る?)ので、ワンラウンドが終わるころにはへとへとになります。
ところが、シングルプレーやプロはほぼ狙ったところにボールを落とすことができますから、歩く距離も必要最小限です。ですから、1日に何ラウンドもまわることができます。
また、バフェットは「問題を解決するよりも、それを避ける方がはるかに簡単だ」と言います。
例えば、テレビ番組で「危機を脱出した素晴らしい経営者」のことがよく取り上げられます。確かに、危機から脱出できずに倒産してしまうよりは、脱出した 方が良いに決まっています。しかし、そもそも「危機」を起してしまったからこそ、そのように労力と時間を費やす「脱出」のための努力をしなければならない のです。
ゴルフの例でいえば、一度もOBを出さずに(池ポチャもせず、バンカーにも入れず)アンダーパーで回るのが<最高の仕事は何もしていないように見える> ということであり、ミスショットのおかげでバンカーのど真ん中に刺さったボールを一打でリカバリーするのが<素晴らしい危機からの脱出>ということです。 繰り返しますが、素晴らしいリカバリーショットを披露するよりも、最初からバンカーに入れないことの方がはるかに大事なのです。
最初から「危機」を起さないようにすることこそが<最高の仕事>であり、起こってしまった「危機」を解決するのは次善の策にしか過ぎないというのが<孫子>や<老子>が述べることです。
バフェットの投資も<最高の仕事は何もしていないように見える>の代表例でしょう。最初のドライバーショット(最初の投資)が思った方向に行けば、ただ ボール(投資)の行方を見守れば良いだけです。思った方向に飛ばないプレイヤー(投資家)だけが、何回もボールを打つ(売買をする)必要があるというわけ です。もちろんアイアンショットでもパターでも全く同じことです。
ただ、注意しなければならないのは、1日にしてシングルプレイーヤーになれないのと同じように、投資家の方々も1日でバフェットにはなれません。
傍から見ると、バフェットは<ほとんど何もしていない>ように見えるようですが、そんなことはありません。ショットを打つ(投資を始める)前には投資対 象や世界・米国経済の研究を徹底的に行っている(朝起きてから夜寝るまで、バフェットの投資対象の研究に費やす時間は膨大で、しかもそれを70年以上続け ているのです・・・)からこそショット(投資)が正しい方向に進み、後はボール(投資)の行方を眺めているだけで良いのです。
つまりゴルファーが、ドライバーショットを打ってから「ボールに念力をかけて方向を変えようとしたり、あれこれ思い悩んでも意味が無い」のです。練習に しろメンタルトレーニングにしろ「ゴルファー(投資家)はボールを打つ前(投資を始める前)にすべてのことを終えてしまわなければならない」ということで す。
ところが投資の世界ではショットを打って(投資を始めて)からあたふたする方々がたくさんいます。打ってしまったゴルフボールをどうしようもできないの と同じで、始めてしまった投資は後でどうしようもありません。もし、ミスショット(投資の間違い)をしてしまったら、着地点から冷静に打ち直す(投資をや り直す)しかありません。
もちろん、ゴルフのレッスンビデオを見るだけでシングルプレイヤーになれないのと同じで、投資にもある程度の実践が必要です。ただし、ゲームオーバーに なってしまわないように、過度な危険(例えば先物などのレバレッジを効かせる)を抱え込まないことと<最高の仕事は何もしていないように見える>というこ とを常に頭に入れておくことが不可欠です。
結局ゴルフはボールを打つ回数が少ない人ほど上手ですし、投資もバフェットのように売買の回数が少ない投資家の方が優秀なのです。
(大原浩)
★週刊ダイヤモンド11月17日発売号で、筆者の「バフェット」に関する記事が掲載されます。
★<バフェット流で読み解くGINZAX30社!>-厳選・優良企業GINZAXグローバル経済投資研究会<昇龍社・アマゾンキンドル版>が発刊されました。
本書では、毎月開催されているGINZAX・銀座セミナーなどで取りあげた企業の中から、30社を厳選しています。「競争戦略」に優れた企業の中から選ぶわけですが、具体的な選定に当たっては次のことを心がけています。
1)同じ実力を持った企業が複数あれば、2014年版で紹介されていない企業を優先して選ぶ。これは、より多くの優良企業を紹介するための基準です。
2)選出する企業のビジネスモデルは、できるだけ多様になるようにする。また、非常に似通ったビジネスモデルの企業が複数ある場合は、その中から1社のみを選ぶ。これは、より多くの優れたビジネスモデルを紹介するための基準です。
3)基本的には「長期・安定的」に成長すると考えられる企業を選択するが、「長期・安定的な成長」についてはやや不透明ながらも、革新的なビジネスモデルで「チャレンジ」を行っている企業も数社含める。これは、次世代をリードするような企業も網羅するための試みです。
★今回からの新しい試みとして、巻末で2社の有望な米国企業に言及しています。
(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)
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■最高の仕事は何もしていないよう見える
◎最高に戦いが上手な人は、世間の人々が、戦の兆候をまだ察知していない初期の段階に問題を解決してしまう。だから、目立たないし兵士を無駄に死なせた り、余分な戦費を使うことも無い。大きな戦いになってしまい、世間の人々が、戦に勝ったのは立派だとほめるようでは最高の勝ち方では無い。つまり、目に見 えない無形の勝ち方をしなければならないのだ。
<孫子>と<老子>は、同じことを別の角度から説明しているということができるでしょう。表現の方法は違っても、根本的な哲学や思想はほぼ同じ土台に立っているといえます。
典型的なのが、この<その3>でしょう。実は、<最高の仕事は何もしていないよう見える>というタイトルは、<老子11>を中心に<老子10、15、63>などとも大いに関連する内容なのです(<老子>の詳しい内容については拙著「The Roshi―老子八十一章・乱世を勝ち抜くための【決断】の書―」(昇龍社、アマゾン・キンドル版)などをご参照ください。
例えば、ゴルフの初心者のことを考えてみましょう。ボールが思った通りに飛ばず、あっちに行ったりこっちに行ったりしながらジグザグにコースを歩く(走る?)ので、ワンラウンドが終わるころにはへとへとになります。
ところが、シングルプレーやプロはほぼ狙ったところにボールを落とすことができますから、歩く距離も必要最小限です。ですから、1日に何ラウンドもまわることができます。
また、バフェットは「問題を解決するよりも、それを避ける方がはるかに簡単だ」と言います。
例えば、テレビ番組で「危機を脱出した素晴らしい経営者」のことがよく取り上げられます。確かに、危機から脱出できずに倒産してしまうよりは、脱出した 方が良いに決まっています。しかし、そもそも「危機」を起してしまったからこそ、そのように労力と時間を費やす「脱出」のための努力をしなければならない のです。
ゴルフの例でいえば、一度もOBを出さずに(池ポチャもせず、バンカーにも入れず)アンダーパーで回るのが<最高の仕事は何もしていないように見える> ということであり、ミスショットのおかげでバンカーのど真ん中に刺さったボールを一打でリカバリーするのが<素晴らしい危機からの脱出>ということです。 繰り返しますが、素晴らしいリカバリーショットを披露するよりも、最初からバンカーに入れないことの方がはるかに大事なのです。
最初から「危機」を起さないようにすることこそが<最高の仕事>であり、起こってしまった「危機」を解決するのは次善の策にしか過ぎないというのが<孫子>や<老子>が述べることです。
バフェットの投資も<最高の仕事は何もしていないように見える>の代表例でしょう。最初のドライバーショット(最初の投資)が思った方向に行けば、ただ ボール(投資)の行方を見守れば良いだけです。思った方向に飛ばないプレイヤー(投資家)だけが、何回もボールを打つ(売買をする)必要があるというわけ です。もちろんアイアンショットでもパターでも全く同じことです。
ただ、注意しなければならないのは、1日にしてシングルプレイーヤーになれないのと同じように、投資家の方々も1日でバフェットにはなれません。
傍から見ると、バフェットは<ほとんど何もしていない>ように見えるようですが、そんなことはありません。ショットを打つ(投資を始める)前には投資対 象や世界・米国経済の研究を徹底的に行っている(朝起きてから夜寝るまで、バフェットの投資対象の研究に費やす時間は膨大で、しかもそれを70年以上続け ているのです・・・)からこそショット(投資)が正しい方向に進み、後はボール(投資)の行方を眺めているだけで良いのです。
つまりゴルファーが、ドライバーショットを打ってから「ボールに念力をかけて方向を変えようとしたり、あれこれ思い悩んでも意味が無い」のです。練習に しろメンタルトレーニングにしろ「ゴルファー(投資家)はボールを打つ前(投資を始める前)にすべてのことを終えてしまわなければならない」ということで す。
ところが投資の世界ではショットを打って(投資を始めて)からあたふたする方々がたくさんいます。打ってしまったゴルフボールをどうしようもできないの と同じで、始めてしまった投資は後でどうしようもありません。もし、ミスショット(投資の間違い)をしてしまったら、着地点から冷静に打ち直す(投資をや り直す)しかありません。
もちろん、ゴルフのレッスンビデオを見るだけでシングルプレイヤーになれないのと同じで、投資にもある程度の実践が必要です。ただし、ゲームオーバーに なってしまわないように、過度な危険(例えば先物などのレバレッジを効かせる)を抱え込まないことと<最高の仕事は何もしていないように見える>というこ とを常に頭に入れておくことが不可欠です。
結局ゴルフはボールを打つ回数が少ない人ほど上手ですし、投資もバフェットのように売買の回数が少ない投資家の方が優秀なのです。
(大原浩)
★週刊ダイヤモンド11月17日発売号で、筆者の「バフェット」に関する記事が掲載されます。
★<バフェット流で読み解くGINZAX30社!>-厳選・優良企業GINZAXグローバル経済投資研究会<昇龍社・アマゾンキンドル版>が発刊されました。
本書では、毎月開催されているGINZAX・銀座セミナーなどで取りあげた企業の中から、30社を厳選しています。「競争戦略」に優れた企業の中から選ぶわけですが、具体的な選定に当たっては次のことを心がけています。
1)同じ実力を持った企業が複数あれば、2014年版で紹介されていない企業を優先して選ぶ。これは、より多くの優良企業を紹介するための基準です。
2)選出する企業のビジネスモデルは、できるだけ多様になるようにする。また、非常に似通ったビジネスモデルの企業が複数ある場合は、その中から1社のみを選ぶ。これは、より多くの優れたビジネスモデルを紹介するための基準です。
3)基本的には「長期・安定的」に成長すると考えられる企業を選択するが、「長期・安定的な成長」についてはやや不透明ながらも、革新的なビジネスモデルで「チャレンジ」を行っている企業も数社含める。これは、次世代をリードするような企業も網羅するための試みです。
★今回からの新しい試みとして、巻末で2社の有望な米国企業に言及しています。
(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)
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