=勝利の方程式を満たす銘柄群は存在する=
前回紹介した「勝利の方程式」を満たす投資対象はあるのでしょうか。
多数あるのです。
たとえば省人化のサービスです。
省人化とは人の仕事を機械やITシステムで置き換えることです。
たとえば昔は目の良い若い人を大量に目視検査などに動員していましたが、いまではCMOSセンサで無人で行うようになります。多くの製造業は労働力をアジアなどの低賃金国に依存していますが、新興国の労務費は毎年のように上がります。すると人件費を代替できる製品やサービスの価値も毎年のように上がることになります。
テクノロジーの発展により人の仕事を置き換える領域はますます増えていきます。単純作業から仕事はロボットなどの自動化設備に置き換えられています。
数量増が期待できる市場は多数あります。
人の仕事を置き換える自動化関連の市場は対象がヒトであるため、世界の人口がこれからも増えるため、全体の市場も成長していくでしょう。また、テクノロジーの進展で置き換えることができる領域が広がり、ますます省人化の関連市場は拡大していくでしょう。
そして価格の上昇も前述の通り期待できます。
人件費は毎年のように増加していくのですから、代替サービスの価格も上昇していくわけです。
条件の2つ目の競合との対比で市場シェアが上がるかどうかは、実際の製品やサービスを調査し分析することである程度の目途はつきます。経験則に照らせば、やはりトップ企業が不況期にシェアを伸ばす不景気を楽しむかのような思い切った経営判断をする場合が多く、わたしはシェアトップ企業への投資を優先するのが戦略の基本でした。
もちろん、費用と売上の関係にテクノロジーやイノベーションの影響を考慮することもできます。わたしなりに、「長期投資家にとってのよいイノベーション・トレンドとはなにか」を定義していきました。
=長期投資家にとってよいトレンドとは 単位当たりの費用という考え=
わたしはアナリストになってから、社会人学生としてコロンビア大学と東京理科大学で電気工学を学んだのですが、運用の仕事上、工学の知識は必要なものなのです。
工学とは経済的で実用性のあるものを研究する学問です。理学は原理原則を学ぶ本質的な学問ですが、工学はそうではありません。いくら便利でも高価すぎるものは社会には普及しません。高価なソルーションは技術としては使えない技術になります。
工学の知識はソルーションが経済的であるという意味で投資に役に立ちます。工学知識によって長期のトレンドと技術のトレードオフとの関係がわかるようになるからです。
技術動向はどの技術領域にもありますが、テクノロジーには法則があります。自然と、より安価でより付加価値の高いものを人々は訴求していくことになります。
前述の「勝利の方程式」では商品価格の上昇を3つ目の条件としてあげています。しかしながら、名目的な価格というよりは、投資にとっては単位費用あたりの売上という比率が重要なのです。
つまり価格は下がっても、費用がそれ以上に下がるのであれば収益性はむしろ改善します。あるいは限界利益率が維持できていれば増収による固定費である設備や人の稼働の改善(生産性改善)で増益率は高まります。
イノベーションの普及期には価格弾力性が高いので、少しの価格低下であっても需要が伸びるという現象もあります。
価格弾力性とは、価格の変化に対する需要の変化の割合のことです。まだ普及がし始めたばかりの商品は、みなが気になる状況にあるため、価格が少しでも下がると買いたい人がかなり増えるわけです。そういう意味では画期的な新商品はいつも株式投資にとっても重要な分析対象になるわけです。
新製品の普及期では製品の性能が上がっているのに価格が上がらない場合も多く、消費者には製品を買い替えるインセンティブが働きます。長期投資に普及に沿った需要の増加パターンを活かしたいとわたしは考えました。
市場の拡大を想定するときに、経済学には「イノベーションの普及曲線」というものがありますので、なるべく普及率が低い商材を投資対象にしたいのです。
このとき、普及率の想定は慎重に行うべきです。一家に一台というような普及の前提で普及を考えてしまうと将来性を大きく間違えることがあります。
実際には一家に一台ではなくて、一人で複数台となるようなパターンも多数現れてしまうのです。そうなると投資では利食いが早くなりすぎて困ります。
わたしも間違えました。
1990年代のことですが、デジタルカメラの普及期にわたしは一家に一台ではないかと想定していましたが間違っていました。一人が複数台持てる時代になっていたのです。
これから普及するだろうという商材に注目するだけに留めておいて将来の市場規模などは最初から固定しないでおくのが投資家としてはよい態度です。
価格が安くなると電気自動車も一家に一台ではなくて一人複数台になる可能性もあります。
単位当たりの費用を全社ベースで計算するには以下の方法でラフに推定します。
売上と純利益との差額を費用とします。
売上を費用で割ります。
売上費用比率は純利益率の代替指標ですが、マイナスになることがないので時系列計算に継続性を持たせることができるので統計処理には(ときに負の数となってしまう)純利益率よりも適しています。
売上費用比率が落ちない、ブレが小さい、着実に上昇している企業は、その背景に勝利の方程式が絡んでいることが多いのです。
=テクノロジーの本質は費用対効果の改善 表面積と体積との違い=
単位費用あたりの売上とは売上と費用との対比で出せるものですが、演繹的に費用と売上の関係を長期のトレンドとしてとらえるのがよいのです。特に長期トレンドがテクノロジーの進化に関連しているケースも多々あります。
たとえば空間を売る商売があります。オフィスを賃貸する企業を想定してく
ださい。
この場合、体積が付加価値、表面積がコストです。
体積が付加価値で表面積がコストの場合は、大型化を志向するとスケールメリットが得られます。
オフィスビルディングの場合、高層にすればするほど容積は増えます。賃料は容積に比例すると思います。
ところがビルの建材はというとオフィスの中身は空気ですから、体積ではなく、むしろ表面積に比例するといった方がよいのです。
費用は表面積に比例し売上は体積に比例するという関係があります。
都会では人口が多く需要が満たせるため、ビルは、建て替えのときに、以前より、大きく高くなる傾向があります。
この表面積と容積との関係は費用と付加価値との関係ですから、ビルだけの現象でありません。冷蔵庫もそうですね。どんどん大型化しています。
軽自動車の車内空間もどんどん大きくなっていませんか。鉄板を少し余分にするだけで容積が増えて利便性は高まるのです。
競争相手もありますのでこの議論は割り引く必要はあります。
なるべく競争がない領域を探すことが肝心です。つまりシェアが高い事例を多く知ることが投資家の仕事の一部です。
その場合、売上はより広い敷地により高いビルディングを建てると、売上と費用との関係は改善すると考えます。後はその机上の仮説を、30年前と今、50年前と今とで比べてみるとよいでしょう。
一方で、重さ(体積)がコストで、表面積が付加価値になっているものも多いのです。
たとえば触媒です。
この場合は表面積を増やすためにどんどん小さくするのが理に適っています。
立方体を縦横高で半分にするだけで、表面積は2倍になります。半分の半分
にすると4倍になる。
このように微細化をしていくと、単位コストあたりの付加価値は増大してい
く。触媒以外にも半導体などはそのようなものの代表です。
投資家の仕事の一つは売上の伸びよりも費用の伸びが小さくなるパターンが
長期で継続する領域を沢山あることをまずは知ることです。
このような費用と売上の関係はいたるところに見出せます。
逆に容積を活かすことで都市は人口を吸収していきます。
タワーマンションなどが典型例です。
エレベータ1分で最上階まで数百人が行き来できるマンションの入り口にコンビニがあればそのコンビニは繁盛するでしょう。
コンビニの普及の背景にはもちろん、社会的な長期トレンドである都市化の進展があります。都市化とは大都市へと周辺の農村の人口が引き寄せられるという一般的にどの国家のどの時代にもみられる現象です。
企業の成長の背景に都市化が関連している場合がほとんどです。
都市化は事業運営の効率をよくする方向に働きます。
テクノロジーとして費用と売上の関係がよいものは多数ありますが、たとえば半導体です。
半導体は微細化といって電子回路を小さくすればするほど電子の移動距離が近くなり演算のスピードがあがります。高密度化することで付加価値が上がるのです。これはタワーマンションと同じ理屈です。
現在の半導体は3Dといってトランジスタの高層ビルを積み上げるような構造になっています。
電子部品に受動部品コンデンサというものがあります。
コンデンサは主に電気を蓄えることができる機能を持ちます。コンデンサの容量は絶縁膜を薄くすると増えます。つまり、絶縁膜の材料費用は減るのに容量は上がり、製品としての付加価値は向上するのです。膜が薄くなると原料が少なくて済みます。長期トレンドとして段階的に絶縁膜は薄くなっています。
コストを増やさずに利便性を高めるものとしては、箔やフイルムがあげられます。
例えば光学フイルムがあります。
薄くすると光の透過率は向上します。性能が上がり付加価値は増加します。
テレビは大きな画面の方が高価に販売できます。ところフイルムを延伸するだけならばコストは増えていません。
また、一般的に移動体は軽くするとより少ない力で移動できます。
モーターは材料を薄化すればそれだけ回転数が上がります。
自動車は軽くすればするほどスピードは速くなります。
スピードが速くなれば物流設備としての投資効率は上がります。少ない台数で以前と同じ量の仕事がこなせるからです。
そのような背景から、たとえば、列車の技術トレンドも軽量化ですし、部材は重いものから軽いものへと変わり、さらにより薄くなってきました。結果として移動スピードも徐々に上がってきました。
電車のスピードを倍にすれば使う車両数も半分で済みますので運輸企業にとっては設備投資が半分になります。鉄道会社などは、駅や線路を基本的に地域独占しており、競争が起きにくく価格競争には陥りにくいので投資の対象になります。
一方で港や空港を他社と共有している海運や空運は価格競争に明け暮れています。価格が需給で決まり市況が出来上がってしまうのです。これでは長期の投資の対象にはなりません。
細かい領域を見ていくと、小さなコストで大きな成果が出せる領域は多数見つかります。表面を荒らすだけのエッチングであっても、表面積がものいうような電極(化学反応の界面)ではとても威力を発揮します。太陽電池や半導体や電池や触媒などは長期のトレンドとして表面積の拡大が続いています。
どれもカーボンニュートラルの時代には大きく成長するものばかりです。
このように、費用と売上との関係にはよいトレンドが見いだせる場合が多々あります。費用を増やさないで性能を上げることができるパターンをこれから沢山見出していきましょう。
(次回に続きます)
山本 潤 セゾン投信共創日本ファンド ポートフォリオマネージャー
【お知らせ noteの執筆開始】
セゾン投信の国内株式運用部ポートフォリオマネジャーの山本とシニア・アナリストの大月が長期投資のだいご味や業界の深堀レポートをコラムにしたnoteを始めました。
https://note.com/saison_am/magazines
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