100年前の8月にドイツは第一次世界大戦に参戦、その後4年間の長い戦争に敗戦しました。金兌換一時停止を発表した米国のニクソンショックは8月15日。最近では、金融危機の始まりになったパリバショックも8月でした。
ウクライナや中東での軍事衝突リスク、ロシア制裁による欧米対ロシアの対立を懸念する地政学的リスクの高まりを世界大戦100年目と重ねるのは無理があるかもしれませんが、資金逃避は現状に対する不安から起こっているのではないかと思います。
そんな中で、米国を中心に欧州の長期債利回りの低下が顕著になっています。
米国債に資金が集まる傾向は、世界で不確実性が高まると起こります。市場で最も流動性が高いとされ、質への逃避で世界の資金は米国債へ傾きます。金融政 策の行方とか、経済指標の良し悪しによる相場の方向性とは関係なく、今回のケースも質への逃避という要素による買いが大きいと思われます。
先週末、ウクライナ発のきな臭いニュースが伝わると、米国債10年物の利回りは一時2.34%まで急落しました。過去3か月間の平均利回りが2.52%、ほとんどの取引が2.45%~2.6%のレンジ内でしたので、このレンジを破った動きは驚きでした。
さらに米国債の利回り低下には、ドイツ国債の利回り急落も影響しているでしょう。
先週発表された8月のドイツ景況感指数の期待値は予想の17を下回り8.6と前月の27.1からも大きく低下しました。低迷する欧州経済の中での独り勝 ちをしてきたドイツの景気に陰りが出てきたことから、ドイツ国債10年物は大きな節目だった1%を割り込んで、一時0.95%をつけました。また、ドイツ 2年物国債の利回りは既にマイナスになっており、欧州債務危機の際に資金がドイツに集まった時以来の水準になっています。
ドイツ国債利回りが下がれば、米国債の利回りは比較して魅力的ですので、更に米国債が買われるという一面もあります。
欧州では、景気低迷と物価下落のディスインフレ、今後可能性が出てくる欧州中央銀行による量的緩和による更なる金融緩和政策を材料に、ユーロ売りが先行 しています。ウクライナ問題はそれに上塗りした格好です。今週初には、大量の売りポジションの増加による買戻し調整で、ユーロvs米ドルは、一時1.34 台を付ける場面がありましたが、直近では先週の安値を割り込み、1.33割れ寸前まで下落しています。
前回の欧州中央銀行の理事会後の記者会見で、ドラギ総裁から「ユーロ安方向」への誘導を匂わせるコメントがありました。輸出による景気刺激が欲しい欧州 各国、とりわけドイツは外需主導で勝っている国ですので、通貨安は願ったり状態でしょうから、欧州内からのユーロ安不満は出てこないはずです。ドイツの巨 額な経常黒字という視点から見ると、ユーロ安は違和感もありますが、当面はユーロの下落リスクに注意が必要だと思っています。
地政学リスクを意識したマーケットでのドル・円相場の底堅さについては、前回記しましたが、ドル円相場がジワジワと下値を切り上げて、今年の4月以来、久しぶりに103円台に乗せてきました。
背景として考えられるのは、市場でのドル高基調、日本の貿易赤字の累積、経常収支の黒字縮小などのファンダメンタルですが、材料と考えられるのは、日本 の株式相場と同様、公的年金基金の運用見直しが意識されているのではないかと思います。9月末をめどに行われている公的年金運用見直しは額が膨大なだけに 数パーセントの見直しでも大きな影響があります。9月も目前ですので、見直し議論の展開を見ていきたいところです。
さて、7月末から直近までの主要通貨のパフォーマンスを見てみましょう。
上昇トップはノルウエイ・クローネの1.96%、2位にはメキシコ・ペソの1.3%が入っています。メキシコは最近成立したエネルギー改革法案や外資の進出などを好感して買われています。
一方で、下落通貨のトップは英国ポンドのマイナス1.59%です。利上げ期待が強かったものの、中銀総裁発言で利上げは近くないとの見方が強まり、失望 売りとなりました。ただ、経済は欧州に比較して強いという見方は変わりないので、近い将来に利上げ期待は再浮上するものと思います。余談になりますが、ス コットランドの英国からの独立投票結果についても注目しておきたいと思います。
その他、今年になって、複数回の利上げを決行したニュージーランド・ドルは、当面の利上げの打ち止めを決め、加えて政府が経済見通しを下方修正するなど 相場は頭うちになっています。好金利で魅力的ではありますが、上昇トレンドから一旦外れているので底打ちを見ながら付き合った方がよさそうです。
中国人民元の上昇が続いています。対円では、16円30銭中心の動きから直近では16円70銭台までの上昇、対ドルでも年初に一時つけた6.30台か ら、直近では6.14台まで戻し、人民元高となっています。利回りも魅力的であることから、中国本土外で発行される人民元建て債券である点心債の需要が高 まっていると聞きます。
厳しい残暑が続いていますが、暦の上では秋。秋以降を意識した動きも徐々に現われてくる頃です。
今秋は、米国の量的緩和終了後の金融政策の行方、日本の公的年金基金運用改革、消費税の再引き上げを決める材料も出揃ってくるでしょう。また、欧州の金 融緩和政策の行方や欧州の銀行のストレステストの結果も出て来る予定もあります。今後の相場の流れを形作る材料が続々です。体力を貯えて、流れに備えてお きたいところです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
残暑には、引き続きお気をつけてお過ごし下さい。
*8月20日13時執筆
本号の情報は8月19日のニューヨーク市場終値レベルを基本的に引用、記載内容および拙見解は参考情報として記しています。
式町 みどり拝
(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)
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