華やかなゲストが来てくれました。
10代の頃からタレント、グラビアアイドルとして活動する一方、個人投資家でもある杉原杏璃さんです。
23歳のとき、30万円ほどの貯金を元手に株式投資を始め、5年後には運用資産1000万円を達成し、投資歴17年で“億り人”に。
現在は『株は夢をかなえる道具』(祥伝社)や『マンガでよくわかる株1年生』(かんき出版)などの著書を出版、初心者にもわかりやすく投資術を伝えています。
また、2014年にはグラビアでの経験を活かしたソフト補正下着のブランドを立ち上げ、大手通販専門チャンネルで9年にわたりヒットするロングセラー商品に育てるなど、実業家としても活躍しています。
今回はそんな杉原さんに、前編で個人投資家としてのキャリアについて、後編では40代になった今感じている仕事と資産への考え方を、深掘りしてお話をうかがいました。
●切実に、収入を増やすために始めた株式投資
小屋「23歳、グラビアアイドルとして活躍の場を広げていった時期に株式投資を始めたきっかけはどういったものだったんですか?」
杉原杏璃さん(以下、杉原)「芸能活動をしていると一般の20代前半の方に比べて、企業の社長さん、役員さんといった方々とお食事をする機会も多くあるんですね。そういう場でご飯を食べながら皆さんのお話を聞いていると、必ず株式投資の話題が出ていました。私は、広島から上京してきたばかりで経済のことは何もわからないから、”素直に東京で成功している方々は皆、投資というものをやっているんだ””やらないとお金持ちにはなれないんだ”と思ったんですね。
それと同時に悔しい気持ちもありました。会話の端々に経済や政治の話が出ると、私はわからないなりに相づちを打っていたわけです。社長さんはこちらにも話題を振ってくださるんですが、そのとき必ず”わからないよね、ごめんね”って枕詞が付きました。前提として、”このニュース、知らないよね”と見られているんだって。たしかに知らないんですけど、やっぱり悔しいな……と思ったんですね。じゃあ、ちょっとでも彼らに近づくために、自分も株式投資を始めてみたらいいのかもしれない。そう考えたのがきっかけの1つです。」
小屋「企業の社長さんや役員さんに勧められたわけではなく、自主的に?」
杉原「そうですね。それともうひとつ大きな理由があって。単純に収入が安定していなかったんです。詳しくは本(『株は夢をかなえる道具』)にも書きましたが、写真集を出させていただいたり、雑誌のグラビアに登場させていただいたりしても、東京で一人暮らしをしていると、毎月のお給料は家賃や生活費で消えてしまいます。
広島時代から貯めていたお金はあったけれど、オーディションなどのスケジュールを優先しているとアルバイトもできません。だんだん貯金を切り崩す月が増えてきて、これは田舎に帰らなくちゃいけないかもしれない、という金銭的な危機感もあって。切実に、収入を増やすためのもう1つの柱を作らなくちゃいけない。それも家にいながらにしてできることで……。」
小屋「ちょうどネット証券が流行し始めたくらいですか?」
杉原「そうですね。2005年なので、ネット証券に口座を開けばいつでも株式投資ができるし、若かったから本当に単純で、やれば増えると思って始めたんです。100万円くらいあった貯金の中から30万円を証券口座に入れて、何を買えばいいのかよくわからなかったので大好きな野球に関連する銘柄を選びました。当時は上場していた東京ドームの株を買い、1カ月後に株価を見て、1万円くらい上がっていると利益確定して、また新しい株を買って。最初の年の利益は年間で十数万円くらいだったと思います。」
●投資を始めて3年目にリーマン・ショックに遭遇
小屋「杉原さんが株を始めた2005年からしばらくは株価が好調な時期でしたね。」
杉原「最初に上がる経験ができたのはラッキーでした。」
小屋「その頃はどれくらいの資産になったらいいなと思っていましたか?」
杉原「始めた当初は生活費が賄えたらうれしいから、月に20万円利益が出たら最高だなと思っていました。それだけあれば家賃も払えるし、生活もできるし、不安じゃない。本当に目先のお金だけを考えていたんですよね。それが変わってきたのは、リーマン・ショックがあけて5年くらいたってから。もっと長期的に見て投資をしていく野心みたいなものが芽生えてきました。」
小屋「リーマン・ショックの影響はどうでしたか?」
杉原「独学で株を始めて3年でリーマン・ショックだったので、何もするすべを持たず、でした。持っていたのは日本株ばかりでしたけど。半分近くは下がった記憶があります。」
小屋「海外株よりは下がらなかったですけど、日本株も全体的に30~40%の下落でした。」
杉原「今もそうですが、現物取引しかしていなかったこと、始めたばかりで投資額が大金ではなかったのが救いだったかなと思います。でも何か対策ができたわけではなく、ただただ、塩漬けにして2、3年待ちました。というか、すべがなかったので、待つというより放置という言い方が正しいですね。」
小屋「メンタル的にめげませんでしたか?僕もアドバイスする側として、個人で株式投資をしている方には”パニックになって売っちゃうのはダメですよ”と話しますが、初心者の方の多くは怖くなって売ってしまい、損が出て、”もう株はやらない”という結論になることも少なくありません。
杉原「逆に投資歴が18年になった今のほうが、リーマン級のことが起きたとき、狼狽売りをしてしまうかもしれないですね(笑)。投資の怖さも見聞きして知ってしまっていますから。でも当時は前向きというか、楽観的というか、”アメリカで起こっていることの影響でしょう””だったら放っておけば戻るんじゃないかな”って。物を知らない20代の最強さ。それがいい方に出たのか、下がったものは塩漬けにしながら、新しく別の銘柄に投資していました。
小屋「新たに買っていったのは、どんな銘柄だったんですか?」
杉原「私はゲームが好きなので、それに関連する銘柄でした。当時はケータイゲームが一気に広まり始めた時期で、その後にアベノミクスも始まり、国内株が全般的に好調で。特に私が触っていた(取引対象にしていた)セクターは成長中だったので、大きく資産額も膨らんでいきました。」
小屋「ケータイゲームと言うと、グリーとかミクシィ?」
杉原「そうですね。あと、ガンホーとコロプラ、DeNA。あの辺は全部触ってきましたし、株価が上昇していく波にうまく乗ることができました。」
小屋「それは自分が好きで、関心のあるジャンルだったからですね。」
杉原「自分と同じ世代、ちょっと下の世代の子たちがちょうどケータイゲームにハマっていて、テレビゲームはお金がかかるけど、ケータイだと無料で遊べる。楽しく暇つぶしができる。その感覚はゲーム好きとして共感できましたし、確実にこれまでゲームをやらなかった層にも広がっていくインパクトのある出来事だと思えたんですね。」
●自分の失敗から得られる教訓こそ、最大の学び
小屋「新興銘柄はボラティリティ(株価の変動)も大きく、ダメなるときは急激にダメになってしまう銘柄もあります。その辺の見極めはどのようにしてきたんですか?」
杉原「ゲーム関連銘柄に関しては、アプリストアのランキングをよく見ていました。例えば、あるゲームがリリースされて、ダウンロード数が増え、ランキング入りし始めたら、買い。そして、ランキングの首位を取り始めたら、そろそろ引きどき。盛り上がっていく時期が株価も盛り上がっていく時期で、1位を取ったらそこからの上げはないなと判断していました。」
小屋「現実に起きている現象をベースにしていたんですね。」
杉原「そうです。どこどことコラボする、といったニュースも大事ですね。あとは他の銘柄にも共通してですが、私はファンダメンタルズを重視しています。企業の売上高や利益といった業績、資産、負債などの財務状況はある程度チェックしてから取引するようにしてきました。」
小屋「決算資料は読み込んでいるんですか?」
杉原「そこまではできないんですが、決算短信、IR情報、関連銘柄の動き、同業他社の業績との比較くらいはします。私は経済アナリストでもないし、専門家でもないので、本(『株は夢をかなえる道具』)にはあえてそこまで詳しく書きませんでした。お金持ちじゃなくても、私みたいな田舎から出てきた若い子でも株式投資はできるよ、杏璃ちゃんでもできるなら私も……という入口の存在でいたいんです。ただ、長く株式投資を続けていくにはやっぱり自分なりの勉強をして、やり方を作っていく必要があるとも思っています。」
小屋「投資の楽しさを伝えて、初心者向けに間口を広げる役割を担いつつも、そこは葛藤するところですよね。安直に始めて失敗してしまうと、株そのものが”怖い”となってしまうこともありますし。」
杉原「そうですね。難しいところです。実際、私も何度も数百万円単位で痛い目にあっていますし、株って取引を続けていれば絶対に失敗はするものだと思っています。だけど、自分の失敗から得られる教訓こそ、最大の学びだとも思う。だから、まずはやってみて失敗も経験してほしい。そのとき、”なんで失敗したんだろう?”と追求してほしいですね。自分が好きでもない、興味もない業界の株なのに”儲かりそう”と聞いて買ってしまったからかな、決算書をあまり読まなかったからかな、誰かがいいと言っていたのを聞いてよく調べずに買ってしまったからかな、ストップ高、三連騰といったキーワードに惹かれてしまったのかな……と。」
株式投資は長期の人も短期の人もいて、買い方もバラバラで、何が正解という答えはないと思います。でも、どこで自分がつまずいて失敗したのかを知ると、必ず次に活かせます。それは初心者でも、ベテランの人でも変わらないですよね?
小屋「失敗したら振り返って、ちょっとずつ改善していこうということですよね。たしかに、その修正能力が高い人のほうがうまくいきますね。」
杉原「性格も売買方法もそれぞれですから、1人ひとりがマイ・ルールを作っていくこと。そう考えると、じつは普段の本業のお仕事と変わらないですよね。私の場合、株式投資の経験で決断力はついたと思います。どうしようかな、誰かに相談したいな、と思うことは今もありますけど、最終的に自分で決められる。株式の売買では1分1秒でも値段が変わっていくので、今、決断を下さなくちゃ!という場面がたびたびあります。仕事でメンタル的にショックなことがあっても、”いや、あの時の何百万円か損した取引に比べたら別に大丈夫”と切り替えられる。だから、投資を通じて自分がちょっと強くなれた実感があって。それはいいことだなと思っています。」
(後編へつづく)
株式会社マネーライフプランニング
代表取締役 小屋 洋一
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