株式会社ZUUの冨田和成です。
前回、『閉じ込められる個人金融資産1500兆円』という記事を書き、どのような仕組みで我々日本人の資産が閉じ込められていくかについて説明しました。今回は日本の富裕層の動向と絡めて同じテーマに触れていきたいと思います。
この二年間で、日本の超富裕層(上場企業創業者や大株主等)を担当するプライベートバンカー達から急激に増えた相談は、顧客である創業者の皆様が海外移 住・海外への資産逃避(これを金融業界では“キャピタルフライト”と呼ぶ)を検討しているというものです。特にこれは40代の比較的、若い創業者達の中に 多い現象です。
なぜなら、この世代の方々は、その更に上の世代の方々(50代以上)と比較すると、日本を離れるということに違和感や抵抗が非常に少ない世代だからです。だからこそ、日本にいるメリットがどんどん少なくなっていく昨今、移住の検討を真剣に始めているのでしょう。
今の20代や30代にとって身近であり、また目標とする40代の成功した経営者達が一気に日本から流出すると、それを見た次の世代もおそらく同じような 行動を取ることになるのではないでしょうか。もしかすると、日本人も海外に住むことが自然な選択肢の一つとなる時代が近いのかもしれません。そうなった場 合、人材の流出と共に国内資産の海外流出という点も大きな問題となります。
そして、日本がこの資産の流出を食い止める方法は2つあると考えられます。
1.富裕層や経営者が妥協できる税制にすること
ご存知の人も多いでしょうが、特に日本の法人税・相続税・所得税は海外から見ても逸脱しています。これから減税方向にはありますが、法人税に関しては日 本が40%を超える中で、香港は16%、シンガポールは17%、台湾20%、韓国24%、中国・マレーシア・インドネシア25%など近隣のアジア諸国と比 べて圧倒的な差があります。
(余談ですが、シンガポールや香港、タイでは更なる税制優遇を与えられる企業が多いのはもちろんのこと、韓国でも例えば輸出に貢献する大企業には優遇措置 があります。実質的な税率は15%前後だと言われており、ヒュンダイやサムスンがこれに当ります。日本メーカーが韓国勢を相手に苦戦するのも当然にも思え てしまいますね。)
投資関連税制に関しても、シンガポールでは非課税が基本である一方で、日本ではキャピタルゲイン20%、インカムゲイン20%(各々、2013年度まで 軽減税率で10%)“も”課税されます。更に言えば、相続税が存在するのはアジアでは日本を除くと韓国くらいで、中国・タイ・シンガポール・インド・マ レーシア・インドネシアのどこを探しても相続税、ましてや贈与税すら存在しません。
このような“異常な”税制に対して国民、特に富裕層や経営者が不満を持つのは当然でしょう。そして、近くに魅力的な税制の国がこれだけ存在するのですから、そこへ移住したいと考えるのも当然ではないでしょうか。
今の日本の税制をいきなり魅力的な水準にまで引き下げることは難しいかもしれません。しかし、少なくとも日本国民が妥協できる水準にまでに調整することができれば、日本に留まるインセンティブが生まれると思います。
2.中国やタイ等の新興国でよく見られる厳しい外為規制を導入すること
これは、完全にガラパゴスを加速させ、ある意味“鎖国”とも言えよう政策ですが、海外送金等に厳しい報告義務を課すといった選択肢もあり得ます。
例えば、タイでは(最近は緩和されてきましたが)長らく厳しい外為規制が存在し、タイバーツの持ち出しや外貨への交換は厳しく監視されてきました。
銀行は一定金額以上の両替を全て報告する必要があり、資金使途を全て説明する必要があったのです。法人ですら外貨決済が難しくタイバーツでの決済を余儀なくされ、他国とのビジネス競争において不利な状態に置かれていました。
ちなみに、タイでは2008年に外為規制はかなり緩和されました。しかし、今でもタイバーツから国外に投資した場合、以下のような多くのルールを守る必要があります。
・投資はバーツで始めなければならず、投資が終わるとバーツで投資家に投資額を戻すことになる。
・投資家は外貨資産を国外の別の口座に移すことは出来ない。
・投資家は海外に投資する際には証券会社を使わなければならない。
・投資家は外株などを売却して得た外貨の80%以上を売却後90日以内に再投資しなければならない。もしそうでない場合は、資金をタイに戻し、バーツに換えなければならない。
・送金額は一回につき50万米ドル(資産額10億バーツ以上の法人は一回につき500万米ドル)を上限とし、送金額の80%以上が使われないと次の送金は承認されない。
これはあくまでも例ですが、これと同じ原理で、そもそも日本円を外貨に換えることを規制し、また厳しく監視すれば自ずと国内から資産が流出することはなくなります。
(ただ、この場合、当然のように海外からの資金流入も急減するというリスクが存在しますが。)
☆☆☆
この二つを見比べてみると、誰がどう見ても、前者の方が良いのは明白でしょう。しかし、残念ながら後者を選択する可能性もあるのが今の日本政府です。
これに対して、「規制が厳しくなってからでは遅いですよ!」と煽るのが海外で資産逃避を斡旋するバンカーや仲介者の人達のやり方です。ただ、“ちゃんと”移住しないと最終的には日本の税制が適応されてしまうことを説明している人が少ないのが本当に残念です。
※宜しければ5月17日配信の「シンガポール移住の注意点」もお読みください。
ちなみに、日本の税制から逃れるには、海外に持家があり、年183日以上は海外で生活しており、日本には特定の住家はなく、例えば相続を受ける側の家族も海外にいて…などと細かい条件が必要です。
例えば、良く聞くエピソードで70歳までずっと海外にいたが人が、その後、病気で日本に帰ってきた場合でも、日本の相続税が適用されてしまいます。
色々書かせて頂きました。そんなに日本国民を困らせるのではなく、例えば米国が昨年法人税を35%から28%に引下げる政策を打ち出したように、税制面 等含めもっと海外からの投資を呼び込む仕組みになれば日本国債にも資金が流入して日本債券暴落説もなくなるだろうにと思うのです。
このような状況の中では、個人レベルでも経済や金融の知識やスキルを活用することがより重要視されていくのだろうと感じています。
※税制などに関しては、JETROさんなどのHPを参考にさせて頂いておりますが、変更されている可能性がありますので、実際に検討する際は、ご自身で専門家に確認されるようにお願い致します。
参考:JETROホームページ
冨田和成
株式会社ZUU 代表取締役社長兼CEO
冨田和成プロフィール
(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)
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