日本企業はよくも悪くも欧米企業に比べて横並びの傾向がありました。時代と共に日本の経営者の質も格段に上がってきており、最近では「競合他社はどうしているのか??」という質問をする経営陣はめっきり少なくなっています。
自社株買いと配当を合わせた総還元率では期間利益の半分程度を目安に還元するという企業が珍しくなく、昨年に続いて今年度も自社株買いの枠は兆円単位で相場を下支えしそうです。
積極的な投資家への還元の背景には、昔に比べて銀行借り入れなどのコミットメントラインの設定が長期化できていることもあります。かつてはコミットメントラインも1年の枠であったのが、3年を超える中期的な枠を提供できる銀行も少なくありません。コミットメントラインがあれば、M&Aや経済危機にも対応できるようになります。
しかし、そうはいっても、コミットメントラインには銀行に有利なブリーチ条項が多数ちりばめられており、たとえば、期間利益が一定水準を下回るとコミットメントラインが機能しなくなってしまうリスクがあるのです。
何があっても絶対に貸し出しの前提条件が大丈夫という企業はほぼ存在しません。一部は存在します。たとえば多額の含み益がある大手財閥系などは経済危機があっても、その含みが銀行を安心させるので不況期にも信用不安は起きないのです。
キャッシュリッチ企業が多すぎるというのがわたしの素直な日本の上場企業に対する思いです。しかるに、ワーキングキャピタル程度の余裕資金(多くは売上の2-3か月分のキャッシュ)は必要ではないかと訴える経営もまだ多いのが実情です。銀行を心の底から当てにはできない日本の金融への不信感が企業経営者にはまだ根強く存在しています。
普通に考えれば、需要の先行きが厳しい日本において、護送船団方式を貫き、供給過多の金融機関が乱立する日本です。需要はダメ。供給もダメ。それが法人貸し出し市場の現状。
また、多くの上場企業が銀行に対する不信感を抱いていることは残念なことだと思います。
数年前にMSワラントなるものが流行しました。その背景も、「銀行が機動的にお金を貸してくれない」という企業側の不満が背景にありました。晴れの日は傘を貸すが雨の日には傘を取り上げるとも揶揄されることもあるのが日本の銀行なのです。銀行とはそういうものだという諦めが日本の経営者にはあるのでしょう。
日本上場企業の資本効率が米国のそれに劣る背景は、日本の経営者の銀行への信頼度の低さにあるとわたしは感じることがあります。
間接金融が期待できないので、直接金融を信頼したいと経営者は考え始めているのですが、市場もまた、気まぐれで、経済危機のときは株価も安く、資本コストもべらぼうに高くなります。経営者にしてみれば、経済危機のときに、市場からの超割高な資本コストでの調達は避けたいわけです。
経済危機のときに、資本コストを割高にはしないようにするにはどうしたらよいのか。それがエンゲージメントの目的のひとつでもあるのです。
ひとつの方法は、長期投資家の育成です。株価が下がればチャンスと見る、経済危機をチャンスと見なせる人間を育成することが危機における資金の出し手を増やすことになるのでしょう。カネ余りの時代背景もあり、長期投資家の育成は社会的に重要な課題なのです。日本の経営者が市場への信頼度をさらに高めるには、より市場の参加者に「厚み」が出てくることが肝心です。
概ね、時代はその方向に進んでおり、直接金融市場への経営者からの信頼は徐々に高まっていると感じます。貯蓄からリスク資産への資金のシフトも始まっており、日本の投資家は育ちつつあります。さらに、世界を見ても、同様に投資家のすそ野は広がりつつあり、外国人投資家の存在は今後もさらに高まっていくでしょう。
直接金融が経営者にとって信頼に足るものになるのかどうかは、市場の厚みと懐の深さに依存するのでしょう。様々な投資家層が存在することが大事で、わたしは長期投資家なので、前向きな先行投資も将来への布石として許容できます。ですから、企業が前向きにお金を使うならば、応援したいと考えています。短期の業績が悪くても、それは将来にとっての必要なコストであると思うからです。
わたしたち長期投資家は、経済危機も、投資の大チャンスと感じるのが常識です。
ですから、経営者には、間接金融だけではなく、直接金融も大いに信じてくれと訴えているところです。経済危機に資金を拠出できないようならば、長期投資家とはいえないと思うからです。
長期投資家のすそ野を広げることができれば、それは、企業の資本効率を高めることにつながるのであるとわたしは考えています。そして、時代はそれを後押しています。
キャッシュリッチ企業こそが、還元の余力があるわけで、わたしはそれを期待したいと思います。今後も、数年に渡り、投資家への還元姿勢は高まっていくと期待しています。
(NPO法人イノベーターズ・フォーラム理事 山本 潤)
(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。万が一、事実と異なる内容により、読者の皆様が損失を被っても筆者および発行者は一切の責任を負いません。また、内容は執筆者個人の見解であり、所属する組織/団体の見解ではありません。)
コメント
コメントを書く