本日もこれまでに引き続き、富裕層向けの金融サービス、プライベートバンクについて解説したいと思います。
2013年1月29日に閣議決定をされた税制改正大綱は、富裕層の方々、あるいは富裕層向けのビジネスをされている方々の間でとても話題になりました。
これまで住民税合わせて50%だった所得税の最高税率は、55%にまで引き上げられ、また、相続税(贈与税)の最高税率も50%から55%に引き上げられているのですから当然でしょう。
日本の富裕層はまず税金に関して大きな悩みを抱えているといえます。そして、税金以外にも、日本の富裕層の構成は年配の事業オーナーの方が多く、所有する事業の承継等に関する困りごともよく耳に致します。
しかし残念なことに、このような富裕層の悩みを解決するべき国内の金融機関の競争力、サービスレベルは決して国際的に高いという評価は受けていません。
本日は日本の富裕層の課題や悩み、そして求められる金融機関やサービスについてまとめてみたいと思います。
◯国内富裕層が抱える悩みと課題
国内富裕層は多くの悩みを抱えています。そして、その悩みは「税金など富裕層全般が持つ悩み」と、「日本経済の縮小や事業承継など法人オーナーが持つ悩み」に大別できます。
国内富裕層の特徴なのですが、富裕層の方の大半が戦後に自ら事業を興された方、あるいはその後継者たる事業オーナーの方々だからです。
さて、富裕層の方々全般の悩みですが、他国に比べて相対的に高い税率が一番の悩みではないでしょうか。所得税、相続税、贈与税の最高税率が50%から55%に上がることに頭を悩ませている方も多いと思われます。
また、法人オーナーとしての富裕層の側面に注目すると、人口減少等による日本経済の長期的な縮小の可能性や次世代への富の承継が大きなテーマとなっています。
日本経済の縮小問題への対応というと、海外への進出なども必要です。金融機関に限らないにしても、事業を支援してくれて、頼もしいサポーターの存在は常に求められていると言えるでしょう。
また次世代への承継には、一族の事業の継続というテーマの他に、国内中心の財産のリスクをどう分散させるのかという課題も含まれます。相続人によって は、1銘柄で数十億円分の資産を承継される方もいらっしゃるため、数億円単位で資産が上下するリスクに常にさらされています。
このような富裕層の持つ課題に対応するためにも、国際的な税務への対応力や高いビジネス感度、豊富な経験とノウハウを持った人材の供給が求められています。
◯国内金融機関の富裕層向け業務の課題
では、多くの悩みをもつ富裕層に対して、金融機関の富裕層向けサービスはどのような状況にあるのでしょうか。
残念ながら国際的に見ても悩みの多い富裕層に対し、金融機関の評価は諸外国と比べ決して高いとは言えません。
主な理由としては、以下の4点が考えられます。
1)顧客ではなく、販売側に立った営業体制
日本の金融商品販売の特徴は、顧客に対して金融商品を販売する(あるいは売却させる)際の売買手数料をメインとすることです。一方海外のプライベートバンクやフィナンシャルプランナーは、売買単位の収益ではなく、預かり資産の残高から手数料を受け取っています。
このため、どうしても金融機関側は自社にメリットのある(手数料率の高い)金融商品を販売することや、顧客にとって本来不要な売り買いの繰り返しを行うインセンティブが生じてしまいます。
その結果、海外と比較して圧倒的に手数料が高い日本の投資信託の販売に、銀行業界や証券業界で積極的に取り組まれてきました。金融庁や各金融機関内で も、半年や1年以内の短期売却や乗換勧誘に対して規制や監視体制を強化してきましたが、日本の投信の乗り換えの速さは海外の投信運用会社でも非常に有名で す。このような状態では、顧客のパフォーマンスが上がらないだけでなく、顧客の不信感さえ増幅させてしまうかもしれません。
2)総合的な金融サービスの不在
このテーマは1)と関わりが深いかもしれません。
自社にメリットの大きい金融商品の販売等へのインセンティブがつくことや、金融機関・担当者ごとの専門領域の違いもあり、顧客の目的を達成するための全体最適ではなく部分最適に走りがちになってしまいます。
例えば、事業承継というテーマで顧客にソリューションを提供する際に、銀行業界であれば最終的にローンの提案に持っていこうとするでしょうし、保険業界であれば最終的に保険の提案に落とし込もうとするのが現状です。
海外であればプライベートバンクが総合的な金融サービスを提供していますが、日本で金融各社がプライベートバンクに力を入れ始めたのは、この数年であ り、まだまだ機能が充実しているとはいい難い状況です。結果として、総合的な金融サービスを提供できている金融サービスは多くはありません。
3)顧客の求めるグローバルニーズへの対応の遅れ
経済がグローバル化し日本企業が海外進出を加速させている一方で、日本の税制の高さは海外からみても突出し出しています。このような状況下において、顧 客に対して、グローバルなタックスヘイブンやリスク分散等を活用した提案を行うことが求められています。しかしそのためには、金融機関及び担当者には、そ のようなソリューション提供に対応できる能力や人脈が求められます。
また、直接金融に関わらない分野でも、顧客の所有する事業が海外展開を行っており、金融機関がその分野での支援や相談を求められる事も度々です。
しかし残念なことに、顧客のそのようなグローバルニーズへの対応は遅れてしまっていると言われています。
4)短期人事ローテーションが人材育成を阻害
日本の金融機関は、ジェネラリストの育成や担当者と顧客の癒着がもたらす金融事故の防止という観点から、数年に1度という短期での人事ローテーションを行います。もちろんこのことには意味も必要性もあるのでしょうが、顧客となる富裕層側に不満やストレスも与えています。
まず、両者の間柄が深まったとしても、直ぐに担当者が変わってしまうことになります。さらに顧客側はその都度自らの状況を説明し、相手に理解して貰う所から始めなければなりません。また、新たな担当者が前の担当者と同等以上に優秀である保障も無いのです。
また、担当者は自分の在任期間だけで評価されるため、顧客に対して時には無理な提案をすることもあるかもしれません。顧客からの信頼が失われたとして も、数年立てばその担当者は次の部署に転勤しますので、そこには新しい顧客が待っていることになります。このような状況下で、顧客を蔑ろにする担当者が出 てくることは不思議ではありません。
なお、この転勤制度は金融機関側に取っても担当者が充分な専門知識と経験を蓄えることも阻害しています。
◯今後求められる金融機関のサービスとは?
では現状を改善するべく、今後富裕層に求められる金融サービスとはどのようなものなのでしょうか。
ここで押さえておくべきは、国内富裕層の半数以上が何らかの法人オーナーであり、残りの富裕層もその家族等が大多数ということです。
これまでの伝統的な富裕層向けのサービスでは、金融資産や不動産など事業の結果生み出された富に対してのマネジメントが中心でした。しかし、法人オーナーの方々の一番の望みは、本業の継続的な成功です。
そして金融機関側も、企業価値を高めるような資金調達や投資についてのサポートなどのコーポレートファイナンスや、事業を支えるファミリーの結束や学習の質を高めるためのサポートなどを行うリソースは持っています。
金融機関側が国内富裕層のニーズに真摯に応えビジネスを展開するのであれば、新たに誕生するサービスは国内だけでなく、アジアの国々等の新興富裕層にとっても望ましいものとなり得え、金融業界の海外展開の可能性が広がります。
今後の可能性もあるだけに、頑張って欲しい所ですね。
冨田和成
株式会社ZUU 代表取締役社長兼CEO
冨田和成プロフィール
(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)
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