前回のインタビュー記事の後編をお届けします。
今回は世田谷でイタリアンレストラン「エノテカオルチャ」を経営するオーナーシェフ、富田泰正さんに登場していただきます。
外資系の大手IT企業を59歳で退職後、ご夫婦でイタリアに1年間留学。
ずっとやってみたかったイタリア料理を学び、エノテカオルチャをオープンされました。
その他にもジャズ、太極拳、落語と多彩な趣味を楽しまれている富田さんは、まさに幸せなお金の使い方を実践されているように思えます。
60代、70代に向けてどんな準備をしたことが、自分らしい人生を楽しむ今につながっているのでしょうか。そして、人生における幸せなお金の使い方とは?いっしょに考えてみましょう。
前編はこちら ⇒ http://okuchika.net/?eid=11175
●オーナーシェフとしてイタリアンレストラン「エノテカオルチャ」をオープン
小屋「帰国後、『エノテカオルチャ』をオープンするまではしばらく間がありましたよね。
富田「準備期間がほぼ2年ありました。帰ってきたときには、本格的にレストランをやりたい気持ちが芽生えていて、周りの友達からも「やるんだよね?」と言われ、自分なりに「どんな規模の店にするか」「どんな料理にするのか」をシミュレーションし始めたんですね。言わば、前半がやる気を醸成していく1年で、後半が物件探しの1年でした。この場所がみつかったのが、2017年の5月。賃貸契約をしたのが7月で、新築だったので店内のデザイン、調理機器の選択、工事等々で半年ほどかかり、オープンしたのが年末です。」
小屋「奥様も手伝ってくださっていると聞きましたが、基本的には富田さんがオーナーシェフとして1人でやっていらっしゃるんですよね?楽しさと大変さ、ご自身のなかではどのようなバランスですか?」
富田「調理、接客、予約や金銭の管理はもちろん、コーヒーをお出しするのも、ゴミの片付けも、お店で起きることはどんなに小さなことでも自分でやらなくてはいけない。これは大変ですが、5年も続けているとだいぶ要領がよくなってきますね。家内は木曜と金曜に手伝ってくれているんですが、小さな店なのでお客さんが全然来ないときもあるんですね。そういうときは2人で好きなワインを開けて、「会社で勤めているときは、こんなに話したことはなかったね」と酒盛りしています。そんな時間を持てるのもしみじみうれしいですよね。」
小屋「お店をやっていての喜びはどんなところで感じられていますか?」
富田「ここで料理を食べてもらって、「ああ、こんな料理があるんですね」「おいしかった」と言っていただける。私たちがレストランで食事をする理由はいろいろあると思うんですけど、そのニーズに対して、小さな店ですが、応
えられていると感じるときは充足感がありますね。こういう住宅地のなかで、歩いて数分のところにおいしいイタリア料理が食べられるお店があるということで、街の食の豊かさにちょっとでも貢献できているなら、うれしいですね。とはいえ、社会的に大事なことをやっているわけではないですよ。自分のやりたいことですから。」
●夫婦ともに40代、50代で新しいことに取り組んだ結果、彩り豊富な人生に
小屋「店内に落語会の告知のチラシがいくつか貼ってありますが、これは?」
富田「これは家内が席亭として主催している落語会なんですよね。小屋さんに相続の相談に乗ってもらった家内の実家のお寺を会場にした落語会で、定期開催するようになって3年目です。」
小屋「そうなんですか。」
富田「家内はこれをやる前から、ずいぶん落語を聞きに行っていて。大好きなんですよね。それで、応援したくなった若手の人、二つ目(入門後、前座を数年務めた後に昇進する階級)の人たちの活動場所を提供したいと思って落語会を始めたみたいです。丸2年続けるうち、だんだんと定着してきて今は毎月第2日曜日の午後2時からになっていますね。」
小屋「高座に上がる噺家さんのファンの人たちが集まる感じですか?それともお寺の近くの方々がいらっしゃる?」
富田「両方ですね。噺家さんのファンの人、この落語会のファンになって毎月来てくださる人。あとはこのお店でチラシを見て来てくださる人もいます。あとね、家内はお能も習っているんですよ。舞うのと唄うのを両方。それで、
年に1回、能楽堂で発表会があるので、いつも家で練習しています。」
小屋「落語はまだしも、能はなかなか縁遠い世界という感じがしますが、奥様どうしてやってみようと思われたんでしょうね?」
富田「やっぱりイタリアから帰ってきて、逆に日本の伝統芸術に興味を持つようになったみたいですね。」
小屋「ご夫婦揃ってバランス良く趣味をお持ちで、お店も一緒にやれられて、すごく理想的ですよね。これは意図して、そうなった感じですか?」
富田「好奇心が先にあって、計画的ではないです。たとえば、家内はずっとドラムやキーボードをやっていて、バンド活動をしていたんですよ。でも、そっちはコロナ禍が始まって活動休止になり、そこから落語、能に入っていって、今はバンドに戻る時間がなくなってしまいます。私は私で50歳からトランペットを始めて、バンド活動をしていたんですけど、それも休止になり、今度は家内の影響で落語を習い始めていますし。」
小屋「お二人とも40代、50代で仕事とは別の何かを始められているんですね。」
富田「そうですね。子どもたちが独立して、趣味をみつけていった感じですね。たしか、家内が美大に通ったのも50代になってからですから。それもまた勢い任せのようないきさつがあって、当時、家内は勤め先を退職し、何か別の仕事を探そうとデッサンの学校に入ったんですね。そしたら、その学校は美大受験のために若い子たちが通う場所で。家内は同級生たちに刺激を受けて、「じゃあ、私も受けちゃおう」となったらしいです。これは私も最近になって聞いた話なんですけどね(笑)。」
小屋「お二人とも新しいことに挑戦して入り込んでいくことを楽しめちゃうタイプなんですね。」
●お金の心配、心理的なブロックを乗り越えるために役立つのは、好奇心に素直になること
小屋「富田さんは、事前にいろいろと準備をして、これくらいのリスクだったら自分の資産の範囲でやれるという線引きをして新生活をスタートさせています。ですから、そこまでお金の面での不安を感じなかったのだと思います。
でも、うちのお客様は僕から見ても十分な資産があり、ライフスタイルに合わせた楽しみを追いかけても大丈夫なのに、お金を使うことへの不安が大きい、心配だと言われる人が少なくありません。そういった新しいことへの一歩が踏み出せない人に向けて、あらためてアドバイスをいただけますか?」
富田「お金の心配は私もないわけじゃないですし、やっぱりしょっちゅう自分で資産の状況を見て「大丈夫なのかな」とチェックはしています。でも、それ以上に新しいことをやってみて、「よかったな」と感じることが多いんですよね。レストランはもちろん、50くらいで始めた趣味のトランペットや太極拳もそうですし、最近習い始めた落語もそうですが、昔はできなかったことが能力としてできるようになっていくうれしさ。さらに、関連する知識が増えることで、その先にある今まで知らなかった興味に気づき、もうちょっと勉強したいよね、調べたりないよね……と好奇心の奥行きがどんどんできていくんですよ。このプロセスがおもしろいし、その過程でいっしょにやってもらえる人との出会いもあって、単なる普通の友達以上の付き合いもできる。これが本当にいいんですよね。」
小屋「仲間が増える。」
富田「そうですね。60代後半になっても「ああ、知らなかった」みたいなことはたくさんあるし、出会う人は若い人がほとんどですけど、学ぶことも多いですし、人生の残り3分の1をしっかり生きている感じがします。」
小屋「僕たちはお客様のコンサルをするとき、お金の心配は僕らが解決しますから、もっと好きなことにチャレンジしてもらいたいな、自分の人生をちゃんと楽しんで生きて欲しいなと思っているんです。」
富田「踏み出せる人、踏み出せない人の違いというところで言うと、やっぱり刺激やインプットの差なのかなと思います。私や家内は本当にほんの一例に過ぎないと思いますけど、好奇心に素直にいろいろ体験してみると、いいんじゃないかと思います。それで、自分に合っていないなと感じたときは、やめればいいじゃん、と。考え過ぎると動けなくなっちゃいますから。興味を持ったらまずはやってみましょう。」
―了―
株式会社マネーライフプランニング
代表取締役 小屋 洋一
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