千葉銀行とその証券子会社、及び武蔵野銀行に行政処分が下されました。
この無茶な金融商品(EB債)については数年前からこのメルマガでも取り上げてきましたが、やっと行政処分が下されました。
主な処分理由は、
1)顧客属性を確認及び検討しないまま、顧客を仕組債購入へ誘引している状況
2)内部管理態勢が不十分な状況
関東財務局の公表によると、再発防止に向けて実効性のある業務改善計画を速やかに策定し、着実に実施すること、と書かれています。
いわゆる行政処分ですが「これだけ?」と、誰もが感じそうです。
顧客への損害賠償や損失補填、役員辞任などは出てくるのか。
そもそも、顧客属性を無視して販売してはいけないと言う「適合性の原則」や、販売・管理における内部管理体制の強化と言ったものは10年以上も前から指導されていたものであり、今さら感がありますが、この商品自体の問題点についてはリスク評価が難しいと言った書き方以外には殆ど言及がありません。
何度も書いている通り、この商品はリスク評価どころか全く投資に値しないものであり、ここ数年販売されていた組成条件であればプロは絶対に買わないし、知識に乏しい素人にしか売れない商品であったという事です。
専門家から見れば金融商品と言うより詐欺商品に近い認識ではないでしょうか。
期間1年以下の短期金融商品であるにもかかわらず、組成業者(主に外資系金融)及び販売会社(銀行や証券会社など)に併せて5%~15%もの手数料が抜かれて設計され、そして短期間で償還され易い条件にして繰り返し販売できるように設計されているなど真っ当な投資商品では有り得ません。過去から何度も問題になっていたのに野放しになっていた事にも呆れます。
金融当局が管轄下の銀行や証券の収益に配慮していたのか?結果として多数の金融機関が無茶な販売を続けたことで問題が拡大したため、やっと重い腰を上げ、杜撰過ぎる一部の金融機関に行政処分を下した・・・と言う構図に見えます。
余談ですが、行政処分や業務改善命令と聞くと、さも大変そうに聞こえますが、言い方が大袈裟なだけで、それほど厳しい処分とは思えません。
平たく言えば、その金融機関にとっては信用の棄損はありますが、加えて当局への報告や書面提出などで余計な作業が増えただけであり、関係の薄い部署の役職員にしてみれば「あ~ぁ、やっぱり。ヤリ過ぎたね。」くらいの話です。
行政処分で銀行が潰れるとか、役員全員が辞任したなどは余程(犯罪的)悪質なケースを除いて聞いたことは無く、経営陣が委縮する・・・と言ったイメージです。
何処の省庁でも大半の行政処分は形ばかりで、管轄業界を守るために最低限の指導をしただけと感じたことが多々あります。特に天下りを受け入れている主要企業に対しては甘くなりがちなのでしょうか。
そして処分が下されると、千葉銀の例でいえば、総務部や法務部が中心となって業務改善計画書を作る訳ですが、その中身には、
1.法令違反行為が放置されないような組織づくり、
2.より厳格なマニュアルの作成、
3.それらの管理態勢、
4.今後の営業員への指導方法や研修の回数
などが記されます。
当たり前のことばかりですが、当たり前のことが出来ていない金融機関を野放しにしていた訳で、罰則が厳しくないため管理態勢も緩いままに収益が優先された、という実態の裏返しでもあります。
財務局HPによると、この再発防止策の書面を7月24日までに提出し、その後の経過を四半期毎に報告する、となっています。
この日までに千葉銀の担当部署と財務局との間で文章校正などのやり取りがあり、最終的にこの日付で提出される改善計画書と考えて頂ければよいです。
物足りない内容であれば記述が増えるなどで長引き、バックデイトになることもあります。
財務局側も上司への確認をしつつですから、何せ時間がかかります(苦笑)。
つまり何が大変かと言うと、処分が下されると文書作成などで財務局とやり取りする部署や社員が無茶苦茶忙しくなるという事です。それら書面作成については弁護士など専門家の協力も得つつ(金商法に詳しくない)役立たずの上司や役員にもいちいち承認を取りながらの作業ですから、それはもう可哀想なのは管理部門の職員達です。
恐らく、この現場の人達こそが販売方法の危険性を憂慮していて(左遷されない程度に)上司にアドバイスしていたはずです。が・・・、その直訴も空しく不正な販売が続けられ、処分を受けたら今度は管理態勢整備や書面作成を押し付けられるのですから、これはもう筆者から見たら悲喜劇以外の何物でもありません(苦笑)。
そして(素人レベルの)社長または頭取から叱責されたコンプライアンス担当役員は各支店長へ再発防止の通達をし、コンプラ担当社員が営業員を集めて(分かり切った)コンプライアンス指導をする・・・と言う手順でしょうか。
経営陣や職員の大半がこの売り方は不味いと分かっていたはずですが、数字を作ることが正当化(優先)され、慣れと共に販売が拡大していったと思われます。
カンポ生命の不正販売と同じ構図です。
そもそもの問題点は何かと言えば、自身のポジション保持のために、工夫や責任感も薄いままに漫然と部下に収益拡大を押し付けていた経営陣の不作為にあるのですが、これら経営陣(特に経営トップ)はどのように責任を取るのか?そしてこれら以外の金融機関においても、どのように経営を改めていくのかを見ていかねばなりません。
他の金融機関にしても、顧客を騙して利益追求した彼ら確信犯が役所の天下り先確保のために温存されるようでは困ります。
2021年だけで4兆円、累計で10数兆円も販売されたEB債問題がこれで(一地方金融機関の書面提出だけで)幕引きされるようでは日本の金融業界の先行きは暗いものになるでしょう。
(街のコンサルタント)
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