【拡大再生産の背景 資本の成長率の方が人件費の増加率よりも高い】
ここからは、企業がよい投資先がある状況を仮定し、利益の拡大再生産ができると仮定します。競争も厳しくなく、収益性の指標であるROEが長期に維持できると仮定します。
すると一株当たりの純資産であるBPSの成長率はROE×(1-配当性向)となります。ROEの水準の高さと配当性向の低さで複利効果が期待できるわけです。拡大再生産ができるという前提ですから。
一般に、ROEは配当利回りよりもずっと高いものです。
また所得の伸び率よりも企業の資本の伸び率の方が高いとトマ・ピケティは著書「21世紀の資本」(みすず書房2014年出版)で示しました。
資本収益率(=r)が経済成長率(=g)よりも高いという不等式が話題になった本でした。(r>g)
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ピケティの主張は至極当然のことで、経済成長率というのは、例えばみなさまのお給料の増加率のことです。これが複利でずっと増えるかというと残念ながらそうではありませんでした。
社会全体では新陳代謝が起こります。
グローバル規模では賃金の安い国から高い国へ出稼ぎが生じます。また、企業においては年老いた社員が順次、退職していく。そして給料の安い新人が毎年入ってくる。だから企業の人件費はそれほど上がらないような仕組みになっています。
一方で事業の収益性はROEです。こちらは様々な追い風が企業のROEを支えます。スケールメリット、技術革新による生産性の向上が見込めたからでした。
ピケティの主張は至極当然のこととわたしは言いましたが、一言でその正しさを表せば、人には寿命があり、法人には寿命がないという一事で説明できることです。グローバル大企業であれば長期で物事をデザインできます。時流に合わないものをやめ、時流に乗るものを始める。一方で人の寿命は有限ですから、給料の高い年寄りが辞めて給料の低い若者が入ってくる。そして給料の低い新興国に企業は拠点を移していくことができます。
一般に、ベースアップや年功による昇給率よりも営業利益率やROEの方が高いわけです。配当性向3割程度としてROE8%とするならば5-6%の複利で資本は伸びていく。それが企業の規模の成長へとつながり、キャピタルゲインの源泉となっていきます。
一方で給与は毎年のベースアップは1-2%程度ですから資本の成長には追いつきません。
実際には労働者にはかなり厳しい事実があります。
厚生労働省の統計である毎月勤労労働調査によれば日本の給与は1996年から2015年までの20年で年率平均0.6%で下落したのです。その間、日本の上場企業のROE平均はずっとプラスでした。日本の賃金は減り、上場企業の資本は増えたのです。
【拡大再生産のパターンについて】
企業規模が成長するには、利益をキャッシュのままにしないで再投資をしていく必要がありました。雇用などを拡大して設備を拡充するなど、利益を内部留保してそこから再投資をして事業を拡大していく。それにより企業規模が大きくなるのです。それができた企業が前述の信越化学のような成功企業なのです。
投資家の仕事のひとつですが、投資先の事業内容をよく吟味して、その事業がこれから伸びるのか。社員数や事業所の数や資産そのものをスケールアップできるかどうかを経営者と一緒に考えていかなければならないのです。
事業をする。利益がでる。その利益をどう配分するか。
第二の条件である拡大再生産を選択する場合、利益を投入すべきよい事業が存在しているかどうか。そして、その領域で活躍できる社員がいるかどうか。
そもそも企業が属している市場が成長市場で競合が少ないのでればとても幸運です。あるいはなんらかの理由で市場規模は拡大しなくても、市場占有率(シェア)が向上できるならば、それでもよいでしょう。
ただ闇雲に積極的な投資を成熟市場にしても企業は成長しません。
やはり収益性の高い事業や成長を見込める事業への投資を優先するべきでしょう。投資効率が高く、投資の早期回収が見込まれるものを厳選して企業は投資をしようとするのです。
将来は誰にも正確には予想できません。将来の不確実性が事業リスクであり株式投資のリスクの本質です。
(次回に続きます)
山本 潤 セゾン投信共創日本ファンド ポートフォリオマネージャー
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